第四十九回 晁蓋と石勇
行方を探している宋江について思わぬ所から情報が入った。滄州の柴進から王倫宛に手紙が届き、彼の屋敷に宋江が滞在していると書かれていたのである。彼の屋敷では林冲も世話になっていた事もあり、宋江の無事が確認できた晁蓋達はひとまず胸を撫で下ろす。
桃香と瓢姫はその成長が驚く程はやく、子育て経験のある阮小二の妻が、
「この調子じゃ季節が変わるまでに歩き出すかもしれませんよ?」
と冗談めかして笑った。梁山泊内はこうして落ち着いていたので晁蓋はある事を王倫に相談する。
「柴進殿の屋敷に行きたいと?」
宋江の無事を知った彼が会ってみて話をし、出来る事なら梁山泊に連れて来たいと申し出たのだ。王倫にはこれを反対する理由はなかったが、彼は梁山泊の副首領なので長期間不在にさせる訳にもいかず、なるべく早く帰るようにと念を押し劉唐を護衛につけて送り出した。
「あっしもついて行っていいですか?」
「お前も? 晁天王に迷惑かけるなよ?」
「分かってますって」
なぜか白勝もついて行きたいと言い、一緒に送り出す。
「まぁ何かあれば伝令になれるであろう」
呉用のこの判断からであった。一向が梁山泊を出発したその夜、道術修業に余念のなかった公孫勝は星で晁蓋達の運勢を占う。
「うーむ。ワシの見立てによると空振りになりそうだと出ておるが……まぁ宋江殿に会えずとも他の人物と面識を持つのは悪い事ではないだろうしな」
悪い卦という訳ではないのでそのまま静観してみる事に決めた。
数日後鍛治の心得があるという湯隆と名乗る男が梁山泊を訪れる。代々続く武器職人の家系だったが、博打にはまり段々と落ちぶれていき、二仙山の麓に住み着くようになっていた人物だ。
なんでもある日、羅真人と名乗る道士から梁山泊ならば環境も良く今の生活よりも厚遇してもらえると聞き、一念発起して新天地へ移住する決断をしたのだという。
王倫もあの羅真人の紹介なら間違いないと思い、早速彼に工房を与えいくつかの武器の製作を頼んだ。湯隆はその期待に見事にこたえ、本人も治安が良く活気に溢れ食事の旨いこの地を大層気に入った。
「いやぁ、羅真人殿も良い人物を紹介してくれた」
「来年には師匠も来ますからな。色々と気を使ってくれているようです。首領も師匠に気に入られたのでしょう」
「博打好きのようなので白勝と一緒になって妙な事をしなければ良いのですが」
王倫、公孫勝、呉用は笑う。
柴進の屋敷を訪ねた晁蓋達であったが公孫勝の占い通り宋江とは会えなかった。しかし不運だったのは晁蓋達だけではなく、彼等より少し前に柴進の世話になっていた石勇という男も運の悪さを露呈していたのである。
この男、容姿は背が高くごつごつした顔立ちの若者で、髭は一本も無い。あだ名は石将軍。
北京大名府の博徒で、博打の件で殺人を犯し逃亡。柴進に匿って貰っていた。そこで天下の義士と名高い宋江の噂を聞き、一目会って話がしたいと鄆城県を訪ねるが、宋江は事件を起こして逃亡し柴進の屋敷へと向かい、見事に行き違ってしまった。
逆にその弟宋清に宋江宛の手紙を預けられ柴進の屋敷に戻ってきた石勇だが、こんどは宋江が青州清風塞の友人のもとへ向かったと知らされる。
晁蓋達はしばらく柴進の屋敷に逗留し、柴進や石勇、同じく身を寄せていた武松という男達と親交を深めた。石勇は白勝と博打の話で意気投合したようだ。
晁蓋は柴進に現在の王倫と梁山泊の素晴らしさを伝え、武松達に入山の話を持ちかけたが、武松には兄を訪ねる途中だからと断られ、石勇は宋江の後を追うつもりだからその後で梁山泊に向かうという形でまとまった。
梁山泊副首領である晁蓋は、これ以上寨を離れると王倫に迷惑をかけると考え、宋江宛に手紙を書き、それを劉唐に持たせて白勝と共に石勇に同道する事を頼む。
劉唐は晁蓋と離れる事に最初難色を示したが、白勝と石勇では博打絡みで問題を起こしかねないと説得され渋々それを了承する。
晁蓋、武松、劉唐らはそれぞれの目的地へと向かい旅立って行くのだが、その様子を柴進と空で輝く太陽だけが静かに見守っていた。




