第四十三回 求める人材
王倫が皆を集める少し前、呉用は王倫に呼ばれて彼のもとを訪れた。なんでも戦利品の確認を頼みたいというのだ。
(はて。北京大名府との戦いで得た物は全て確認したはずだが何か見落とした品があったりしたのだろうか)
「首領。呉用参りました。何やら戦利品があるとお聞きしましたが」
「おお呉用先生! これの価値は先生ならご存知だと思いましてな。いや、むしろ先生にこそ相応しいものです。ささ、お開けくだされ」
王倫の隣には公孫勝もいた。呉用は促されるまま竹で編まれたカゴのフタを取る。
「む、これは……」
中にあったのは竹簡や書物。兵法や歴史、政治について書かれている物など多岐にわたった。
「おお! これは素晴らしい! むむ。むむ?」
呉用はひとつひとつ見ていく内に妙な事に気付く。それはどれも一度は自分が読んだものばかりである事に。
「私にも是非読ませていただきたいのですが先生のおすすめはどれでしょう」
「そうですね……兵法や政治など種類によっても異なりますが、その前にこの戦利品はどこから?」
梁山泊に出征してきた者達が持参してくるにはやや不釣り合いな品々だと呉用は思う。戦場に政治書や歴史書があってもその場では役に立たないし、兵法書であってもいちいち見ながら戦う様ではとても勝利するなど難しいだろう。それに結構な量もある。
「くっくっくっ」
なぜか公孫勝が笑っていた。呉用は一冊の書物を開いた状態で言う。
「一清道人、何がおかしいのだ……ややや!?」
同時に書物の中のある部分を見た彼は慌てて本を閉じその題名を確認する。
─六韜─
一言で説明すれば兵法書なのだが、呉用が驚いたのは持ち主がある箇所に注釈を入れていたから。
だがその内容は彼が自分の所持する六韜に書き込んだものと一字一句違わなかったのだ。
「いや、これはもしかして私の字では……」
公孫勝が更に笑い出し、同時に呉用も全てを理解する。
「ふと先生の家に放置されたお宝があるのではないかと思ったのです。突然の逃亡劇に巻き込まれていたのでもしかしたらと」
「ワシは呉用殿の家を聞かれたのだ」
「それで戦のごたごたに紛れて回収させてもらいました。書物の価値を知らぬ者に持っていかれるのも面白くありませんし、どうせなら二人で先生を驚かそうかと」
王倫は悪戯が成功した子供の様に公孫勝と笑った。呉用は逃亡した時から自分の所持品の事など考えていない。それどころか王倫に言われて気付いた位である。しかし知識の価値をきちんと理解していると分かるこの発言は呉用にとって悪い気のするものではない。
(あの時細かい事まで気のつく方だと思ったが……今回は何を言い出すのであろうか)
呉用は先日の事を思い出しながら王倫の説明を聞いた。
「先日の戦いで思ったのだが、足りない人材としてまず医者、獣医、船大工。次に鍛冶に秀でた者と言わせてもらいたい。もちろん皆良くやってくれているのは知っているが、医者と獣医は専門の者がいた方が良い。船大工の持つ技術で改良された舟(船)が用意できれば怪我人も減る。鍛冶についても同じだ」
王倫は知っている者がいれば推薦して欲しいと皆に聞いたところ、楊志が思いつく人物を述べた。
その者、名を孟康と言うらしい。




