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30 外典 アニダ ~第3章エピローグ1~

「護衛中の幌馬車を狙って鳥の魔獣が襲ってきたんだよ。

 追いつかれたから仕方なく戦ったんだけどさ、3匹のうちの一匹が幌の上で何かを見つけたらしくてね。

 何だったと思う?」


 私は飲み物の入ったグラスを片手に冒険譚を語っている最中だ。

 今は真昼間。子供たちの教育に悪いからと、昼間から酒を飲むことは止められているので、これはただの水だ。


「んー、積み荷かしら。でも積み荷は幌の上には無いわよね。

 分かったわ。幌の上に魔よけの紋章が描いてあったのよ」


 そう答えるのはシスターエザリ。久しぶりに帰ってきたのだからと話をせがまれたため、絶賛ガールズトーク中なのだ。

 ガールズというには年齢が、とか思ったんじゃ無いだろうな。いつになっても女の心は乙女のままなんだよ!


「残念。なんと屋根の上にはラックが居たんだ。

 飛んで襲ってくる魔獣に対してさ、そりゃあ見事な跳躍だったよ。

 目で追うのがやっとだったけど、鳥魔獣に何もさせることなく打ち倒したんだ。

 見た目、可愛い少年なのにさ」


「あら凄いのね。アニダが気に入るわけだわ」


「そうそう。それにその後もびっくりしてね。

 なんと羽を毟ってその鳥魔獣を食べようとしたんだよ。生で。

 それでさ、持ってた干し肉を上げたらすごく喜んでさ。

 ほんっと可愛いんだよ」


「まあ、生でなんて。おなか壊さないのかしら」


「いつも生で食べてるのかな。

 獣人の子はお腹が強いのかもね。

 それでね、そこでピンと来たんだよ。

 小柄なこの子ならキングリザードを封印している洞窟の仕掛けの穴に入れるんじゃないかなって。

 それにそこらの冒険者より強いし、可愛いし」


「あら、でもリリーヴォルトの効果で魅了されちゃうんじゃないの?

 私の使っていた時はそんな効果は無かったのに、不思議よね」


「うっ、ま、まあ不思議だよね。

 そ、それよりも、エザリ姉ちゃんが言うようにやっぱりラックでも駄目だったよ。

 しっかり魅了されてしまったんだ。

 あんなにちっさな体なんだけど、思ったより力が強くてね。

 ああ、男の子なんだって思ったね」


「あら、それでそれで?

 誰もいない遺跡の中で不純な事したのかしら?」


「まさか!

 押し倒されたときに落とし穴に落ちてさ。

 その先でキングリザードにご対面したんだよ。

 そんな暇無い無い」


 実際にはチャンスは何回かあったんだけど、それを言うと厳しい突っ込みが入るので秘密にしておこう。


「勇者の手記のとおり傷だらけだったよ、キングリザード。

 傷口から毒を含んだ血も流れててね。きっとその血が洞窟から染み出して、村の農作物に影響を与えてたんだ。

 片目も潰れてたりしてね、これならやれそうかも、って思ったけど、魅了状態のラックを抱えて逃げるのに必死でさ。

 さすがに背中に抱き着かれた状態ではまともに戦えないからね」


 エザリ姉ちゃんが無言のまま疑いの目でこっちを見てる。

 これは何かを察知してるに違いない。話を逸らさないと。


「それでまあ、何とか洞窟を脱出して、前に助けてもらった魔法具屋のおばあちゃんにラックの処置をしてもらったんだ。

 ラックの魅了はなんとかなったけど、また同じことが起こる様じゃキングリザードが倒せないし。

 だからといってここでラックとお別れするのは嫌だったし。

 どうしたもんかと思ってたら、そしたらなんとね、天才魔法具士リーズとラックが知り合いだっていうんだよ。

 知ってる? リーズ」


「そうねぇ、聞き覚え無いわね。

 現役を引退してからそっち方面には疎くなったから……」


「なんか、魔法具士ランキングにのる凄い子なんだって」


「凄い子? 子供なの?」


「そうそう。なんとマフラスにある学院に通う女学生なんだよ。

 それで、リリーヴォルトについて何かわかるかもしれないと思ってね。

 会いに行ったってわけ。

 いやあ凄かったよ。さすが天才魔法具士。

 リリーヴォルトの改良をしてくれてさ、切り札の魔法具までくれる太っ腹だったね。

 天才肌な性格してたけど、狭くて暗い所が怖いっていう可愛い面もあってさ」


 リーズにもお礼を言いに行かないといけないな。まあ、あの子はラックが目当てのようだったけど、


「それで、何が原因だったの?」


「えっ、何がって?」


「リリーヴォルトの魅了効果よ」


 しまった、うまく撒いたと思ったのに……どうやってごまかすか。


「えーと、えーと……」


 あぁ、ジト目で見てる。こっちを見てる。


「ん、んー、フェロモン……」


 酷い羞恥プレイだよ。身内に向かって恥ずかしい話をさせられるなんて……。


「フェロモン? へえ、フェロモンね。なるほど」


 あ、これはすべて分かったという顔だ。

 もうお嫁にいけない……。


 ――コンコン

 沈黙を破るかのように扉をノックする音が聞こえる。


 どうぞ、とエザリ姉ちゃんが答えると、部屋の中にヴィナが入ってきた。


「シスター、お客様です」


 フェロモンのくだり聞こえてないよね?

 流石にヴィナにまで知られると恥ずかしすぎる。


「おっと、それじゃあどうやらここまでのようだね。今からいい所だったのに、残念だな~」


 もう少し、もう少し早く来てくれていれば!

 話し終えた後とはいえ恥ずかしいため、私はそそくさとその場を後にした。


 ・

 ・

 ・

 ・


「アニダ姉さん、お客様よ。ヴェヌール城からの使いの方」


 部屋でぼーっとくつろぐ私の元にヴィナが現れる。


「やっと来たのか。待ちくたびれたよ」


 解毒器官を渡してから5日程度経っている。

 早馬でお抱えの医者か術士かを呼び戻すとしても、もう少し早く出来そうなもんだ。

 

 釈然としないまま用意を済ませると、私達は(・・・)教会の前で待つ馬車へと向かった。



「おやそちらの方は」


 どうやら迎えはこの前に城で会った執事ではないらしい。

 馬車の前で直立不動で立ち続ける男。

私たちが出てくるまでそれなりの時間が経っていると思うのだが、一切の乱れもない。 


「私の家族さ」


「初めまして。ヴィナと申します」


 ヴィナがスカートのすそを持ち上げて男に対して礼をする。

 どこで覚えたのだろうか。私もシスターも冒険者上がりだから、作法なんか教えられないんだけど。

 ヴィナはいろいろな事を知ってるからな。


 ちなみにヴィナはいつもはズボンを履いているのだが、今はスカートを履いている。お城に行くのだからと私が街で見繕ったカワイイやつだ。


「黒髪の獣人の男の子とお聞きしておりますが」


 男が四角四面な問いを投げかけてくる。

 これは男の主の威厳を保つことに必要なことだ。

 とは言え、別にお呼ばれした舞踏会ってわけじゃない。誰が何人で行っても問題ないはずだ。


「硬い事言うなよ。別に運賃取ろうってわけじゃないんだろ、未来の奥方様に対して。」


 私はあえて粗暴で失礼な発言をしてみる。


「その通りですマドモアゼル」


 私の投げかけた失礼な発言にも丁寧に返答を返す男。かなりの教育を受けているのが分かる。


「横暴なことを言って済まないね」


 どうやら相手も試されたことが分かっていたようだ。話が早くていい。


「それでは、アニダ様、ヴィナ様、お乗りください」


 そうして私たちはヴェヌールの城へと向かったのだ。



 途中、ヴィナから「アニダ姉さん、その恰好のまま領主様と会うの?」と問われたが、「鎧の上から服を着る人はいないだろ、大丈夫大丈夫」と言ったらしぶしぶ納得していた。



 馬車の窓から移る景色が見飽きた田園風景から人々の行きかう街の様子に移り変わり、しばらくしたところで馬車はヴェヌール城へと到着した。



 老執事に案内されたのはこの前の応接室とは違う部屋だ。

 話によると、跡取りの病は回復傾向にあるが、まだ完治しているわけではないため、跡取りの部屋で面会を行うとのことだ。


 なるほど。応接室に比べて質素な扉がお出迎えしているのはそういう訳かい。


 執事が扉をノックすると、中から入れとの声が返ってきた。

 さてと、とうとうご対面ってわけだ!


 執事が扉が開くと、中の様子が目に飛び込んでくる。


 へぇ、これが貴族様の私室ね。煌びやかなものがいろいろ置いてあるけど、まあ部屋の事は私は別に興味は無い。

 それよりも、その中に一人、二人、三人。

 老人が一人。中年のオッサンが一人。そしてベッドの上にいる子供が一人。

 この子が跡取りのイシュルドだな。


「アニダ様、ヴィナ様をお連れ致しました」


 私たちを彼らの前に案内すると、執事はそう紹介する。

 とりあえず二人して簡単に自己紹介をしておいた。


「こちらがアルゼン様。イシュルド様の祖父であり、前々当主であります」


 ほほう。どこの老人かと思ったらご隠居さんね。

 その真っ白な髭を蓄えた老人は眼光鋭く、まるでこちらを値踏みしているかの様だ。

 引退しているにしては威厳があるな。


「そして、こちらがイシュルド様です。ご存じのとおり、次期当主となるお方です」


 ベッドの上の幼い少年が会釈する。

 この子が跡取り息子ね。幼いと聞いていたけど病み上がりだからか一層小さく見えるね。

 年の頃はラックと同じくらいかな。異なるのは少し癖っ毛のある金髪な所か。


「こちらはゲッバス様。イシュルド様の伯父にあたり、現在内政を取り仕切っておられます」


 最後に残ったのがこの中年のオッサンだ。

 身なりはいいのだが、誰からも好かれるというような顔はしていない。特にそのチョビ髭が抜群に似合っていない。

 まあ、姿形で内政の力量が決まるわけじゃないからな。

 ともあれ、直感的にこいつはいけ好かない。


 これで、あちらもこちらも人が出揃った訳だ。

 さてさて、ここからどんな話になるのやら。

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