英雄という称号
クラーケンに近づいていくと、頭が内側かららぼんやり赤色に光っているのが見えた。
「おい青年!ここは初心者には危険過ぎるぞ!足でまといになるから結界の向こう側で待機しててくれ」
クラーケンを取り囲んでいる冒険者のうちの1人が冬牙にそう言った。
「悪いけど、そうはいかないんだ」
冬牙はクラーケンが足を振り下ろした瞬間にスキル「破壊」を使って攻撃を試みた。しかし、全く効いている様子がない。
困ったな。打撃が全く効かない。相性最悪だ。
冬牙は一旦身を引いた。
「臭っ!」
急にナックルから先程まで感じなかった魚の腐ったような異臭がし始めた。
しかも殴ったら臭くなるって、超最悪だ……。
「打撃と斬撃が全くきかないから、俺達も困ってるんだ。恐らく、頭の中で光ってる何かが弱点なんだけど、表面にダメージすら与えられない。魔法が使える冒険者達も頑張ってくれてるんだが、あまり効いてるようには見えないし……」
先程とは別の冒険者が困り果てた様子でそう言った。
どの攻撃も効かないならどうやって内部を攻撃すればいいんだ。いや、一つだけ方法がある。でもなぁ、あの異臭の塊に飲み込まれたら攻撃する前に気絶しそうだ。くそぉ。
冬牙が頭を抱えていると、救護が落ち着いた万里乃が声を掛けてきた。
「こっちは落ち着いたけど、そっちはどう?」
「困った事に、どの攻撃も外側から効かないみたいだ。弱点は頭の中で光ってる何からしいんだが」
「あの生物の中に入るのは気が引けるね」
万里乃も同じ事を考えていた。
「そうなんだよな。けど、原因は俺だから覚悟を決めて中に潜るか……」
「んー、なんの騒ぎズラか?」
ラピは目を覚ますと、万里乃の胸元から顔を出して夢見心地で欠伸をした。
「お前、そこ居心地が良さそうだな」
「変態」
「いやいや、そういう意味じゃなくて!俺は別にお前の胸に興味はない!」
「あっそ!大きくなくて悪かったわね!」
「そういう事じゃなくて!」
万里乃はフンっとそっぽを向いた。
「よく分からんズラけど、一体どういう状況ズラか?」
「簡単に言うと、さっきお前が寝てる間に緊急討伐戦が始まって、今その場所に来てる」
「き、緊急討伐戦!?懐かしいズラなぁ。2年ぶりズラ」
「2年ぶり?本当に滅多に起こらないクエストなんだな」
「そうズラよ、ある条件が充たされた時にしか出てこないクエストズラからな!」
「そうなのか。俺がたまたまその条件を充たしちまったってわけか」
「え、このクエストを起こさせたのは冬牙殿だったんズラか?」
「そうなんだ。だから、責任もって討伐しようとしてるんだけど、全く攻撃が効かないから困ってるんだ」
「そんなに責任を感じなくてもいいズラよ。緊急討伐戦は冒険者達にとって、めちゃくちゃ有難いクエストズラからな!」
「まさかお前に励まされるとはな……」
「なんでズラか!?なんでそんな複雑そうな面持ちズラか!?」
「とにかく、今んとこ外部がダメなら内部からと思って奴の口から中に入ろうとしてる」
「内部……ズラか。それならいい方法があるズラよ!」
「本当か!?」
「わいの天下の盗賊スキル「盗む」であのタコの中の光ってる何かを盗ればいいんズラよ!」
「そんなに簡単に盗れるのか?」
「わいを誰だと思ってるズラ!」
「兎」
「あながち間違いじゃ無いズラけど、そういうのじゃないズラ!天下の大盗賊であるわいの力を舐めてもらっちゃ困るズラ!少し下がって見てるズラ」
ラピは万里乃の胸元から飛び出ると、ちょこんと地面に着地した。冬牙と万里乃はラピから距離をとった。
「スキル発動ズラ!」
ラピがスキル「盗む」を発動すると、ラピの目の前に何かがドサッと落ちた。
「うわっ、臭っズラ!」
ラピはあまりの激臭に鼻をつまんだ。
「なんだこれ!?」
ラピの目の前では臓器の塊が脈打っていた。
「どうやら違う所を盗っちゃったみたいズラね〜」
「おい!天下の大盗賊じゃ無かったのかよ!」
次第に周りにいる冒険者達もあまりの激臭に騒ぎ始めた。
「ラピ、早くそいつをどうにかしてくれ!目が痛くなってきた」
「どうにかしてくれって言われても困るズラ!わいは盗る事は出来ても戻す事は出来ないズラ!」
「じゃあ、早く弱点を盗ってトドメを刺すぞ」
「分かったズラ!今度こそ成功させるズラ!」
ラピは目を瞑り集中すると、狙いを定めてスキル「盗む」を発動した。
すると、今度は狙い通り赤色に光る物が落ちてきた。
それは小さなルビーのような宝石で、その大きさでクラーケンの巨大な頭を光らせるほどの強い光を放っていた。
宝石を失ったクラーケンはバランスを崩し始めとうとう墜落し、地面でバタバタ暴れ始めた。
「冬牙殿、早くトドメをさすズラ!」
冬牙はスキル「破壊」を発動し、赤色に光る宝石を粉砕した。
すると、クラーケンはキューキュー悲鳴をあげながらやがて目の光を失い、動かなくなった。
その一連を見ていた冒険者達は一斉に歓声をあげ、その場が拍手喝采に包まれた。
「緊急討伐戦が終了しました。緊急討伐戦が終了しました。参加して下さった冒険者様はお疲れ様でした。なお、結界は解除されます」
アナウンスが流れ終わるや否や、冬牙達は冒険者達に胴上げされていた。
「英雄だ!2年ぶりの英雄だぞ!」
「英雄万歳!」
「あーあ、今度こそはと思ったんだけどなぁ〜」
冬牙は胴上げされている最中に、そんな冒険者達の声が聞こえてきた。
冬牙達は胴上げから降ろされると、ビシッと制服を着こなした兵隊達が綺麗に整列して立っていた。そして、隊列が左右に開くと、その間にできた道を通って貴族らしい男性が冬牙達に近寄ってきた。
「敬礼!」
貴族らしい男性はそう発声すると、兵隊達は一斉に敬礼した。
「直れ」
再び兵隊達は一斉に腕をおろした。
貴族らしい男性は付き人から渡された巻物を縦に開くと、そこに書いてある文字を読み始めた。
「そなた達の活躍を讃え、明日の昼にトリタール城にて英雄の称号の授与式を執り行いますので、参加するようお願い致します」
「わい達が英雄ズラか!なんかいい響きズラな!」
「でも原因は俺だし、なんか悪いな」
「そうね、辞退する?」
「え?辞退ズラか?勿体ないズラよ!倒した事は事実だしいいんじゃないズラか?」
「うーん」
冬牙は悩んでいると、貴族らしい男性はお待ちしておりますと言ってすぐに立ち去ってしまった。
「あ……」
結局、冬牙は辞退すると言い出せなかった。
「それでいいズラよ!噂で聞いたズラけど、英雄になったら領地が貰えるらしいズラよ!」
「領地?」
「どんな領地かは分からないズラけど、そこを治める人になれるなんて凄くないズラか?」
「まぁな」
「まぁ、英雄になる事で何か手がかりが掴めるかも知れないし、良かったのかもよ」
「2人ともありがとな」
冬牙は2人から後押しされ、英雄の称号を受け取ることにした。
町へ戻ると皆から英雄扱いされ、酒場に引っ張りだこになった。
そして、そのまま朝を迎え、冬牙達は寝不足のまま城へ向かった。




