100万円の謎
面接当日。
面接会場に着いた冬牙は、壁に沿ってズラーっと並べられているパイプ椅子の1番端の椅子に座って次のグループで名前が呼ばれるのを待っていた。
どんな人が来ているのか周りを見渡してみると、如何にもゲームが好きそうな学生や、おそらく百万円目当てできたであろう服装も歯もボロボロな人など、まぁまぁ予想通りのメンツが座っていた。
一番予想外だったのはセーラー服を着た女子高生が1人いた事くらいだろうか。
見た目は色白で黒髪の長髪を右肩から垂らしていて、明らかに小柄なのにさらに細すぎて、転んだだけで骨が折れてしまいそうな程か弱そうにみえた。
第一印象は大人しそうだけどアニメやゲームが好きそうには見えなかった。
彼女はどちらかというと教室の隅の方でひっそりと読書をしていそうな感じだ。
そんな彼女は静かに俯いていた。
すると、面接が終わった人達がぞろぞろと出てきた。
「あんな簡単な質問に答えるだけで100万円が貰えるなんて、できた話だよな」
「確かに。なんか、ちょっと気味悪いぜ」
「ま、契約書もちゃんと読んだけど怪しい所は無かったし。1回でも出勤すれば辞めても構わないんだったら、いいんじゃねぇの?」
「それもそうだな」
でもそれにしても、と男は考える素振りをみせた。
「片っ端から採用してってるような気がしてるんだがこの会社は何考えてんだか」
「もういいだろ。考えても分かんねえんだから気にすんな。行くぞ」
男2人組は面接会場を去っていった。
この会社はよっぽど大企業なのか、それとも頭が悪いんだろうか……。
冬牙は疑問を抱いたが、順番が来て名前を呼ばれたためそれ以上考えることは無かった。
「よろしくお願いします」
冬牙はそう言って10個並べられたパイプ椅子のうち、1番左端に座った。
面接官の数は2人だった。左側は眼鏡を掛けた細身で面長の七三分けの男性、右側にはきっちりと後ろで髪を結んだ優しそうな顔立ちの女性が座っていた。どちらもスーツを着ていた。
「皆様初めまして。本日はわざわざこちらに来て頂き、御足労をお掛け致しました」
話し始めたのは眼鏡の男性だった。
「私の名前は館湧 満 (たてわき みちる)と申します。そして、こちらが秘書の総野 真鈴です。本日はどうぞよろしくお願い致します」
館湧は優しく微笑みながらそう言った。
「早速、面接を行いますが、2つの質問にお答え頂くだけですのでどうぞリラックスしてお答えください」
やけに物腰が柔らかいな。まるで客人をもてなしているみたいだ。労働者を大事にしているというアピールなのか?
それに、2つだけの質問で採用を決めるなんてよっぽど人材が足りてないのだろうか。
冬牙は館湧に少しだけ違和感を感じた。
「それでは質問をさせていただきます。挙手でお答えて下さい。今まで大きな病気にかかった事がある方、いらっしゃるようでしたら正直に挙手をお願い致します」
10人中手を挙げたのは一人もいなかった。
「それでは最後の質問……というより、確認になるのですが、こちらも挙手でお願い致します。
只今弊社は世界初となる体験型の最新ゲーム機を製造しております。
採用につき100万円をお渡しするという事はそれ程あなた達に、絶対に守秘義務を守って頂きたいという事でございます。
なので、最後の質問はこれに同意出来る方は挙手をお願い致します。そして、その時点で挙手をされた方は採用させていただきます。それではどうぞ」
なるほど、100万円は口止め料みたいなものだったのか。
特に受かる気なんてさらさら無かったけど世界初のゲーム機ってどんなものなのか気になるな。
世界中の誰よりもいち早くプレイ出来るって考えると後々周りにも自慢出来るし、1度プレイして楽しいかどうか分かるだけでも購入するかどうかの検討もできる。
100万円の謎は解けたし、やってみるか。
冬牙は少し遅れて挙手をした。
そして、その場で10人中10人が挙手をし、冬牙は無事面接に受かったのだった。