転職
「やっべ、何かに当った……」
「もう!何してるの!」
冬牙は急いで石が入っていった場所の雑草を掻き分けた。
そこにはさっき投げた石ころと、それよりも一回り大きい黒紫色のぶよぶよとした謎の塊があった。
塊は形を変えながら蠢いていて、次第に動かなくなったかと思うとそのまま浄化していった。
浄化した……。ってことはさっきの塊はモンスターだったのか!?
嘘だろ……。もしかして、これも倒した事にカウントされちまうのか……?
冬牙はサーっと青ざめた。
「だ、大丈夫よ!だって石が当っただけでしょ?きっとノーカンよ、ノーカン」
一緒に浄化する瞬間をみていた万里乃は自分にも言い聞かせるようにそういった。
「そ、そうだよな!特に何も演出は起こってないし、カウントされてないよな!」
冬牙は胸をなでおろした。
すると、急にピコンが起動した。
「ハツトウバツオメデトウ!ソレデハイマカラテンショクノギシキヲハジメルヨ!」
ノーカンじゃなかったぁあああ!!!
「待てピコン!お願いだから待ってくれ!どう考えても今のは戦闘じゃなかっただろ?」
「ジカンハマッテハクレナイヨー!ソレデハギシキヲハジメルネ!」
すると、初期の頃と同じように上空から光線が降ってきて、一気に冬牙の全身を包み込んでいった。
光が次第に消えていくと、いつの間にか握っていたはずの剣が消えていた。しかし、武器は他に見当たらない。
おいおい、俺は一体なんの職業になっちまったんだよ!
冬牙は急いでプロフィール画面を開いた。
職業の欄を見るとなんとそこには『ウイルス』とだけ書かれていた。
「ウイルス……?」
冬牙は職業の詳細を見るためにウイルスと書かれている所をタッチした。
すると、いきなり触れた場所からノイズが走りだし、そこを中心にあっという間にノイズが拡がって言った。
「なんだこれ!?」
「冬牙、その画面どうしたの!?」
冬牙のプロフィール画面を見た万里乃が異変に気づいた。
「分からない。触った瞬間にこうなった」
「もしかしたら、転職してバグが出たのかもね。職業は何に転職してたの?」
「ウイ……」
冬牙は言いかけたが、すぐに口を噤んだ。
もし、本当にウイルスに転職しているならそれを知った万里乃は何をしてくるかわからない。アバターが俺に触れたらどうなるかもわからないし、万里乃が危険に晒されるだけだ。
「ウイ……?よく分からない職業なの?ちょっと見せて」
万里乃は無警戒に冬牙に近づいた。
「来るな!」
冬牙は咄嗟に怒鳴ってしまった。
万里乃はそれに驚き、顔を引き攣らせたまま固まっていた。
「……ごめん。とにかく今は近寄らないでくれ。ほら、バグが発生したからさ、何かあったらいけないし……」
「……そうだよね。今は近寄らない方がいいよね。私こそごめん」
万里乃は暗い表情で俯いた。
冬牙は申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。暫く二人は沈黙した後、冬牙はある事に気づいた。
どこにも触れられないってことはログアウト出来なくないか……。
冬牙は確認するためにログアウト画面を開いて、『はい』の文字をタッチしようとた。
しかし、それは遠くから鳴り響いてきた銃声によって阻まれた。