第七回 夢の解釈
王倫から夢の話を聞かされた老氏と若氏。二人の意見は十中八九予知夢であるという判断で一致した。
「では私はいずれ殺されて人生を終える……と?」
王倫は力なくその場にへたりこんだ。
「先生方の話を聞いて折角目指すべきものが掴めそうだと思った矢先に……」
「とはいえ、じゃ。それが未来の事を示しているのであれば、やりようによって変えられる方法もあろう」
若氏も同意する。
「そうですね。さすればその夢の出来事を回避できるかもしれません」
二人のその言葉に縋り付く思いで立ち上がる王倫。
「ほ、本当にそんな事が出来るのでしょうか」
「夢からそうなる原因を特定さえしてそれを排除すればあるいは、じゃがな。もし変えられぬものがあるならそれは天が定めた寿命位のものじゃろう」
「原因の特定とは言っても全く知らぬ男の何を特定すれば良いのか……」
「夢での会話などは覚えておられないのですか?」
「! そう言えば話す内容を聞いた覚えがありません」
夢の特徴のひとつに今更気がつく。
「と、すればまだすぐという話ではないのかも知れんな。まぁ猶予もあまりないのは確かじゃろうが」
「間接的な恨みが引き起こすのかも知れませんね」
「間接的……? それはどういう事でございましょう?」
若氏の発言が気になり質問する。
「あー、気分を害さないでいただきたいのですが……」
「だ、大丈夫です」
念を押されて王倫はごくりと唾を飲んだ。
「王倫殿の手下の皆様は所謂山賊。その行為に晒され泣いている人もいるのではないか、と思いまして」
「!!」
つまり山賊にされた行為の復讐をその頭目に向けた可能性という話である。
「例え王倫殿が関わっておらずとも相手がそれを信じるかどうかまでは……」
「被害を受けた者にとっては関係ない話かもしれぬしのぅ」
王倫は真っ青になった。確かに自分はここの所そういった指示も出していないし考えてもいない。だが恨みを買っていないかといえば心当たりは山程ありすぎたのだ。
「い、いかん! こうしてはおられん。せ、先生方、私は今日はこれで失礼させていただきます」
しかし踵を返す王倫を老氏が呼び止める。
「ああ、王倫殿お待ちを。明日は我らはいつもと違う時間に来ようと思っていましてな」
「違う時間……ですか?」
「はい。よければ是非その時間にここに来ていただきたいのです。必ず他人には見られぬようお願いしますぞ?」
王倫は不思議に思ったが、この二人が自分に妙な事をするとは思わなかったのでそれを承諾して寨に戻った。
戻った王倫はすぐに副頭目の三人を呼び今後の方針を語って聞かせ、さらに細かく説明する。
朱貴、杜遷、宋万の三人は王倫のまるで人が変わったかの様な指示に驚いた。実際今までの王倫はする事もないのかただ酒を飲み、気分次第で周囲にあたりちらす日々の繰り返し。故に梁山泊の者達は彼の顔色を伺って生活している背景事情があった。
それがここ数日は考えごとをしている時間が多かったものの機嫌は良く、山寨の者達からはこのような日がもっと続いてほしいとの声も聞こえていた程だ。
その山賊の首領王倫が今後の展望を語る上で自らの稼業を否定するような発言をすれば三人が困惑するのも無理はない。
一方王倫と別れた老氏と若氏は同じ場所にそのまま立っていた。 老氏の手には一冊の書物が持たれており、その開かれたところには『王倫 享年 三十一』という内容が書かれていた……