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手向山と斉藤実盛のこと

作者: 小城

 今は昔、越前国に手向山といふ山あり。人々此の峠に拠りて旅の安寧を祈願するに拠りて手向山といわれ侍るなり。あるとき、ひとりの僧越後国へ往かむとしてこの峠に掛かるなり。山の上に着くにこの僧も旅の安寧を祈らむとす。さて祈り終わりて峠を降りなむとするに道の脇にひとりの人屈み侍る。旅の僧「是癪を起こしたるや。」と問ふにその人曰く。「我草に足を取られて動き難し。」と。旅の僧の見るにその人齢老齢なりしが髪黒くして染めたる様子なり。旅の僧是を見るに話に聞きたる斉藤別当なるものこの辺りにて討ち死にし侍ること思ひ出すなり。僧曰く。「さては汝斉藤別当なるものか。」と。その人曰く。「如何にも吾斉藤別当実盛なり。」と。僧曰く。「汝稲に足を取られて動き難しなるや。」と。その人曰く。「如何にも。」と。僧曰く。「然るに吾今まで稲といふものを見たることなきなり。偈にものめづらしきものかな。みやげ話に吾に見させ申し候や。」と。その人曰く。「生憎吾も稲といふもの見申し侍らず候。」と。僧曰く。「可笑しきことかな。汝さきに稲に足を取られて動き難しとぞ申す。それ偽りなるや。」と。その人曰く。「実に誤りたるなり。」と。僧曰く。「其れは残念なり。然らば汝何ものに足を取られたるや。」と。その人曰く。「吾足を取られたるにやあらず。」と。僧曰く。「是可笑しきことかな。然らば何故汝此処に屈み侍るや。」と。その人曰く。「吾癪を起こしたるや。」と。僧笑ひて曰く。「是又可笑しきことなるや。吾未だ斉藤実盛の癪を起こして動き難しを聞かず。」と。その人黙りけるに僧曰く。「癪ならば吾此処に薬を持ち候なり。此を差し上げ候。」と胸より袋を取り出して中より一粒をその人に渡し侍るなり。その人その薬をもらひて口に含み侍りて曰く。「実有り難きことに候。おかげで癪も治り候や。」とすたすたと歩む往くなり。僧曰く。「此零余子は癪にも験があり候や。」と。のちに聞くに此の僧名を一休禅師とぞいふなりと。

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