表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水滸幸伝~王倫・梁山泊にて予知夢を見る~  作者: シャア・乙ナブル
86/167

第八十六回 蔡州の聞煥章

蔡州(さいしゅう)羅真人(らしんじん)(しめ)されこの地に着いた孔明(こうめい)孔亮(こうりょう)の兄弟は知恵者(ちえしゃ)として知られる聞煥章(ぶんかんしょう)という人物と面識(めんしき)()る事に成功していた。



※聞煥章

私塾(しじゅく)をひらいている文人(ぶんじん)だが、広く兵法(へいほう)を心得る秀才。出世を願わず平穏(へいおん)な暮らしを望む。同窓(どうそう)の友人に宿元景(しゅくげんけい)がおり、(ほか)にも朝廷(ちょうてい)には多くの知り合いがいる。



孔明、孔亮の二人はこの人物が(なみ)の知恵者ではないと実感(じっかん)し、連日(れんじつ)(かよ)い親交を深める。聞煥章もまた学問に熱心(ねっしん)な二人に好感を持った。


兄弟は平穏な暮らしを望むこの人物を()()もれさすには()しいという意見で一致(いっち)。その(ため)にもっと深く聞煥章を理解しなければいけないと考えていた。


一方の聞煥章も二人の熱心さの裏には、何か(すじ)の通った信念(しんねん)の様なものを感じ取っていたのである。


呉用(ごよう)諸葛亮(しょかつりょう)なら聞煥章は司馬懿(しばい)になり()ると確信(かくしん)した二人はある時彼を料亭(りょうてい)(まね)くのだった。


「聞煥章殿、ようこそ来てくれました」

我等(われら)招待(しょうたい)を受けてくれた事、感謝します」

「いえいえ。今日はありがとうございます」

「ささ、そちらにお座りください」


三人は席に座り食事をしながら談笑(だんしょう)を開始する。雰囲気(ふんいき)は良く、頃合(ころあ)いを見て孔明はこんな話題を投げかけた。


(いにしえ)賢人(けんじん)達もこんな風に集まり世の中について語り、傑物(けつぶつ)達の話に花を咲かせたのでしょうか?」

「ははは。そうかもしれませんね」

「私と孔亮は学問の大切さを知り、こうして聞煥章殿と知己(ちき)を得るまでに(いた)りました。その経験から言わせてもらえれば()は武に。()は智に(ひび)く様に感じます」

「……なるほど。()()(みょう)です」


武を(こころざ)す者は同じく武を志す者、智を得ようとする者は同じく智を得ようとする者と引き寄せられるようだと語った孔明。


「ですが今のこの時代、一部の奸臣(かんしん)が権力を(にぎ)りやりたい放題(ほうだい)。武芸や(がく)向上(こうじょう)させてもそれを()(とう)()かせる事など出来るのでしょうか?」

「……確かに。私は自分が(おだ)やかに暮らせる為に勉学に(いそ)しんでいる様なもの」


聞煥章は一瞬、遠い目をした。孔亮が続く。


「その平穏もいつまで続くか保証(ほしょう)もありません。今はそんな世の中です。何しろ朝廷の政策(せいさく)が民を苦しめている」

「弟の言う通りです。ここを改善(かいぜん)できねば真の平穏など訪れぬのではありませんか?」


聞煥章は二人に感じていた信念の様なものが分かった気がした。


「お二人は烈士(れっし)であろうとしておられるのですな」

「どうなのでしょうか? 私達をそう感じるのならばそれは私達の師の影響(えいきょう)かもしれません」

「兄も自分もそれまでは特に目的もなく過ごしていましたからね」

「師がおられたのですか。どんな方です?」

「とにかく(すご)い人達としか。とても追いつける気などしません」


孔明と孔亮がそう考える対象(たいしょう)王倫(おうりん)と呉用だ。聞煥章も孔明が『達』と言ったのを聞き(のが)さなかったが、この雰囲気に水を差すのは無粋(ぶすい)と感じてそれを問う事は(ひか)えた。


思慮深(しりょぶか)慎重(しんちょう)。それでいて周囲の事を良く見ている方なのですね?」

「「!?」」

「確かにお二人は影響を受けておられます。それが今の話で良く分かりましたよ」

「さすが聞煥章殿。今の言葉は我等にとっては嬉しい限りです。まぁ実際(じっさい)は心の師なんですけどね」


苦笑(にがわら)いをする孔明と孔亮。


「聞煥章殿。貴殿(きでん)のその才は当代(とうだい)随一(ずいいち)。それをただ野で終わらせてしまうのは非常に()しいと我等は考えているのです」

有難(ありがた)いですがそれは買い(かぶ)りですよ」


否定(ひてい)する聞煥章に孔亮が話す。


「その先生が私達にこんな話をしてくれた事があります」


孔亮は呉用から聞かされた国の興亡(こうぼう)についての話を語って聞かせた。


「今が混乱期(こんらんき)ですか……確かにその通りだと思います。その方は的確(てきかく)世相(せそう)をみておられますな」

「それだけではありません。先生はこの期には必ず台頭(たいとう)してくる立場の者が出てくると言いました」

「……それは商人ではありませんか?」

「! そ、その通りです」


あの時呉用は(たと)えを出してくれたので二人にも見当(けんとう)がついたのだが、今の話に例えはまだ出していない。聞煥章はそのうえで瞬時(しゅんじ)に正解を(みちび)き出したという事だ。彼は思う所があるのか何やら真剣(しんけん)な顔をして何度も(うなず)いている。


孔明の直感(ちょっかん)が何かを()げた。


「言い()えれば(かね)は力の象徴(しょうちょう)悪臣(あくしん)平然(へいぜん)不正(ふせい)を働くので財を得ますが、良臣(りょうしん)は正しき智謀(ちぼう)と思いで国と民を助けようとします。しかし不正をしないので財がない。(ゆえ)にどうしても(おさ)え込まれてしまう」

「兄の言う通り。金が発言権(はつげんけん)実行力(じっこうりょく)を増す要因(よういん)なんです」

「それは分かりますが……」


聞煥章もまた直感で感じる。この二人はただの学問に(はげ)むだけの兄弟ではない。背後(はいご)に存在する何かの集団か派閥(はばつ)の様なものに(ぞく)しているのではないか、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ