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29 外典 アニダ ~女冒険者、黒耳黒尻尾の少年と出会う~

 冒険者になった私は意気揚々とクエストをこなしていった。最初はお使い程度の物から始まり、徐々にこなせるクエストの難易度も上がっていった。

 魔法鎧リリーヴォルトのおかげで私は初心者にしては速いスピードで冒険者の階段を駆け上がっていったのだ。


 もちろん鎧の力だけではどうにもならないこともある。命の危険を感じることは何度もあった。

 その度に教会の子供たちの事を思い出し、恐怖に打ち勝って来た。


 そうしてしばらくしたところで気づいたのだ。冒険者になっても自分が食べるのに必死で教会に仕送りすることもままならないことを。

 その理由は簡単だ。一人で出来ることには限界がある。


 今まで一人でできるクエストだけをこなしてきた。それらはつまりは誰でもできる仕事であって、大金を手に入れることが出来るものではない。

 誰にもできない仕事、つまりは難易度の高い仕事こそ莫大な報酬を得ることが出来るのだ。

 それに気づいてからは一人では完了できない難易度のクエスト情報も確認するようになった。パーティーを組んで討伐を行うようなクエストだ。

 確かに報酬を人数割りしたとしても今よりは稼げるようだ。


 しかしながら問題がある。

 私には知り合いがいない。そもそも私は他の冒険者を信じていない。やれ孤児上がりだの女冒険者だのと言われることも度々あった。そんなため、あえて他の冒険者とは距離を置いていたからだ。


 それに自分で食べるのも必死なのだ、自分で冒険者を雇ってパーティーを組むほど大金を持っているわけではない。

 たとえそうしたとしても信頼のおけない者とパーティーを組むなど狂気の沙汰だ。

 クエスト報酬を横取りされるかもしれない。

 横取りされるだけなら百歩譲っていいのだが、その結果にはたいてい口封じという死が待っている。

 逆も同じだ。別パーティーのクエストに同行させてもらおうにも、信頼のできない異物、つまり私を入れるデメリットのほうが多いのだ。

 つまりはお手上げってこと。地道に冒険者たちの信頼度上げでもしようかと考えていた時、とあるパーティーから誘いがあったのだ。


 そのパーティーは男だけのパーティーだった。

ヴォルフガングという名の狼の魔物の群れを討伐するクエストを行うから参加しないかということだった。

 なぜ私なのかを問いかけたところ、最近売り出し中の冒険者がどんなものか興味があったとの答えが返ってきた。

 まあ向こうが入れてくれるというのだ、問題ないのだろう。それにクエスト報酬を確認すると今まで一人で受けてきたクエストと比べると破格の物だった。

 そういうわけで私は初めてのパーティークエストに参加することとなった。

 後々、少し考えれば胡散臭いのが解りそうなものなのに……。



 男達4人のパーティーに参加した私は、気さくな男達との会話に徐々に気を許していった。

 ああ、仲間がいるって楽しいんだ、と思っていたわけだ。

 もちろん男達の思惑にも薄々気づいていた。皆が皆でチラチラと私の胸やら尻やらに視線を送っているからだ。

 昔、街の酒場で詩人の男に聞いたことがある。なんて言ったかな、確か異国の言葉で、オタサーの姫って言うらしい。

 まあ、年上の男達にちやほやされて私もまんざらでは無かったってことだ。

 そんなこんなで、いずれ起こるであろうその結果の事までは考えが回っていなかった。


 だがその時(・・・)は思っていたのとは違う展開で起こってしまった。


 ヴォルフガングの群生地へ向かう途中、山林で野営していた時に、あろうことかターゲットのヴォルフガングの群れから夜襲を受けたのだ。

 もちろん手慣れた冒険者パーティーだ、それらに対応する能力は高かった。


 ただ一人、私を除いて。


 私も夜襲は何度か受けたことがあって、命からがらの場合もあったが、これまで何とか切り抜けてきた。

 しかし今回は違った。なんせパーティーなのだ。集団戦に慣れていない私はペースの配分を間違った。

 男達との拙い連携に力を割かれた私は自分のペースで戦うことが出来ず、予想以上に体力と気力を削られていった。


 そして疲労が蓄積した思考が導き出したのが、魔法鎧リリーヴォルトの開放だった。

 その力を使い、全力で狼たちを殲滅するということだ。


 本当は初対面の人間に鎧の力を見せるべきでは無かった。強力な魔法具となると、それ欲しさに狙われることもあるからだ。

 ただ、疲労で思考力が落ちていた事と、足を引っ張っているという罪悪感、それにここまでの旅の中で男達に気を許してしまっていた事が重なって、そう判断してしまったのだ。


 思惑通り私はその力で男達の足を引っ張っていた分を取り返し、何とかその場を乗り切ることが出来たのだ。

 そして悲劇は起こってしまった。リリーヴォルトの全力解放で起こる効果をこの時の私は知らなかったんだ。


 鎧の排気と共に辺りに舞う私のフェロモン。その効果により男たちは魅了状態となった。

 辺りにまき散らされたとはいえ、そこは風通しの良い場所で、通常なら霧散してしまうレベルだ。

 だが男達もベテランとはいえ夜襲による疲労で体力が落ちていた事もその効果に拍車をかけたのだろう。


 私は屈強な男達4人に押さえ込まれたのだ。


 目は獣のように血走っており、正気ではないことがその時の私にも解った。

 それまで頭の隅に追いやっていた、力づくによる男と女の関係という考えが不意に蘇ってきた。


 もちろん全力で抵抗したが私も女だ。男の力。それも4人では勝ち目が無い。

 抵抗を続ける私を嘲笑うかのように男たちが私の鎧を外そうとした。だけどその鎧は外れないんだよ。

 その理由が分からない男達はムキになって私の鎧を外しにかかる。そこに隙が出来た。


 男達から襲ってきたのだ、返り討ちにしても問題は無いだろう。腕の一本や二本失っても文句は言うなよ?

 そう思った矢先。なぜか偶然通りかかった老婆が私ごと全員を魔法具で眠らせてその場を収め、その後彼らを冒険者ギルドに引き渡した。


 やれ私がたぶらかしただの、その老婆も私の仲間で俺たちははめられたなど見苦しいことを言っていたが、男達には前科があったらしくギルドは私の言い分を受け入れてくれた。

 もちろん当事者だけではなく第三者である老婆の証言が大きかった事もある。

 クエスト報酬も含めて男達からは大金をふんだくったが、改めて世の中の厳しさというものを味わったものだ。



 それ以来私は男とパーティーを組むことは無かった。

 だけどそれでは行き詰るので、女とはたまにパーティーを組んでクエストを行っていた。その時もできる限りリリーヴォルトの力を使わないように気を付けていた。


 そもそも女冒険者の絶対数が少ない。いたとしてもすでにオタサーの姫として固定パーティーに参加しているか、ちやほやされないゴリマッチョかだ。いや別に、ゴリマッチョでも強ければ問題ないんだよ。大体は性格に難ありだけど。


 街から生態系の調査を行うために派遣されてきたという眼鏡の女性の護衛をしたこともあった。あの子は可憐で良かった。護衛なのでパーティーとは違うけど。


 そんなわけで、大儲け出来ること無く途方に暮れていた時に、とある話を耳にしたのだ。


 ヴェヌール領主が大金を支払っても手に入れたいものがあると。


 詳しくはこうだ。ヴェヌール領主の跡取りが重い病に罹っている。それを治したものには莫大な報酬か跡取りとの結婚を認めると。

 つまり跡取りの病気を治せば跡取りと結婚して次期領主の妻の座を勝ち取ることが出来るのだ。


 莫大な報酬も魅力的なのだが、領主の跡取りとの結婚には遠く及ばない。しかしながら、跡取りは男なので結婚だけを報酬にしていると男達の力を得ることはできないため、莫大な報酬が付け足されているという事だろう。


 とはいえ、どんな病かも分からないし、そもそも私は医者でも高等魔術を操る神官でもない。

 何かしらのヒントを求めてヴェヌールに赴いた私は生の御触書きを見て、これは無理だなと思ったのだ。


 御触書きにはクエスト達成条件にいくつかのアイテムが記載されていた。どれかを持ち帰り跡取りの病気を治せばOKとのこと。

 ・コーネリアスの涙

 ・神前群寿草

 ・メテオライト

 そして、キングリザードの解毒器官だ。

 

 どれもこれも御伽噺でしか聞いたことのないものばかりだ。実在するかどうかも怪しい。かろうじて実在するであろう物が最後のキングリザードの解毒器官だが、こちらも難易度はバカ高いだろう。

 キングリザードを討伐するには30人規模の騎士を集める必要があるという。

 つまりは、ソロ冒険者にとってはお手上げってことだ。

 あーあ、楽して大金は稼げないか。世のなかそんなに甘くないよね。と、その時は思ったものだ。



 数日後、一つの転機が訪れた。

 クエストのためにとある村に寄ったのだが、その村は数年前から徐々に作物の成長が悪くなり始め、収穫量に影響が出ているという。

 農業の事など専門外なのでさらりと流してしまおうと思ったが、村人の口から出たのは意外な言葉だった。


 それはキングリザードの毒ではないかと。


 数十年前、このサザンド山脈一帯を縄張りとしているキングリザードがいたらしい。山に入ることが出来ないのは元より、山から下りてきた際に引き起こされる大惨事を考えると村人たちは気が気ではなかったが、討伐隊に支払う高額の報酬が用意できるはずもなく恐怖におびえて過ごすしかなかった。

 そんな折、勇者だという一人の男が村に立ち寄ると、困り果てた村人たちの様子に心を痛め、キングリザードを討伐することを約束した。

 自ら勇者だと名乗るその男に村人たちは胡散臭ささを感じたが、藁にも縋る思いであった村人たちは勇者を歓待し、討伐へと送り出した。


 自称勇者を送り出して数日たったがその男は戻ってくることは無く、村人たちは詐欺られたと思い、次はそんな手には引っかからんぞと思いを固めた矢先の事。

 その男は戻ってきた。血まみれ傷だらけではあったが、しっかりとした足取りで戻ってきた自称勇者。


 彼によるとキングリザードに深手を負わせたが倒し切ることはできなかったという事だ。

 しかしながら、激しい戦いの折、深手を負わせたキングリザードを地面の亀裂の底に落とすことに成功したという。

 勇者自身も相当なダメージを負っており、その亀裂の調査に時間がかかったため直ぐに村に戻ってこれなかったのだ。


 亀裂の底はとある古代神殿につながっており、その入口は厳重に封印されているため、そこからキングリザードが出てくることは無いだろうとのこと。

 ただし、深手は負わせたもののキングリザードを倒したわけではないので、将来何らかの影響がある可能性があることが示唆されていた。

 それでも、喫緊の脅威を排除できたことに村人たちは沸き立ちその男を真の勇者として祀ることにした。


 ――当時の村長の日記より


 その話を聞いた時、私はピンと来た。

 当時の勇者に深手を負わされたキングリザードがまだ生き残っている。そんな瀕死の個体なら私、いやこの魔法鎧リリーヴォルトがあれば討伐し、解毒器官を入手することが可能なんじゃないだろうかと。


 幸い、昔の話でありよくある伝承話だと思われているのか、この話が知れ渡った風でもない。

 また、この村から冒険者ギルドに依頼されているクエストがあるのだが、それは農作物不作の調査という題目で出ていたことを記憶しており、一足飛びにキングリザードにたどりつくという訳でもなさそうだ。


 それでも私は急いで冒険者ギルドに赴くと、この村の依頼したクエストを受けるのであった。



 村長にクエストを受けたことを伝え、当時の勇者が記したとされる手記を見せてもらうことが出来た。そこにはキングリザードとの激戦の様子や、その後周囲の地形を調べた調査結果、古代遺跡へのルートと中の詳しい構造などが書かれていた。


 その古文書とも言える手記の内容をもとにキングリザードの討伐に向かった私だったのだが、古代遺跡の入口の封印を解くことはできなかった。


 手記によると入口の横にある穴の奥に扉を開閉するためのスイッチがあるらしい。

 勇者は自身のスキルで難なくこれを押して開閉していたようだが、そんなスキルを持たない私には手も足も出なかった。

 もちろん穴に挑戦してみたが、尻が引っかかって奥に進めなかった。


 振り出しに戻るだ。

 何らかの方法で、あの細長い穴を攻略しなければキングリザードにはたどり着けない。


 クエストを受注したとはいえ、最中の食が保証されるわけではない。

 路銀も尽き始めクエストを継続することが困難になってきたため、仕方なく簡単な別のクエスト、馬車の護衛を受けることにしたのだ。


 そして私は出会ったのだ。あの綺麗な毛並みの黒耳黒尻尾を持つ少年に。

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