第四十五回 天の宝と羅真人
目が覚めた王倫は寝所から飛び起きた。そして顔を洗うと南斗聖君から聞かされた場所に急いで向かう。そこは王倫が毎日世話をしている二本の木。それぞれの根元には薄ぼんやりと輝く、布でくるまれた包みのような物。王倫は近くに寄って上から覗き込む。
「キャッキャッ」
「あーうー」
そこには南斗聖君に言われた通り珠のような女の子の赤ちゃんがいた。
周囲が明るくなると赤ちゃんのいる小屋には話を聞きつけた頭目達が一目見ようとひっきりなしに訪れた。王倫は彼女達の世話を林冲、阮小二、白勝の妻に頼む。彼女達は赤子を見ると喜んでそれを承諾した。
桃の木の下に居た子を『桃香』、瓢箪の木の下に居た子を『瓢姫』と名付け、二人は『特別な子』として育てていくと王倫は説明したが、それを裏付ける出来事も起きる。
それは公孫勝が二人を見に来た時の事。
「ほう。これが噂の姫君達ですな。……確かに特別な力を感じます」
「公孫勝殿には分かりますか」
「ワシはこれでも一清道人。我が師がこれを知れば文字通り飛んできますぞ!」
公孫勝は興奮して王倫に語る。
「一清よ、儂ならばとうに来ておる」
「「わわわ!?」」
いつの間にか彼の隣には見知らぬ老人が立っていた。
「これはお師匠様! 首領、この方が今話していた……」
「二仙山に住む道士、羅真人と申します。以後お見知り置きを」
「これはご丁寧に。梁山泊の首領、王倫です」
羅真人は王倫をじっと見る。そして近付き王倫にだけ聞こえるように言った。
「なるほど両聖君の加護を受けられておいでか。然り然り」
「!!!」
王倫は驚愕するも羅真人はそれだけで全てを悟ったのだろうという事も分かった。
「こ、公孫勝殿! 師匠様は凄いお方でございますな」
「ほう。首領にも分かりますか?」
公孫勝は気を良くするが、その師匠羅真人はご機嫌ではしゃいでいる桃香と瓢姫を見ている。
「これ一清よ。この子達をどう見る」
師匠に問われ弟子の公孫勝が姿勢を正して答えた。
「はい。某が見るならばこの子らは既に人よりお師匠様に近い存在。格で言えば今の状態で某より上にございます」
それを聞いた羅真人はため息をつく。
「なるほどのう。一清はまだまだ修行が足りておらぬようじゃ」
続けて羅真人の見立てを言う。
「儂に近い存在などととんでもない。儂は仙人を目指して修業中の身。この子らは生まれながらにして仙人じゃ。格は儂よりもはるか上」
「な、なんと!? 仙人の子でしたか?」
「その様子ではこの地を覆う気についても分かっておるまい」
「良い気が漂っているのは気付いておりました」
「『良い気』ではなく『加護』じゃろうな。この子らの根源……桃と瓢箪が見える」
王倫は心の中で驚きっぱなしだ。王倫しか知らぬ事を言い当てるどころか、状況によっては本人より詳しい内容を見通している。
「やれやれ。お主、怠けておったのではないか?」
「あー……そんなつもりはありませんでしたがそう言われると……」
公孫勝が返答に窮しているのを見て王倫が割って入る。
「彼には梁山泊の事で大変お世話になっておりますからそうだとするなら私のせいでしょう。それよりも羅真人殿。宜しければこの梁山泊に留まり、私やこの子ら共々正しく導く教えを御教授いただけませんでしょうか?」
公孫勝は非常に良い考えだとは思ったが、羅真人は俗世から離れて生活している為それは断られるだろうと予感した。
「首領。残念ですがお師匠様は……」
「ふむ。悪い話ではありませんな」
「え!? お受けなさるのですか?」
公孫勝はまさかの展開に驚愕する。
「ですがまだ時期尚早。この子らの状態からして……一年後。その時にまた訪れます。それからならご厄介になりましょう」
羅真人は王倫と約束を交わし、住んでいる二仙山へと帰っていった。
余談ではあるがこれは公孫勝に言わせると『偉業』と言っていいらしい。




