ニートとチート
ガルーダは冬牙に気がつくと甲高い声で威嚇し始めた。
威嚇される度に鼓膜が震え、耳が痛む。
とにかく、ここから逃げた方がいいな。
止まっていた思考がやっと機能し始め、竦んだ身体に喝を入れながらなんとか立ち上がった。
幸いガルーダは威嚇をしているだけで、まだ攻撃態勢に入ってはいなかった。
「万里乃!返事してくれ!」
ガルーダを警戒しながら辺りを見回し、万里乃を探した。
「くそっ、何処に飛ばされたんだ」
さっきの暴風で木の葉が散乱しており、探しずらくなっていた。
すると、背後から赤い光が差し込んできた。
咄嗟に振り向くと、ガルーダがクチバシをかっぴらき、そこから炎の塊を生成している最中だった。
炎の塊は徐々に大きさを増していっている。
「やばいやばいやばい!あんなの食らったら痛みに耐えきれずにリアルでも死んじまう!」
冬牙は急いでその場から退避しようと走り出した。
ドサッ。
しかし、足が縺れて倒れてしまった。
くそっ!足が思うように動かない。
一方でガルーダは、そんな冬牙に向けてお構い無しに炎の塊を放った。
「あぁ、おわった……」
冬牙は絶望の中、死を悟った。
炎の塊は周りの空気を巻き込みながら凄いスピードで冬牙に直撃し、爆発した……かに思われた。
「あれ?」
なんと、冬牙は無事だった。
さっき完全に爆発に巻き込まれたはずなのに……。
キラっと何かが光った気がした。冬牙はおもむろに手を伸ばすと見えない壁に触った。
「シールド?」
よく目を凝らすと、何故か前方1面にシールドが張られていた。そのお陰で助かったようだ。
「冬牙!無事!?」
背後から声がした。万里乃の声だ。
「万里乃!お前こそ無事か!?」
「良かった!大丈夫だったみたいね。私は無事だよ!とりあえずもう1発打ってきそうだから早くこっちに来て!」
ガルーダは再び先程のように炎の塊を生成していた。
冬牙は急いで万里乃のもとへ走った。今度はちゃんと足が動いた。
「早く逃げよう!シールドがどれくらい耐えれるか分からないし」
「あのシールドって万里乃が発動したのか?」
「そうだよ。ふふん!私の事を命の恩人と崇めなさい」
万里乃はドヤ顔でそう言った。
くそ、なんか腹立つけどなにも言い返せん。
ドドンっと、また爆発音が響いた。
「と、とにかく、急ごう!」
「おう!」
冬牙と万里乃は来た道を走って戻り森の外にでた。
「はぁ、本当に危なかった。ありがとな、万里乃」
「ううん、助けられて良かった!このゲーム、感覚もリアルだからもしあの攻撃をまともに受けたら人堪りもなさそうだもん」
「だよな。焼死なんて真っ平御免だ。
それにしても、お前の職業本当にチートだな。Lv上げしてないのにあんな強敵の攻撃を防げるなんて。もしかして、レベルも無限だったりして……」
「そうだよ」
「え?何が?」
「私、レベルも∞になってるよ」
万里乃は平然とした顔でそういった。
「まてまて!なんだよ、レベル無限って!聞いたことねぇよ!」
「そうなの?」
「そうなの!」
万里乃は自分の強さをよく分かっていないのか、ぽけーっとしている。
もしかしたら、この世界で本当に最強なのは万里乃かもしれない。
「でも……」
「ん?」
「回復とかシールドを発動したりとかは出来るけど、攻撃は一切出来ないんだよね」
「そうなのか!?」
「なんでちょっと嬉しそうなの?」
「いやいや、全くそんなことないよ」
いや、本当は喜んでいる。流石に攻撃も最強だったら、正直嫉妬しているところだった。
神様は平等だ!
万里乃の職業の欠点がわかった所で、冬牙は次はどうするかを考え始めた。
「万里乃は攻撃出来ないし、俺じゃ歯が立たないし。どうしたもんかなぁ」
「いっその事、攻撃特化の別の職業を目指したらどうかな?」
「まぁ、それもそうだな。あーあ、上手いようにはいかないもんだな」
そう言って冬牙は足元に転がっていた丁度いいサイズの石ころを手に取ると、何となく適当に投げた。
石ころは草の生い茂った所に向かって飛んでいき、のみこまれていった。
それと同時にキュッ!と何かの声がした。