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悪役令嬢は国一番の娼婦を目指したい  作者: 冬野月子


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「…それで、今度は何と言われたんだ」

苛立ちを隠そうともせずクリストファーはきつめの口調で言った。


「私が覚えられないのは…私が真面目にやらないからって…」

ハンカチを顔に当てながら涙まじりの声でライラは言った。

「でも…あんな怖い顔で教えられても…怖くて怖くて…」



「———ではこれからは君一人きりで学べるよう教材を用意させる」

「…え…」

「その方が君も落ち着いて学べるだろう?分からない事がある時だけ教師に聞けば良い」

目を見開いたライラにクリストファーはそう言った。




(全く…いつになったら習得できるのだ)


ライラを退出させるとクリストファーはため息をついた。


イザベラとの婚約を解消し、学園卒業後にライラと婚約してから約五ヶ月。

彼女のお妃教育は遅々として進まなかった。


妃になる為には、貴族以上のマナーや常識、王族としての心構えなどを身につけなければならない。

貴族として生まれ育ったイザベラが幼い頃から何年もかけて身につけてきたものを、平民のライラは一年で習得しなければならないのだ、当然指導は厳しくなるし内容も詰め込まれる。

だがライラはすぐに疲れただの、教師がいじめる、怖いなどと言って中断するのだ。



ライラと婚約するにあたり、父王から出された条件は、一年でお妃教育を終わらせる事。

それができなければ婚約を解消するか、それでもライラと結婚したいならばクリストファーは王位継承権を放棄し一貴族にならなければならない。


それはライラも分かっているし、『どんなに辛くてもクリストファー様のために頑張ります』と言っていたのに。

いざ始まってみれば不満ばかりでやる気が見えず、こんな調子では一年で終わるはずもない。




(そもそも…何故私はイザベラを追放してしまったのだ)


彼女を正妃においておき、ライラを愛妾とすれば何の問題もなかったはずだ。

だがあの時は…イザベラの態度にどうしても我慢ならなかったのだ。


幼い頃から正妃唯一の王子としてチヤホヤされてきたクリストファーに、ただ一人イザベラだけが反抗的だった。

クリストファーが何か命じれば理屈をこねてそれを拒否し、逆にやり返される。

いつしか二人には会話すらなくなり、最低限の交流しかなくなっていた。


学園に入学してからもそれは変わらず、クリストファーに多くの女生徒が集まっていてもイザベラは何の関心も示さなかった。



ライラは気がつくといつもクリストファーの側にいた。

他の女生徒達が第一王子という肩書目当てなのに対し、ライラはクリストファー個人を見てくれ慕ってくれた。

純真な彼女が側にいるのが心地よかった。


そんなライラの表情が曇り始めたのは夏季休暇が明けた頃だ。

何かに怯える彼女を問い詰めると、イザベラがいじめるのだという。

早速イザベラに注意するが、自分は知らないやっていないの一点張り。

だが自分に心を開いてくれるライラとイザベラ、どちらの言う事が本当かなど、明らかだ。


その後もイザベラを注意し続けたがライラへのいじめは止む事がなく、あの日、イザベラに婚約解消と娼館行きを告げたのだ。



イザベラを娼館に追放して欲しいと言ったのはライラだ。

クリストファーとしてはそこまでやる必要はないと思ったのだが、「今後社交界で顔を合わせるのが怖い」とライラに泣かれ———オリバーの賛成もあり、決めたのだ。


さすがのイザベラも動揺するかと思った。

だが彼女は動じないどころか、自分の妃になるよりも娼婦の方がマシだと言い放ったのだ。

あの時はイザベラが憎くてたまらなかったが…今思えば、妃になるにはそれ位の気の強さが必要だったのかもしれない。

母親の王妃もよく「イザベラ嬢でないと王妃は務まらない」と言っていた。

思い起こせば自分へは反抗的だったイザベラも、お妃教育では文句一つ言う事なく教師達の課題をしっかりとこなしていた。



そのイザベラは今、社交界で噂の的だという。

彼女が入ったのは接待が中心の娼館で、幾つもの国外からの賓客の接待を担当し成功させ、外交に大きな貢献をしているという。

第一王子に婚約破棄され追放されながらも国のために尽くす、健気な淑女———それがイザベラの評判だ。

そして最近彼女は初めての客を取ったらしく、その相手が誰かというのが大きな話題だという。


娼館に落とされながらも品位は落とさず評価を高めるイザベラ。

そして平民から王子の婚約者となりながらも———なんの努力もしないライラ。


周囲の者達が直接は言わなくとも二人を比較しているのは知っていたし、クリストファーも比べてしまう事もある。

それでも。

自分を愛さないイザベラと結婚するよりは、ずっとマシだ。


自分に言い聞かせるとクリストファーは目の前の書類へ手を伸ばした。

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