09 好きで大きいわけじゃないわよ
「あの首輪、結構出回ってるのね」
「まさか学院で普通に使われてるなんて思いもしませんでしたよ」
宿直室で怪しげな男をこらしめた一行。
結局はティナ達の誤解であり、その男(先生)の持っていた首輪はティナの 首輪では無かった。
――パリパリ
何かが割れる音がする。
「何の音かしら」
辺りを見回すティナ。
音の発生源はラックだった。
「ラック、それは?」
ラックが何か食べている。
「さっきのおねえさんにもらった。せんべい」
お姉さんとは、宿直室にいた女学生のことだろう。
――パリパリ
「ちょっとラック、あなたさっきも甘い匂いさせてたわよね。あれは?」
「あれはそこでおじさんにもらったあめちゃん」
「はぁ、いいこと、ラック。知らない人から食べ物をもらうんじゃありません」
「しらないひと? おじさんもおねえさんもしってるひとだよ」
「え、ううーん、まあそうだけど、ねぇリーズ、初対面の人は知らない人に入らないのかしら」
「えっ、私に聞かないでくださいよ」
「じゃあこうしましょう。会ったその日は知らない人よ。わかった、ラック」
「んー。てなにもあげる」
「あら、ありがとう」
――パリパリ
「りーずも」
「私にもくれるんですか。ありがとうございます」
――パリパリ
「……じゃ、なーい。首輪よ首輪。煎餅を食べている場合ではなくってよ」
煎餅を食べ終えたティナが我に返る。
「まあいいじゃないですか。たまには煎餅もいいものですよ。一仕事終えたのでゆっくりしましょうよ」
2枚目の煎餅を口にするリーズ。
「あー、りーず。ぜんぶたべた。ぜんぶ……」
空になった煎餅の袋をのぞき込むラック。
残ってないか袋をひっくり返してみるが、粉だけが零れ落ちた。
「ご、ごめんなさい。あとで好きなお菓子買ってあげますから、許してください」
「ほんとに?」
「はい。終わったら購買に行きましょう。いろいろ売ってますから」
「やくそく。おかし」
「ちょっと、あなたたち。休憩は終わりよ。そもそも休憩時間じゃなかったのよ」
校舎の壁に背中を付けて座り込んでいるラックとリーズ。
そして両手を腰に当て、二人を見下ろすティナ。
「う、、さあラックさん、怖いお姉さんが怒り出す前に探しに行きましょうね」
「どこいく?」
「それで、お嬢様。次はどこに行くんですか? もしかしたら犯人はもう学院外に逃げたかもしれませんよ」
「あなた、やけに院外逃亡説を推すわね。さっきも言ったけど、無許可で持ち出そうとしたら警報が鳴るのよ。それとも何か方法があるの?」
「そうですね。持ち出し方についてはずっと考えてましたけど、魔力を遮断する何かに入れて持ち出す方法とか……」
「それって簡単にできないでしょ。周到に準備をしているのならともかく、行きずりの犯行でそれは無理だと思うわ」
「そうなんですよねぇ。あれほどのマジックアイテムとなるとかなり大がかりなものが必要になりますからね」
「ほら。国内10位以内の魔法具士が悩むほどよ。外には持ち出せないわ」
「裏ランキング、ですけどね。じゃあ学院内ですか……」
「これを見なさい」
「壊れた装置ですね」
「そうよ。これで消えた点の場所を探すわ」
「壊れて光らないのでは」
その通り。装置に直接刻まれている目盛しか見えない。
他人事のように言っているが、壊したのはリーズ本人だ。
「ふふふ、大体の位置は覚えているわ。この辺とこの辺が光ってて、消えなかった方。ここが宿直室よ」
壊れる前に表示されてた点の位置を指で指し示す。
「最初に装置を使った教室の位置が中心で、光っていた宿直室の位置。それを比較して、今の場所と合わせると……」
点の位置と校舎内の部屋の位置の比較をティナは脳内で行っている。
はたから見ている二人(ラックはそもそもついていけてないようだが)にはさっぱりわからない。
「ここよ」
校舎の壁に取り付けられている校舎内の見取図を指し示す。
校舎に入った来客が迷わないように設置されている見取図だ。
校舎のどの場所にどの部屋があるのかが詳細に記載されている。
「ここって」
「ええ。何かあったかしら。とにかく行ってみましょう」
ティナが見取図で指示したのは、校舎の端っこ。
Tの字でいうと、上の右端だ。
「ほらラック行くわよ」
「はーい」
廊下を進んで、分かれ道に差し掛かる。
右へ曲がると職員室があり、その先は生徒用入口と下駄箱があるが、そちらにはいかず、廊下を直進する。
学院長室と書かれた部屋を過ぎたら、そろそろ目的地のはずだ。
「この辺りは来たことがないですね」
「とりあえず怪しい場所がないか探してみましょう」
廊下を進んで行き止まりまで来た。
右手側にも部屋があるのだが、ここは給湯室。
先生たちがお茶などを入れる部屋だ。
ドアは開いているが、学生は使ってはいけない決まりになっている。
「ぱっと見、怪しそうなところは無いですね」
リーズが給湯室内を確認する。
「そうね。さすがにこんなカギのかかっていない場所に隠すことはないでしょう」
念のため棚などを調べてみるが、お茶っ葉やお菓子などしか見つからない。
「おかしたべていいの?」
「だめよ。袋に先生の名前が書いてあるでしょう」
お菓子の袋には「リブ」と書かれている。
見たところ、袋を開けてから結構な時間がたっているようだ。
「ざんねん」
「それにあれはもうだめになってて、食べたらおなか壊すわよ」
給湯室を後にした一行。
「うーん」
腕を組んで考え事をするティナ。
「どうしたんですか。何か気になることでも?」
「ねえリーズ。あなた覚えているかしら」
「何をですか?」
「わたくし達は見取図を見てからここに来たわよね。あの見取図、確か給湯室の先にもう一つ部屋が無かったかしら」
「そうでしたか?」
給湯室の横はもう行き止まりだ。
目の前には無機質な校舎の壁が立ちふさがっている。
「そうよ。部屋の名前は書いていなかったと思うけど」
「見取図にしか無い部屋。なにそれ、怖い」
――ばちん
「ひいっ」
いきなりの音に二人がびくりと震える。
恐る恐る音のした方を振り向く。
――ばちん
また音がした。
「このっ、このっ」
そこには、壁を這う黒いなにかを捕まえようとしているラックの姿があった。
ラックの身長よりも高い部分をちょこまかと移動する黒いなにか。
ジャンプしてそれを捕えようとするラック。
捕えきれず空振りした手が壁に当たり、その音を出していたのだ。
「ちょっと、ラック。もしかしてその黒いの……」
校舎内にいるとは考えにくいが、封の空いた菓子が放置されている給湯室の傍ならありえるのかもしれない。
「そこだ」
黒いのの移動する場所を先読みし、そこに狙いを定めてジャンプする。
――ばちん
と音がするはずだった。
「わわわー」
直後、どすんどすんという音が聞こえた。
「ラック!?」
今しがたそこにいたラックが消えた。
いや、消えたのではなく、行き止まりのはずの壁をすり抜けて行ったように見えた。
同じように、黒いものが行き止まりのはずの壁の中に消えていく。
その不可思議な光景を目を凝らして見ていると、消えたはずの黒いものが壁の中からその姿を現す。
そして壁をつたって給湯室に入っていった。
「これは一体……」
リーズが壁に近寄り、手を伸ばす。
触れようとした手がすっと壁の中に消える。
「何これ、壁が、無い?」
ティナも手を突っ込んでみる。
目では見えているのだ。しかしそこには物理的な壁は存在しなかった。
「何かがあるような感覚もしないわ」
壁の中で手を動かしたり握ってみたりする。
「壁の中がどうなっているかわからないけど行くわよ。ラックが心配だし」
恐る恐る壁をすり抜ける二人。
物理的な感触はなかったが、何かを越えたという感覚はあった。
「真っ暗。ラックはどこかしら」
壁の先は真っ暗で何も見えない。
空気はある。別次元というわけではなく、光も通さないような魔力的な何かで、ただ校舎を区切っているだけのようだ。
その闇の中、ギラリと光る目のようなものが浮かび上がった。
「きゃぁぁ!」
お互いに抱き着くティナとリーズ。
「いたたた……。あ、てなとりーず」
ラックの声が聞こえる。
だが暗くてどこにいるのかわからない。
だが二人はそれどころではないのだ。
闇に浮かぶ目のようなものが二人に近づいてくる。
「ひぃ、こないでこないで」
「この、このこのこのー」
怯えてがむしゃらに手を振り回す。
――ばしばしばし
目の化け物に物理的な攻撃がとおる。
「いたい、いたい。やめて」
ラックの声だ。
声と共に目の化け物が消える。
「ラック? どこなの?」
「ここ」
二人の眼前で、いきなり目の化け物が現れる。
「あわわわわ」
二人して尻もちをつく。
「どうしたの、ふたりとも」
目からラックの声が聞こえる。
「ラックなの?」
目前の目の化け物に恐る恐る呼び掛ける。
「そうだよ。たたくなんてひどい」
暗闇にも目が慣れてきたのか、光る目の化け物の周りの輪郭がぼやっと見える。
目の化け物の正体はラックの目だった。
暗闇でも猫の目は人間よりもよく見える。わずかな光を目の中で反射させるためだ。そのため、その目は光っているように見えるのだ。
ティナたちの姿を見つけてラックが近づいてきたため、光る眼も近づいてきた。
そして怯える二人に叩かれたため目を閉じたので、一時、光る眼が消えて、そして再度二人の前で目を開けたようだ。
「びっくりしたわ。最近の出来事のなかでも一番よ」
体操着についた埃を払い、立ち上がるティナ。
「わ、わたしはちょっと腰がぬけて。。」
座ったままのリーズ。
あまりの驚きに動けないようだ。
「それにしても、ラックはこの暗い中で私たちが見えるの? 私たちはまったく見えないけど」
「あかるいところよりはみえないけど、よくみえる」
『暗視のレベルが3から4に上がりました。』
「いま、あかるくなった? さっきよりよくみえるようになった」
「ずっと真っ暗のままよ。何かのスキルかしら」
「何かの、スキルだとすると、私達も、この暗闇で、目を凝らして見ていたら、覚えれるかも、しれませんね」
手足をぷるぷるさせながら立ち上がろうとしているリーズ。
暗いのでティナにはその姿は見られていない。
「そうねかもしれないわね。まあそれを待っているわけにはいかないわ」
スキル取得には個人差もある。それに、覚えたてでは効果がほとんど無い場合も多い。
「だけどこう暗くては首輪を見つけるどころでは無いわね」
差し込む光がほとんど無いため、よほど近くによらなければ視覚による確認はできない。
「ラック。目から光だせないの? 光ってるけど」
「そんなこといわれても……」
「あれ、これは……」
何もない空間だと思っていたが、地面以外にも何かがある。
手に触れた壁と思われるものに寄りかかって何とか立ち上がったリーズ。
そこで何かを見つけたようだ。
「スイッチ?」
手探りでその形状を確認すると、壁に突起のようなものが付いている。
「もしかして魔力灯のかしら」
「押してみましょう」
突起を押してみるが何の反応もない。
こんな暗闇なのだ。ここに魔力灯があればその光で辺りの様子が確認できるのだが。
「点かないの?」
「そうですねぇ、スイッチの横にパネルらしきものがあるんですが、どうやらロックがかかっているようですね。関係者しか点けれない仕組みなんでしょうか」
「何とかならないの?」
「これを点けるのは無理でしょう。その代わり、これでどうでしょう」
リーズが手のひらから光の玉を生み出す。
光魔法の初歩スキル、トーチだ。
真っ暗だった空間がぼんやりとその光に照らし出される。
何もない広大な空間かと思っていたが、そうではない。
リーズが寄りかかっている壁。そして、目の前には地下に向かって降りる階段が伸びている。
「階段ね」
「くろいのつかまえようとして、あそこまでころげおちた」
半階下の踊り場を指さすラック。
「通りで、目の化け物が上下に揺れるようなおかしな近づき方をしてくると思ったわ」
ガチで驚いていた割には結構冷静なティナ。
「とりあえず下りてみるしかないわね。その先が目的地よ」
「お、下りるんですか。怖くないんですか?」
「大丈夫よ。正体見たり枯れ尾花ってやつよ。実際さっきの目玉お化けもラックの目だったわけだし」
・
・
「じゃあ出発よ」
「なんで私が先頭なんですか……」
先頭にリーズ、その後ろにラック、そして最後尾がティナ。
後ろの人は、がっしりと前の人の肩をつかんでいる。
この隊列は変えれそうに無い。
「なんでって、明かりを持ってるからよ」
「そのとおりですね……」
「真ん中にラックを配置しているから大丈夫よ。もし幽霊にあなたがやられても次はラックが止めてくれるわ」
いつも強気で怖いもの無しのティナなのだが。
「いいこと、ラック。幽霊を見つけたら迷わず叩くのよ」
「わかった。まかせて」
話がまとまったところで、暗い地下に向けて進み始める。
「ゆっくりと進みますけど、足元に気を付けてくださいね」
トーチが手元にあるリーズはそれなりに足元が見えるが、後ろの二人はそうはいかない。
ゆっくりと一段ずつ階段を下り、半階下の踊り場にたどりつく。
壁をすり抜けた勢いでラックが転がり落ちた場所だ。
地下なのでもちろん窓は無い。
折り返し地点の踊り場を過ぎ、さらに下を目指す。
階段の一番下がぼんやりと光に照らされる。
そんなに階段は長くは無く、折り返しと合わせて1階分下りただけのようだ。
階段の先には扉が見える。
「扉、ね……」
通路などは他に見当たらない。どうやらこの先はこの扉の向こうだけのようだ。
「扉開けますよ。すぐに階段になってるから気を付けてくださいね」
リーズが扉のノブに手をかける。
――ぎぎぎぎ
錆びた金属が擦れあう音がする。
どうやらカギはかかっていないようだ。
扉を開いて中に入る。
「きゃっ」
自分で言ったそばから先頭のリーズが階段で転倒する。
「わわわっ」
それに引っ張られてラック、ティナも階段から転げ落ちる。
リーズの転倒と共に、頼りにしていた明かりが消えてしまう。
――どすん
真っ暗な中、3人は床に転げ落ちた。
「いたたた」
ティナが誰かともつれ合っている。
「ちょっと、重いわよ……」
「ごめん、てな」
上に乗っているのはラックのようだ。
「しかたないわ。早くどいてくれる?」
「わかった」
素早く体勢を起こすラック。
「わわわ」
ラックの着ている服の端がティナの体の下敷きになっているようで、それに引っ張られる形となり、起き上がるのに失敗した。
――ぽよん
ラックの顔が柔らかいものの上におちる。
「あぶなかった。やわらかくてよかった」
「ちょっと~、らっく~」
怒気をはらんでいるティナの声。
体が小刻みに震えている。
「ごめん、おもいのすぐにどく」
急いで体勢をたてなおそうと、やわらかいものの上に手を当ててる。
「っ!! 一度ならず二度までも、このっ!!」
ティナの平手がラックを襲う。
――ぱーん
暗視のスキルで見えていたにも関わらず、ティナの下に挟まった服に動きを制限されて、平手をかわし切れずに頬で受けてしまった。
その勢いでティナの体の上から転げ落ちる。
横に転げ落ちたことで、下敷きになっていた服も無事に抜け出すことに成功した。
「てな、ひどい」
「どの口がそんなことを言うのかしら。乙女の胸をああもこうも」
ティナが立ち上がり、ラックを探す。
まだ怒りは収まっていないようだ。
「ちょっと、ラックどこにいるの」
今は完全な闇の中。
居場所を知られたらもっと酷い事をされると察知したラックは、近くにある棚に身を隠そうとする。
そこでようやくリーズが光をともす。
ラックにとってはタイミングが悪く、隠れようとする姿が明々と照らされる。
「ラック、そこにいたのね。なに隠れようとしているのかしら」
体を半分棚に隠したラックの前で仁王立ちするティナ。
「ひぃぃ、ごめんなさい」
恐怖から涙目になるラック。
でもなにが悪いのか分かって無い。
「お嬢様、どうしたんですか」
トーチを灯したリーズが合流する。
「どうもこうも」
その胸を両手で押さえ込む。
「むむむ、その巨乳を押さえていったい。。。さては暗闇に乗じて乳繰り合ってましたね」
「そんな卑猥なことしてないわよ! 一方的よ一方的! 被害者よ!」
「いいじゃないですか。その巨乳は男の子のあこがれの的なんですよ。少しくらい」
「好きで大きいわけじゃないわよ。いいわよねリーズはお手頃サイズで」
「ぬあっ、人が気にしていることを。いいんですよ、貧乳だって需要はあるんですからね」
やいのやいの言い争いをする二人を見ながら、ラックはそっと身を隠すのであった。
・
・
「ちょっとラック、聞いてるの?」
言い争いがひと段落し騒動の根源を思い出したティナ。
振り返るがそこにラックの姿は無い。
「あら、ここは倉庫かしら」
ふと我に返る。
「そのようですね」
リーズの手に生み出された明かりによって、今まで暗くて見えなかった部屋の様子が薄っすらと見えてくる。
部屋の中には規則正しく並べられた棚がいくつもあり、いろいろなものが置かれている。
分厚い魔導書、何に使うのか形状からは推測できないマジックアイテム、はたまた生きているかのようにリアルな魔獣のはく製などなど。
「犯人はここに首輪を隠したに違いないわ」
「どうしてですか?」
「この部屋、けっこう埃にまみれているけど、ここ、何者かが触ったのか埃が無くなってるわ」
「あ、そこは明かりが消えた時に触りましたよ」
「……」
――ぶーっ、ぶーっ
「わっ、びっくりした」
急に首輪追跡装置が震えだす。
「ほら、宿直室の時と同じよ。装置が震えているわ。ここに首輪はあるのよ」
先ほどと同じく、しばらくすると震えは止まってしまった。
ずっと震えつづけて教えてくれるわけでは無いようだ。
「ともかく探しましょう。リーズはこっち、ラックはあっちを探しなさい。わたくしはここを探します」
三手に分かれて首輪を探す一行。
明かりは一つしかないため、あまり作業は捗らない。
その中でも、暗視のスキル持ちのラックは自分の持ち場をテキパキとチェックしている。
「ねえねえ、てな。おもしろいのあった」
何かを見つけたようだが。
「こらラック、遊んでないでちゃんと探しなさい」
ティナはティナで必死に持ち場で首輪を探している。
そのため、注意するついでに少しだけラックに視線を向ける。
「ちょっとラック、それ触っちゃだめよ!」
ラックが今まさに触れようとしているもの。
それはずんぐりむっくりの胴体をした埴輪のような姿をしている。
腕は2本ともいくつかの玉を連結したような形状。
足は短く歩けるのかは怪しい。
「え……」
忠告は遅く、ラックはすでにそれに触れていた。
その物体が小刻みに震えだす。
「気を付けて、それはゴーレムよ。もしかしてここの番人かもしれないわ」
胴体と頭が一体となっている。
頭だと思われる部分には黒い穴が二つ開いている。
形状から目だと判断できるそれが光りだす。
「これは素人が作ったゴーレムね。デザインが素人くさいわ」
ゴーレムの形状について酷評するティナ。
「そんなことないですよ。あの丸みを帯びたフォルム、最高じゃないですか。それに最低限の移動機能を残しだだけの足。球形のものを連結させて自由自在の変化を生み出すことのできる手。このゴーレムの作成者はかなりの実力者ですよ」
リーズの反論。美的なセンスは人それぞれだ。
「ラック、早くそれから離れなさい」
――ががぎご
奇妙な音に反応してラックがそこから跳び去る。
――ぶしゅーっ
胴体の下部分から排気を行うゴーレム。
排気と共にゴーレムが完全に起動した。
「二人とも気を付けて。来るわよ」