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天使族最強のモンスター

 先程倒れていた男は担架で運ばれて行った。



 人混みは解消されていったが、そこにいた人達は皆、虚無感に襲われていた。



「午後の部を始めたいと思いますが、先程救急患者が出てしまったため本日の午後の部は協力して頂ける方のみで構いません」



 アナウンスが終わると、その場にいた人達はほぼ全員が帰っていった。



「万里乃さんはどうするの?」



 冬牙は正直帰ろうとしたが万里乃の妹の事が気にかかった。



「私は残りますよ。やっぱりここが原因だという事がわかりましたから」



「そうか、分かった。それじゃあ、俺は君を手伝うよ」



「本当に!?いいんですか?」



「あぁ」



「ありがとうございます!因みに私の事は呼び捨てでいいですよ。万里乃でも紗月でも」



「えーっと、じゃあ万里乃で」



「はい!」



 万里乃は初めて満面の笑みを見せた。

 冬牙はその可愛さとギャップに思わず胸がときめいてしまった。



「そ、そんじゃ、行くぞ」



 冬牙はそれを悟られないよう、先にスタスタ歩いていった。万里乃はその後をゆっくりついて行った。



 冬牙と万里乃はそれぞれの部屋に入り、ゲームにログインした。



 ゲームテスターは通常であれば、同じ作業を繰り返してバグを探すのだがこの会社は自由にプレイしていい代わりに、バグを見つけることが出来ればプラスで報酬が貰えるといった変わったシステムだった。



 おかげで最強モンスターに挑むことができる。っといってもこの世界の最強職ってなんだろう。



「ピコン!この世界での最強職を教えてくれ」



 ピコンは個人でも呼び出すことが出来るらしく、早速呼び出してみた。



「ウーン、キメツケルコトハデキナイケド、サイシュウボスガドラゴンダカラ、ソレニツヨイドラゴンスレイヤージャナイカナ?」



 なるほど、ドラゴンスレイヤーか!

 って事はやっぱりあの上空を飛んでいるドラゴンを倒せばいいんだな。



「ヒトツダケイッテオクケド、ドラゴンスレイヤーニナリタイカラッテ、ドラゴンヲタオセバイイッテコトジャナインダヨ!モシドラゴンヲタオスト、ドラゴンツカイッテショクギョウニナッチャウカラキヲツケテネ」



「そうなのか?危うくドラゴンを倒しに行くところだった。流石ピコン!痒いところに手が届くな」



「マァ、ピコンハテンサイダカラネ!」



「因みに、ドラゴンスレイヤーはどのモンスターを倒せばいいんだ?」



「ソレハドラゴンノテンテキヲタオセバイインダヨ」



「ドラゴンの天敵?」



「ソウ!ドラゴンノテンテキハ、セイナルチカラヲモツ、テンシゾクダヨ」



「え、天使族を倒すのか?なんか罪悪感を感じそうだな」



「ソンナコトナイヨ!テンシゾクッテイッテモ、モンスターダカラネ。イチバンヨワイノハ、ポワリッテモンスターダヨ」



「それもそうか。それじゃあ万里乃、早速ポワリってモンスターを倒しに行くぞ」



「分かりました!」



 万里乃と冬牙はピコンに教えてもらったポワリというモンスターの生息地に向かった。



 そう言えば、と冬牙はプロフィール画面を開いた。本当にHPと、MPが無限なのかを確認するためだ。



 確認してみると、HP12、MP3と書いてあった。



「なぁ、万里乃」



「はい?」



「ちょっとプロフィール見せてくれる?」



「いいですよ、ちょっと待ってくださいね」



 万里乃はプロフィールを表示させると、人差し指で冬牙の方にプロフィール画面をフリックした。すると、冬牙の前に移動してきた。



 そんなこと出来たのか。



 ゲームに疎いはずなのに、機能を使いこなすのは得意なんだなと少し感心した。

 冬牙は万里乃のHPとMPを確認すると、そこには彼女が言った通り∞のマークが書かれていた。



 職業が決まればそういう表示になるんだろうか?それとも彼女がチートなだけなのか?



「あの、HPとMPの件、念の為に他の人にも確認したんですけどどうやら∞がついてるのは私だけだったみたいです」



「えぇええええ!?」



 冬牙は思わず叫んだ。



「そんなに驚かなくても」



「ちが、違う、そうじゃなくて……」



「え?」



「万里乃って……」



「なんでしょうか?」



「俺と同い歳!?」



 万里乃は一瞬で顔を真っ赤にすると、見ないでください!といって自分のプロフィール画面を閉じた。



「同い歳なのになんでセーラー服きてたの?もしかしてずっと高校浪人してるのか?」



「し、失礼な!私は今、医大生です!」



「医大生がなんでセーラー服を着てるんだよ、もうその歳になるとコスプレだぞ」



「う、うるさい!!別にコスプレしたくて着ているんじゃないです!」



 万里乃は顔を更に顔を赤くして、涙目になりながらヒーヒーいっている。



「そんなに怒るなよ、折角の可愛い顔が台無しだぞ」



「思ってもないのに、そんなこと言わないでください!」



 万里乃は地団駄を踏んだ。



 ダメだこりゃ。落ち着くまで待った方がいいな。



 冬牙は諦めて万里乃が落ち着くのを待つことにした。すると、そんな二人の前を大きな綿毛の塊のような生き物がフワフワと宙を漂いながら横切っていった。



「アレガポワリダヨ!」



 呼び出していないのに、突然ピコンはそういった。



「こいつか!よし、1発で決めてやる」



 冬牙は剣を抜いて構えた。

 ポワリはそんな冬牙の殺気に気づいたのか、体をビクッとさせると「ぽっ、ぽわわわ」と怯えた表情で冬牙を見た。



「た、倒せない……。可哀想過ぎる……」



 ポワリを哀れに思い、冬牙は諦めて剣をさやに納めた。



「ぽわぁぁあ!」

 ポワリはこのチャンスを逃すまいと一目散に逃げていった。



「今のは私でも倒せなかったとおもいます」



 落ち着いたのか万里乃はいつもの冷静さを取り戻していた。



「冬牙さん、もっと他のモンスターを探しましょう」



「冬牙でいいよ、あとタメでおっけー。ってか、なんで今の歳になってもセーラー服きてるんだ?」



「そ、それは!制服の方が服を選ばなくていいし、楽だし、汚しても別に気にしなくていいし……!」



「そっか」



 確かに毎日どんな服着ていくか考えるのめんどいもんな。



「もういい!」



 あまりにも冬牙の返事が淡白だったからか、万里乃は再び機嫌を損ねてしまった。



 これ以上何か言っても逆撫でしそうだから、また放置しとこ。



 冬牙は次の目的地を決めるべく、ピコンに話しかけた。



「なぁ、ピコン。もっと見た目が醜いやつとかいないの?」



「ミタメデタオスカドウカキメルノハ、ヨクナイトオモウゾ!」



「まぁ、そうだけどさ。やっぱり可愛いと倒しずらいんだよなぁ」



「コレダカラニンゲンハ……。ボクニハナニガミニククテ、ナニガカワイイノカ、ハンダンガデキナイカラ、テンシゾクノナカデイチバンツヨイヤツヲオシエルヨ」



「それがいいな。頼む」



 冬牙と万里乃は再びピコンに教えてもらった次の生息地へと向かった。途中、巨大な蜂に追いかけられたり川を越えようとして冬牙が足を滑らせ流されそうになったり危ない場面はあったもののとりあえず無事に辿り着くことが出来た。



 そこはとても神秘的な森林で、奥に入って行く程明るくなっていった。

 木々や地面に生い茂っている雑草は黄色に近い黄緑色に輝いており、日向にあたっているようなポカポカとした暖かさがとても心地よかった。

 そして、もう少し奥に入っていくと、巨大な鳥の巣に出会った。



「トウチャクシタヨ!」



 冬牙と万里乃は鳥の巣の前に立った。鳥の巣の壁は二人の身長より少し高いくらいだったが、幅はその何倍もあった。

 ガサガサっと音がしたかと思うと、ぴょこぴょこっと長い羽が6本巣から現れた。



 そして次の瞬間、黒いクチバシが特徴の巨大な鳥が6体、一斉に巣から顔を出した。



「うわぁっ!?」



 冬牙は驚いて、1歩後ずさった。



「可愛いぃ〜!」



 万里乃は顔を綻ばせた。



「か、可愛いのかこれは……」



 冬牙は万里乃の反応を疑った。



 6匹の鳥達は全体的に羽が黄色く、所々白い羽根が生えていた。

 ふわふわな胸毛とクリっとしたつぶらな瞳が可愛さを引き立てている。



 巨大な鳥達は首を傾げたり、クチバシをぱくぱく動かしたりしてこちらの様子を伺っていた。



「この子を討伐するのも可哀想だよ。もっと他のモンスターを探そう?」



「そんなこといわれたって、天使族は皆こんな感じなんだろうし、1番強い奴を倒すしかキリがないだろ?」



「そうだとしてもこの子達は絶対にダメ!」



「じゃあ、ほかの巣を探してくるからお前はここで待ってろ」



「そういう事じゃなくて!この種類のモンスターは全部ダメ!」



 万里乃は両手を広げ、鳥たちの前に立ちはだかった。



 困った奴だ。この様子じゃ説得出来そうにないな。



「お前、妹を助けたいんじゃないのか?」



「妹は助けたいけど、残酷な殺生もしたくない!」



「あのな、感覚が麻痺ってるかもしれないけどここはあくまでゲームの世界なんだぞ」



「それはそうだけど……」



 万里乃は俯いた。



「あぁー、ったくしょうがねぇな。じゃあ早く次行くぞ」



 万里乃はぱっと明るい顔になって冬牙を見た。



 はぁ。っと冬牙はため息を着いた。



「ピロン、すまないが次の場所を……」



 ビュンッ!



 !?



 一瞬、突風が吹いたかと思うと、とてつもない強風が吹き荒れ、冬牙達を襲った。



「なんだ!?」



「分かんないけどこのままじゃ飛ばされちゃう!」



 冬牙と万里乃はあまりの強風に身動きが取れず、目を開けるのもままならなくなった。



 強風は更に威力を増していき、とうとう冬牙達は吹き飛ばされてしまった。



「ゔっ!!」



 冬牙は飛ばされた先に生えていた木に背中から叩きつけられた。

 背中はジンジンと痛み、反射的に咳込んだ。

 そして、痛みに耐えきれず、その場で蹲った。



 痛い……!ゲームなのに痛みもリアルなのかよ……。それにしても、一体何がおこったんだ?



 暫くしてやっと痛みがマシになってきた頃には既に風は止んでいた。



 冬牙はやっと顔を上げると、目の前には先程の鳥達とは比べ物にならない大きさのモンスターが鳥の巣の壁に足で掴まり、停まっていた。



 そのモンスターは大中小の翼が3本ずつ生えており、光が当たったところがキラキラと黄金色に輝いて見えた。鷲の様な頭からは二本の長い羽が伸びており、なびいてる。

 体は人間のような形で白くて硬い鱗で覆われており、手と足の先からは黒くて鋭い大爪が3本ずつ生えていた。



 今まで見た事がない迫力に冬牙は腰を抜かしてしまった。体の底から震え、歯がカチカチと音をたて始めた。



 すると、またピコンが話し始めた。



「ソイツガ、テンシゾクサイキョウノモンスター、ガルーダダヨ!ホントニツヨイカラキヲツケテネ。ソレデハトウバツガンバッテネ!バイピー!」



 冬牙は既に戦意喪失しており、頭の中が真っ白になった。

 ただそこには恐怖がある。

 それだけだった。









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