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地獄の特訓が終わった夕方、クウト村長の家へと向かった。
ブロックとの訓練は口は荒いが手は出さない分、普段よりも多少、余力が残っている。しかし他の“リディアの戦士”たちの話しからすると、クルドはクウトに甘い特訓をさせているらしいが、クウトからしてみれば、失敗するごとに棒を振るうクルドの方が数倍も厳しく感じられた。
「手伝いって、やっぱり明後日の戦いの事なのかなぁ」
クウトは村長の家の前にたどり着くと、扉に手を伸ばし、触れる直前で止めた。
「…………でしょう」
話し声が外まで漏れている。クウトは咄嗟に扉から離れて、壁沿いを左に移動し、貝殻を繋げただけの簾が下げられている窓の下に身を潜めた。
中に入れる雰囲気ではないので、引き返す方が正しい判断だと分かりつつも、中の会話が気になり、クウトは目を閉じて、耳を澄ました。
「やはり、駄目じゃったか」
村長が落胆の声を上げ、クルドはそれに同調する。
「明後日までにどうこうできる問題ではありません」
「あの子には、期待していたんじゃがなぁ……」
「それは、……私も同じです」
誰の話しだ。心臓が早鐘を打っているみたいに身体に脈立ち、答えを求めている。聞かなくても分かる。だが、確信が欲しい。クウトはゆっくりと目を開けて細め、次の言葉を待った。
「しかし」
喉元で鳴る音を身体の中で聞いき、クルドの断定的な物言いが、落雷の如くクウトを貫いた。
「弱き者には価値はありません。クウトは、“リディアの戦士”としては戦えませんよ」
全身を流れている血が凍結してしまったように冷たくなり、耐え切れず膝を付いた。
自分のできる事をしろと、クルドは言った。
昨日のあの言葉は嘘だったのだろうか。耳鳴りが酷く、手を地面に付けて胸を押さえる。呼吸が上手くできず、息が口と喉元の間を行き来して終わる。視界は正常に映されているのに、脳には達さず、その場にある物でしか認識されない。
認められたと思っていた。自分の力でやれるだけの事をやってみせれば、戦場でも足手まといにはならないと思っていた。
だが、それは単なるクウトの欺瞞だ。実際のクウトの実力はブロックの言っていた通り、使い物にならない。
クウトの中で言葉が繰り返される。
――このままじゃダメだ
――このままじゃダメだ
――サラはいなくなる
――ザギは死ぬ
――二人を救う方法は
――クウトが属する“リディアの戦士”たちが勝利する方法は
――絶対に勝利する方法は………
悪魔の囁きがクウトの心を惑わし、耳を貸してしまった。
虚ろの瞳に宿る紫紺の炎が、クウトの身体を乗っ取り、走らせる。
息切れはしない。疲れも感じない。最初から、そう動くものだと、身体が知っているから……。