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猫は異世界転生したことに気づいていない!?  作者: セレンUK
第2話 お嬢様との主従カンケイ
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07 激闘、薔薇の一刺し!

 ――リンゴーン、リンゴーン

 鐘の音と共に、体育の授業が始まる。

 運動場には体操着に着替えた女学生たちが並んでいる。


 体操着とは、運動が行いやすいように作られた動きを制限しない服のことだ。

 上着は白色の半袖で、前後には女学生の名前がかかれた布が縫い付けられている。

 また、下は足の動きを制限しないよう太ももまで露出するほど短い紺色のズボン。

 いや、ズボンと表現するのは間違いか、形状的には下着に近い布面積である。


 その女学生達に交じってラックも並んでいる。

 男性用の体操着が無かったのか、着替えてはいない。

 ただ、靴はきちんと上履きから履き替えているようだ。


「よーしいいか。体育の授業を始めるぞ」

 短髪の若い女性の先生が掛け声をかける。

 先ほどの語学の先生とは違う先生だ。

 学院ではそれぞれの先生に専門の分野と教科があり、授業によって先生が変わるのだ。


「レルム先生、いつ見てもかっこいいよね。鍛えられていて健康的で素敵」

「しっ、聞こえるわよ」

 一人の女学生がこっそりと隣の子にしゃべりかける。


「こら! 私語は慎め。たるんでるぞ」

 案の定、先生からのしっ責を受ける。


「いいかお前たち。淑女に体力とか必要ないとか思ってるんじゃないぞ。未来の旦那を支えるには体力こそ不可欠だ。子作りだって体力が勝負だからな」

 子作り云々と言っているが、レルム先生は未婚という情報が入っている。


「よーし、今日は特別に男子が参加している。お前たちと男子と運動能力の違いを比べてみようじゃないか」


「先生、進言します」

 一人の女学生が手を上げる。


「クラス委員長のミモザか。言ってみろ」


「ただ運動能力を比較するのでは面白くありません。せっかくの機会ですので、私たちとラックさんとで勝負したいと思います」


「お、いいぞ。わが校は学生の自主性を重んじるからな」

 理解のあるレルム先生。

 このようなところが女学生達から人気を集める理由の一つだろう。


「クリスティーナお嬢様」

 ミモザ委員長がティナに向き直る。


「先生の許可は得ました。ラックさんを賭けて私たちと勝負です」

 先ほど先生に伝えた内容と、少し言っていることが違うような。


「いいですわよ。エヴァード家は挑まれた勝負からは逃げませんわ」

 即答で勝負を受けて立つティナ。

 受け継いだ名家の誇りにかけて。


「それで、勝負の方法は?」

「ラックさんと、私たちの代表との5種目勝負です。3種目以上勝利したチームが勝ちとなります」


「5種目……」

「はい。短距離走、懸垂、ハンドボール投げ、 走り幅跳び、 垂直跳びで勝負です」


「それで、具体的に勝者は何を得るんですの?」

「私たちが勝ったら、ラックさんは私たちの物です。もちろんお嬢様も私たちの物です」


 おぉ、とお嬢様派からのどよめきがあがる。


「それで、わたくしたちが勝った場合は?」

「残念ですが、お嬢様とラックさんの交際を応援します」


 ラック派、お嬢様派の両方からため息が漏れる。


「いいでしょう。この勝負受けて立ちますわ」

 ティナとミモザ委員長とが向かい合う。


「じゃあお嬢様、私もあちらのチームに……」

 ティナの近くに並んでいたリーズ。

 そそくさとティナ側からミモザ委員長側に向かう。


「リーズ、あなた」

 ジト目でリーズを見るティナ。


「いや、そう言われても、首輪を外すお手伝いはしましたけど、お嬢様のチームにいてもメリット無いですし」


「あなたがその気なら、いいでしょう。コテンパンにしてあげますわ」

 ティナの目には、逆らったことを後悔させてあげるわ、という強い意志が灯っているかのように見える。


 そうこうしているうちにチーム分けが終わる。


 ティナ、ラックの二人チームと、それ以外の全員のチームだ。


「でわお嬢様、こちらのチームの代表を紹介しますね。南国からの留学生、アマゾネスのアマ子さんよ!」


 一見しただけで、男性と見間違うような体つきの女生徒が姿を現す。


 その太股は筋肉でパンパンに膨れ上がり、隣にいるクラスメートの胴体ほどの太さがある。

 腕の筋肉や胸筋は、一目で鍛え上げたものだとわかる。

 そして日に焼けた肌はとても健康的だ。

 よくよく見れば、スポーツマンの男性よりも一回り大きな体躯だ。

 その中でも女の子らしさのワンポイント。子豚のしっぽのような短い三つ編みが二つ、頭の左右で上向きに鎮座している。


「あま ゛ぁぁぁぁぁ」

 腕を振り上げ、雄たけびをあげるアマ子。


「なんてこと、こんな伏兵がいたなんて」

 まさかの伏兵に驚きを隠せないティナ。


「ふふふ、お嬢様はあまり学園に来ないので知らないかもしれませんが、最近クラスメイトになりましたのよ」


 ・

 ・

 ・


 チーム内の作戦タイム時間。

 勝利に向けての意思疎通を行うのだ。


「ラック、いい。絶対に負けられないわよ」

「よくわかんない」

「負けたらあんたはきっとしっぽを引っ張られて街中を引きずり回されるわ」

「ひぃぃ、こわいー」

「だけど勝てばいいのよ。勝ったらわたくしが豪華な晩御飯をふるまってあげるわ」

「ごちそう!?」

「そうよ、ごちそうよ。わかる? 勝てばごちそう、負ければ死よ。肝に銘じなさい」

「わかったー」

 返事はしているラックだが、多分ご馳走のことしか頭にない。


 ・

 ・

 ・


 ――ピッピッピー


「よーし、各チーム作戦タイムは終了だ。それじゃ審判は私がやるぞー」

 レルム先生がホイッスルを吹き、作戦タイムの終了と競技の開始を伝える。


 まず1種目目の短距離走。


「運動場内のトラック一周の速さを競うぞ。 一本勝負だからな。 いいか、思いっきり汗を流してこい」


 スタートラインに並ぶラックとアマ子。

 そして、距離を取ってその様子を見つめるチームメイト達。


「それじゃあ位置について、よーい」


 一瞬の静寂。

 ラックとアマ子に緊張が走る。


「ドン!」

「あま ゛ぁぁぁぁぁ」

 先生のスタートの合図と同時に、アマ子が雄たけびを上げて加速する。


 ――だだだだだ


 だが、両手両足で走るラックがどんどんその姿を引き離していく。


「あ ゛っま ゛ぁぁぁぁぁ」

 雄たけびを上げたアマ子の太ももが青白く光り始める。


 あれはスキル『馬力』が発動している光だ。

 『馬力』は通常の何倍もの力を出すことができるスキルで、スキルレベルによって倍率も変わってくる。

 レベルによって光の強さも変わってくるが、熟練者になれば意図的に光の強さを変更できる上に光る部分も変更できるため、実践ではその駆け引きが行われることもある。


「ひゃぁぁぁぁ」

 後ろから鬼の形相で追ってくるアマ子に怯えるラック。

 次第にその間が縮まっていく。


「ゴール!」

「どっちが勝ったのかしら」

 外野がざわつく。

 ほぼ同着のように見えた。


「きわどかったが、ラックの勝ちだな」

 先生が判定を行う。

 四足歩行のラックの手がわずかに前に出ていたのを先生は見逃さなかったようだ。


 お嬢様チームのコメント:「さすがラック。次も勝つわよ」

 委員長チームのコメント:「まさかアマ子が敗れるなんて……」


 ・

 ・


 2種目目は懸垂だ。


 戦いの場所が鉄棒に移動する。


「懸垂は回数だ。単純に回数の多いほうが勝ちだ。時間は問わないが、鉄棒から落ちたらそこで終了だ」


 ラックとアマ子が鉄棒にぶら下がってスタートの合図を待っている。


「よーし、それじゃあスタートだ」

 先生からの開始の合図だ。


「あま ゛ぁぁぁぁぁ」

 雄たけびを上げながら、のっすのっすと回数を重ねていくアマ子。

 先生や女学生側からは見えないが、鍛え上げられた背中の筋肉が隆起している。


「ぬぬぬぬ」

 一方のラックは、手をプルプルさせながらようやく1回終わったところだ。


「こらーラック、がんばりなさい。死ぬわよ」

 そんな様子のラックに激を飛ばすティナ。


「もうだめー」

 しかしながら、ティナの応援も効果が無く、ラックは力尽きて鉄棒から地面にずり落ちた。


「勝者、アマ子」

 先生が勝鬨を上げる。


 お嬢様チームのコメント: 「やはりごちそうで釣らないとだめだったかしら」

 委員長チームのコメント: 「これがアマ子の力です。勝敗をイーブンに戻しました」


 ・

 ・


 3種目目はハンドボール投げ。


「投げた距離を競うぞー。枠から出たらノーカンだ」


 地面にかかれた小さめの円とそこから扇状に線が伸びている。

 投者は円の中に入りボールを投げるが、その際にその円から出てはいけない。

 投げたボールも、扇状の線の内部に落下しなくてはならない。


「投げるのは1回だけだ。慎重に、だが思いっきりやりな。まずは委員長チームからだ」


 アマ子が円に入る。


 その周囲をラックがうろうろする。アマ子の注意を削ぐ作戦だろうか。

 ラックの視線は一点を見据えている。アマ子の持っているボールだ。


 いやいや、これは注意を削ぐとかそういう高等な駆け引きではなく、ただただボールと戯れたいという本能から来る行為だ。

 その証拠にしっぽがやたら大きな軌道で揺れている。


「こらラック、邪魔してはだめよ。真剣勝負なんだから」

 ティナから注意が入る。


 ラックはしぶしぶアマ子 (ボール)から離れるのであった。


 気を取り直して。

 円の中のアマ子が目を閉じ集中する。


「あま゛っ」

 小さく掛け声を上げるとボールを持っている腕が青白く光り始める。

 スキル『馬力』を使ったようだ。


「あ゛あ゛あ゛っっっま゛ぁぁぁぁぁ」

 一際大きな雄たけびと共にボールを投げるアマ子。


「おおお」

 外野から驚嘆の声が聞こえる。


 アマ子の投げたボールは運動場の端の端にある壁に当たった。

 そこまで線は書かれてないが、扇の中なので問題ない。


 最中、ラックがアマ子の投げたボールを追う姿が目撃されたが、特に影響はないためスルーされた。


「よーし、次はお嬢様チームだ」


「ラック、いい、勝つのよ。あの壁を超えるのよ。勝てばご馳走よ」

「ごちそうわかった」

 お嬢様チームの打ち合わせが終わり、ラックが円の中に入る。


「いくぞー」

 手にはハンドボールが握られている。

 そしてボールを持った手をぐるぐる回し始めた。


 最近同じようなことがあったような……。


「なげるー!」

 そして投げる。投げる瞬間、ラックの視線は地面を向いていた。


 案の定、ボールは明後日の方向へ飛んで行った。


『遠投のLvが-3から-2に上がりました』

 やはりスキルにマイナス補正がかかっていたようだ。

 何度か投げたことにより、スキルのマイナスが少し解消した。


「ボールが枠から出たからアウトだ。勝者アマ子!」

 先生が勝利宣言する。


 お嬢様チームのコメント: 「ここまで手ごわいとは予想外でしたわ。残りで逆転ですわよ」

 委員長チームのコメント: 「これで2勝です。完全勝利にリーチですね」


 ・

 ・


 4種目目は走り幅跳び。


 戦いの場所は砂場前に移る。


「4種目目は走り幅跳びだ。砂場に向かって走って線の手前で跳ぶんだぞ。この勝負も1回勝負だ。見事な跳躍を見せてくれよ」


 砂場の手前に線が引かれている。あの線を超えてジャンプするとアウトなので、線の手前でジャンプする必要がある。

 砂場内に着地し、線から砂場内に体が着いた一番手前の部分までの距離を記録とするのだ。


「それじゃあ、委員長チームからだ」


「あま ゛っ」

 スタートラインに立つアマ子。

 右手を上げて今からスタートすることをアピールしている。


「あま ゛ぁぁぁぁぁ」

 雄たけびと共に走り出す。


「あま ゛ぁぁぁぁぁ」

 そして跳躍。これは、線のだいぶん手前から踏み切ったが……。


 かなり前で跳躍したと思ったら、線の直前で一度着地した。

 これは溜めだ。

 その着地の勢いを曲げた膝にためて爆発させ跳躍するつもりだ。

 パンパンに張った太ももが青白く光る。


「あ゛あ゛あ゛っっっま゛ぁぁぁぁぁ」

 そして跳躍する。

 まるで白鳥が飛んでいるかのような美しいフォームだ。


 ――どうっ


 そしてなんと、着地予定である砂場を超えたところに着地したのだ。

 着地地点で砂煙が上がっており、アマ子の姿は確認できない。


 風が砂煙を吹き流した後、着地地点のグラウンドにクレーターができているのを確認した。


「ほう、やるじゃないか。砂場を超えてくるやつがいるなんて初めてだ」

 先生がアマ子に称賛を送る。


「ラック、いいこと。これに勝たないと負けてしまうわ。ご馳走も食べれないわよ」

「だいじょうぶ。じゃんぷするのとくい」

 得意と主張するラックは珍しい。


「わかったわ。行ってきなさい」

 ラックを信じて送り出す。


「それではお嬢様チームの番だ」


 ラックがスタート位置につく。


「ごぉぉちぃぃそぉぉぉぉ!」

 アマ子の真似をしているのか、掛け声を上げてスタートする。


『跳躍Lv4を発動します。』

 両手両足で走り、線の直前で大得意のスキルを発動した。


 ラックが空中を舞う。

 ただ、勢い余って空中でぐるぐると回転しているようだが。


 ――すとっ


 そんな様子も予定調和だったかのように、きれいに地面に着地した。


「どう、てな。とくいでしょ」

 ラックが振り返り、にこりと笑顔を見せる。


 ラックが着地したのは、アマ子が作ったクレーターよりもさらに先だった。


「勝負あり。ラックの勝ち!」


 お嬢様チームのコメント: 「これがラックの真の力ですわ。次で決めますわよ」

 委員長チームのコメント: 「まだ最終種目があります。負けてない」


 ・

 ・


 走り幅跳びが終わり、次が最終競技となる。

 ここまでお嬢様チームが2勝、委員長チームが2勝のイーブンだ。

 最終競技の勝敗が、そのままチームの勝敗に直結する。


「まずいわ、みんな集合よ」

 委員長チームが円陣を組む。


「ごにょごにょ」

 最終競技に向けての打ち合わせが行われている。


「次は垂直跳びだし、勝ったも同然ね」

 こちらはお嬢様チーム。

 さきほどのラックの跳躍を見ているので、勝利を確信するティナ。


「かってごちそう。やくそく」

「そうよご馳走よ。勝ってご馳走」

 念入りにご馳走を刷り込むティナ。ラックの扱い方を心得てきている。


「よーし、委員長チーム、ファイト!!」

 女学生達の清々しい一丸となった掛け声。

 それと共に委員長チームの円陣が解かれる。


 ――ざっざっざ


 委員長チームが隊列を整えてお嬢様チームに向かって歩いてくる。

 先頭にはミモザ委員長。

 そしてラックとティナの前に対峙する。


「お嬢様、最後の競技ですが、垂直跳びでは盛り上がりにかけますので、変更とさせていただきます」

 突然素っ頓狂なことを言い出すミモザ委員長。


「最後の競技は格闘です。いきなさいアマ子。ラックさんにアームパンチよ!」

「 あま ゛ぁぁぁぁぁ」

 腕を振り上げて勢いよく突っ込んでくるアマ子。

 狙いをラックに絞る。


「くっ、ラック、かわしなさい」

 咄嗟に判断を迫られた状況に表情が険しくなるティナ。


 冷静にアマ子の動きを見てギリギリで横に跳んで一撃をかわすラック。

 空気を振動させるアマ子の一撃で地面に穴が開く。


「残念ながら不意打ちは失敗のようですね。お嬢様、最後の種目、格闘。オルサリィ学院伝統の格闘競技、薔薇の一刺しローズ・ダンス、受けていただけますよね」


「不意打するだなんて卑怯なことを。わたくし卑劣な輩に屈したりはしませんわ。受けて立ちましょう、薔薇の一刺しローズ・ダンス


「よーし、種目の変更を了承する。最終種目は薔薇の一刺しローズ・ダンスだ」

 生徒の自主性を重んじ、合意の上の変更を認める先生。


 説明しよう。オルサリィ学院伝統の格闘競技、薔薇の一刺しローズ・ダンスとは、区切られたフィールドの中で一対一で戦う競技だ。

 実際に戦うプレイヤーとセコンドと呼ばれるアドバイスを送る者の2名が一組となって戦う。

 プレイヤーは区切られたフィールドから出てもよいが、セコンドは勝敗が決するまでフィールドの中に入ってはいけない。

 などなど、とりあえずふんわりとしたルールはあるが、だいたいなんでもありのバトルだ。


 フィールドの中央で対峙するラックとアマ子。

 ラック側のセコンドはもちろんティナ。

 対するアマ子側のセコンドはミモザ委員長。

 その後ろには勝敗を固唾を飲んで見守る委員長チームの面々が並ぶ。


「それでは、薔薇の一刺しローズ・ダンス開始だ。お互いに死力を尽くせ!!」

 先生が開始の合図を出す。


「先手必勝よ。アマ子、スウィートな息よ!」

 開始と同時にミモザ委員長がアマ子に指示を出す。


「あ゛っ!」

 アマ子が大きく息を吸い込む。

 元々立派な胸囲が一回りほど膨れ上がっている。


 ――ぶあぁぁぁぁぁ


 間髪入れずアマ子が息を吐き出した。


「わわわっ!」

 吐き出された息が、ラックを中心にピンク色の渦を巻く。

 息、なんだろうか。

 もはや煙と言っても間違いではない。


「ラック、大丈夫?」

 煙が濃くラックの様子は外から見えない。


「なんかおいしそうなにおいがするー」

 煙の中から元気な声が返ってくる。


「ラック、すぐにそのピンクの煙から出るのよ。罠に違いないわ」

「あまーい、あまーい」

 ティナの声はラックに届いていない。


「アマ子、跳び膝蹴り!」

 ミモザ委員長がアマ子に指示を出す。


「いけない、ラック、かわすのよ」

 続けざまに技を出してくるアマ子に対し防戦一方。


 ――どうっ


 音と共にラックの体が煙から飛び出てくる。

 どうやらアマ子の飛び膝蹴りをくらったようだ。


 その勢いのまま地面に落ち、その反動で体がバウンドする。

 が、次に地面に落ちる前にくるっと体勢を整えて着地する。


「うぅ、いたい」

 黒色の猫耳がペタンと垂れている。


 だが、スウィートな息によって注意がそれていたにも関わらず、思ったより跳び膝蹴りのダメージは受けていないようだ。

 アマ子側からもラックの姿が見えていなかったため急所をはずれたのか、はたまたラックが直前で本能的に打点をずらしたのか。


 フィールドからスウィートな息が消え去る。

 ピンク色の煙で見えなかったお互いの姿が鮮明になる。


 ざっざっざ、と歩いてラックとの距離を詰めてくるアマ子。


「ラック反撃よ。でも相手は女の子よ。ちゃんと手加減なさい」


「あま ゛ っ!」


「えっと、どうしたらいいの」

 迫るアマ子に対してそのイメージが沸かないのか、ティナに助言を求める。


「首の後ろを叩いて気絶させるのよ。うちのメイドたちもよく練習しているわ」


「くびのうしろ。わかった」

 返事と共に、ラックがノーモーションで跳躍する。


 ――ばしっ


「よし、入ったわ」

 ラックの速さにかわしきれなかったアマ子。

 その首筋にラックは手刀を叩き込んだ。


『スキル:首トン(気絶)Lv1を取得しました。レベルが上がるほど気絶させる確率と気絶耐性の無効化率が上がります。』


 ――ずぅぅん


 首トン(気絶)を受けてアマ子が両ひざをつく。


「そんな、あのアマ子がやられるなんて」

 これまでクラスメイトには見せたことの無い姿。

 その姿に委員長チームが騒然となる。


「かち?」

 ティナの方に振り返るラック。


 その瞬間

「あま ゛ぁぁぁぁぁ」

 雄たけびと共に、突然アマ子が再起動し、ティナの前に陣取るラックに突進していく。


「ラック!!」


 ――どかっ


 一瞬の出来事のため反応しきれず、ラックはアマ子に吹っ飛ばされる。


「あま ゛ぁぁぁぁぁ」

 その勢いのまま止まらずにティナに向かっていくアマ子。


「アマ子、だめ、止まりなさい」

 委員長から指令が出るが、それでも止まらない。


「っ!!」

 身構えるティナ。


 ――どざざざざっ


 このままではティナも吹っ飛ばされると誰もが思ったその時、

 ティナの直前でアマ子は膝をついた。


「……?」

 不思議そうな表情を浮かべるティナ。


 勢いのついたアマ子の膝と地面が接触した際の砂煙が発生している。


「アナダ、ワタシ、オンナノゴイッテクデタ。ブゾクデモイッテモラッダゴトナイ」

 アマ子がぽつりぽつりと語り始める。

 うつむいた顔から涙が流れる。


「アマ子、喋れたのね……」

 委員長チームより。


「ウレシカタ。ワタシアナダニツイテイク」


 片膝をつき跪いたアマ子と、それを見おろすティナ。


「アマ子さん。女の子は強く可愛く、よ」

 膝をついたアマ子の肩に、そっと手を置くティナ。


 砂煙の演出もあり、その姿はまるで王と騎士の神秘的な儀式のように辺りの目に映った。


「あのアマ子を手懐けるなんて、さすがはクリスティーナお嬢様ね。完敗だわ」

 ミモザ委員長の表情は晴れ晴れとしている。


「先生」

 ティナが先生に呼びかける。


「ああ。最終種目、薔薇の一刺しローズ・ダンスを制したのはお嬢様チームだ! よってこの勝負、3対2でお嬢様チームの勝ちとする!!」



 その後、エヴァード家のメイドにガタイの良いメイドが加わったという話があるが、それは定かではない。

※現実世界の走り幅跳びでは回転は禁じ手であり、実際にやると無効となりますのでご注意ください!


この情報を教えてくださった方に感謝です!

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