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猫は異世界転生したことに気づいていない!?  作者: セレンUK
第3話 気まぐれなラックと面倒見の良い冒険者
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23 ネコのさがは抑えられないもの

「キングリザードは強敵だ。簡単には倒せない。そこで策を考えた」


 ここは封印の間。

 リーズと別れた二人は、準備を整えて再びキングリザードと戦うためにサザンド山脈を訪れていた。

 途中で落とし穴に落ちた前回とは異なり、正しいルートで封印の間に到達している。


「まもの。たべるの?」


 ラックの目の前には魔物の死骸がある。先ほど洞窟内で仕留めた毒イノシシだ。


「いいかい、これは食べれない。毒があるからね。でも、キングリザードに食べさせる」


「たべるの?」


 先ほどと同じようなセリフだが、毒があるのにキングリザードが食べるのだろうか、と聞いているのだろう。


「食べる。おそらく奴はとてつもなく空腹に違いない。目の色を変えて私たちを襲ってきたからね」


 封印の間には食料となる魔物はまったく存在しない。

 先日は古びた骨を見かけたが、封印の間の最上部に広がる亀裂からたまたま落下してきた獲物の類だろう。

 そんな環境の中で今まで生存してきたキングリザードはまさに化物とも言える。


「だけどだ。キングリザードに毒は効かないだろう。なぜなら奴は自分の体内に毒を持っていて、その毒を浄化する器官も持っているからね」


 アニダが狙っている解毒器官のことだ。キングリザードを倒し、体内から解毒器官を取り出すことがアニダが受けているクエストの目的だ。


「えさ、あげるだけ?」


「ふふふ、そうじゃない。これは罠だ。この肉に気を取られているうちに背後からキングリザードを襲うんだ」


「わかった」


 二人は入念に打ち合わせを行い、作戦を実行に移すのであった。


 ・

 ・


 毒イノシシの死骸を通路の真ん中に設置する。

 ラックとアニダは大岩の物陰に潜んでキングリザードが罠にかかるのを待っている。


 隠れてからしばらくすると、その匂いにつられてきたのか、奥の方から大型の生物の足音が聞こえてくる。

 その音は次第に大きくなり、山のような大型の爬虫類、キングリザードが姿を現した。


「音を立てずに静かにするんだよ」


 聞き取れるか聞き取れないかの小声でラックに伝える。

 それに応えるように頷くラック。


 地響きを思わせる振動を引き起こしながら、二人が隠れている大岩の前を通り過ぎ罠の方へ向かうキングリザード。

 一歩一歩ゆっくりと進む度に、太い尻尾が右に左にと揺れている。


「ちょっとラック、まだ早いよ」


 大岩から身を乗り出してその様子をうかがうラックを小声でたしなめる。


 先ほどの打ち合わせではキングリザードが餌に食いつく瞬間まで隠れているということだった。


 アニダからの制止も聞こえているのかいないのか、ラックの目はキングリザードをとらえて離さない。


「キミ、もしかして……」


 アニダは気づいてしまったようだ。

 ラックが左右に揺れるキングリザードの尻尾に夢中(・・・・・)であることを。

 そしてその体を押さえようと思ったときにはすでに遅かった。


 アニダの腕をするりと抜けて、ラックは尻尾めがけて爆走したのだった。


 大声を出すと作戦そのものが失敗する可能性もあるので、ラックを呼び止めることができなかったアニダ。


 ラックはアニダの気も知らず、一直線にキングリザードへと向かって行く。


 右、左、右、左と規則正しい動きで大きく揺れる尻尾。

 ラックは尻尾の元まで来ると、その先端の動きを追っている。


 右に一番揺れたところで、ばしっ。

 左に一番揺れたところで、ばしっ。


 動きが一瞬止まるところを見計らってジャンプして尻尾の先端を小突き始めたのだ。


 その様子をほんわかと眺めていたアニダだったが、ふと正気に戻ると、岩陰から飛び出しラックの救出へと向かった。


 通路に置かれた獲物を目の前にしたキングリザードであったが、さすがに尻尾の違和感に気づいたようだ。

 歩みを止めると、ゆっくりとその顔を背後へと向けた。

 

 尻尾の動きが止まり、先端が高い位置で固定される。

 キングリザードの視界には自分の尻尾の先端に向けてジャンプを繰り返している黒耳黒しっぽの少年の姿が映っていることだろう。


「ラック!!」


 救出のためその場に向かいつつも、尻尾の先端に気を取られている相棒に呼びかける。

 尻尾の先端がゆっくりと上に上がったことにラックは気づかないでいる。


 そして勢いよくそれが振り下ろされたのだ。


「ラック危ない!!」


 あと少しの距離。救出に向かったアニダとラックとの距離は。

 だがこのタイミングでは抱きかかえて尻尾をかわすことは困難だ。


 せめても、ということか、ラックに体当たりして攻撃の軌道から外すという選択を取る。


 ひょいっ


 アニダの目の前で、ラックは振り下ろされた尻尾の攻撃を難なくかわした。

 そして斜めに振り下ろされた尻尾がラックを救おうとしていたアニダに直撃することとなった。


 弾き飛ばされて吹っ飛び、その勢いのまま地面を転がるアニダ。


「いつつ」


 当たり所は悪くなかったようで、それほどダメージはなさそうだ。

 痛みをこらえつつすぐに体勢を立て直す。


 キングリザードの目がラックに続き、アニダも捕らえた。

 その表情からは判断がつかないが、ようやく見つけたご馳走を邪魔された怒りが膨れ上がっていることだろう。


「ラック、キミは後ろから攻撃してくれ。私は正面で、別れて攻撃することでこいつの注意をそらすぞ」


 迫る前足の一撃をかわして、アニダはキングリザードの正面へと陣取った。

 対するラックは後方。

 返事は無いが、揺れる尻尾の誘惑から立ち直ったんだろうか。


 自身の正面に陣取ったアニダに向かってキングリザードは前足を振り下ろす。

 体長が大きいため単純に前足も大きい。その質量に加速度が加わるため大きな破壊力を生み出しているのだ。


「そんな単調な攻撃が当たるわけないよ」


 身をかわした瞬間、すれ違いざまに足に向けて剣戟を振るう。


 鈍い音がした。

 それはアニダの剣が鱗にはじかれたことを物語った。


「硬いね。剣が通らない。ラック、そっちはどうだい?」


「んー、しっぽがじゃまする。それにつめはひっかからないよ」


 ラックはというと、後方から背中を狙うべく隙を窺っているのだが、頭上にそびえたつような太い尻尾に動きを阻まれていた。

 時折振り下ろされるその尻尾を直接引っかいてみるが、効果があるようには見えない。


 ラックの手は前世の猫とは違い、物理的な爪は人間のそれと変わらない。

 スキル『爪撃』により発生している爪を器用に使い、猫時代と同じように引っかいているのだ。


 そうはいってもアニダの剣をも弾くようなキングリザードの鱗。

 ラックの爪も鱗の前には傷一つ与えられていない。


「しばらく注意を引き続けておいておくれ。こっちで強力な一撃をお見舞いしてみる」


「わかったー」


「さっきも言ったけど、こいつの体には毒があるからね、決して噛みついたりするんじゃないよ」


「はーい」


「さて、一発やるとするか」


 アニダはリリーヴォルトの一撃を叩き込むつもりだ。

 激しい前足の攻撃を回避しながら隙を探す。

 その目は鋭く、僅かな隙も逃すまいとする意志を感じる。


 前足の動きが一瞬止まる。

 これはチャンスか、と思うがそうではない。キングリザードの口がいつの間にか閉じられている。

 前回苦しめられた粘液攻撃の前兆だ。


「粘液を吐くつもりかい。所詮は爬虫類。学習しないね」


 間を置かず粘液が吐き出される。

 アニダの背の3倍はあろうかという高さにある大きな口から放たれるそれは、残念ながら発動タイミングが分かっても回避はできない。

 アニダは前回同様粘液まみれになるのであった。


「リリーヴォルト解放!!」


 だがそれを好機とばかりに改良された魔法鎧の力を解放する。

 魅了というデメリットは消え去っている。どれだけ全力を出しても良いのだ。


「こいつを食らいなよ!」


 鎧による熱で粘液を蒸発させ周囲の視界を奪う霧を発生させると、魔力を込めた一撃を胸元に叩き込んだ。


 ――ギャォォォォゥゥ

 キングリザードの咆哮が響き渡る。


「少しは効いてるけど、致命傷ってわけにはいかないか」


 並みの魔物なら今の一撃で消し炭になっているか、両断されているかだが、硬い鱗に覆われた胸元に僅かばかりの傷を残しただけだった。

 昔に受けたのであろう古傷に交差するように新しい傷が刻まれたが、その傷は古傷よりも浅い。


 ――ぶわっ


 リリーヴォルトが排気を行う。

 魔法障壁に穴は開かなくなっており、排出される空気にアニダのフェロモンが混じることは無い。


 粘液が蒸発してできた靄が排気によって散り散りになっていく。


 ――グガァァァ


 咆哮と共にキングリザードが上体を起こす。

 上半身が起き上がり、両前足がフリーになる。

 そこから怒涛のラッシュがアニダを襲う。


「見た目に反して、速い、なっ!」


 前に後ろに左に右に。アニダは両前足から繰り出される攻撃を避け続ける。

 移動できない体勢からの攻撃だ。射程範囲から出れば当たることは無いのだが、かわすので精一杯で射程外に出ることはできていない。


「くっ!!」


 そうしているうちに、一撃がアニダの体をかすめる。

 そのせいでバランスを崩したアニダは次の一撃をまともに受けてしまう。

 いや、よく見ると上からの一撃を剣を斜めにして受け、直撃を防いだようだ。


 だが、強烈な一撃の威力をすべて受け流せずにアニダの体は吹っ飛んだ。


「あにだ!」


 ラックの声だ。

 ラックはラックで、尻尾に阻まれてアニダを助けに行くことはできない。


「大丈夫だ。心配いらない」


 アニダは衝撃の痛みをこらえて立ち上がる。

 その左腕には数本の筋のような切り傷が見える。キングリザードの爪が傷を付けたのだ。

 

「本当に手負いなのか、このキングリザード。手負いでこれだけの戦闘力を持っているなんて、完全だったらどれだけなんだ」


 腰に下げてある革製の道具袋。そこから布状のものを取り出し、傷を受けた部分に無造作に巻き付けていく。

 布にじわりと血がにじみだす。 

 

「現時点で最高威力の攻撃が効かないんじゃ、早々に切り札を使うしかないか」

 

 布を腕に巻き終えたアニダ。

 さらに道具袋から布の塊をを取り出すと、その布を解き始める。

 中から現れたのは一つのクリスタル。

 リーズから渡された対キングリザードの切り札だ。


 青く光を放つそれを見つめると、手触りを確かめるように指を滑らせる。


「すっごく割れやすそうだけど、よく今まで割れなかったなこれ」


 どうやらひび割れを探していたようだ。

 布に巻かれているとはいえ、尻尾の一撃を受けたり、地面を転がったりした際に割れなかったのは不幸中の幸いだ。 


「リーズの話しじゃこいつを投擲してクリスタルを割る、ってのが使い方だったけど、魔物とは言えそんな隙を作るような相手じゃないよね」


 すでに前後を挟んで攻撃していてのあの動きだ。素直にクリスタルを投げ込まれてくれるとは思えない。


「近距離で投げつけるしかないか……」


 背中や後方からなら投擲の成功率も上がるだろう。だが爬虫類で冷気に弱いとはいえ、その分厚い鱗にどこまで効果があるのかは分からない。

 それならばあの前足をかいくぐって、先ほどの一撃で傷を付けた胸部に炸裂させる方が倒せる可能性も高いだろう。

 熟練冒険者であればそのような考えが巡っているに違いない。


「ラックをあまり待たせても悪いな。よっし、やるか!」


 剣を左手に持ち替え、右手にクリスタルを握る。

 そしてアニダはキングリザードに向けて疾走した。


 キングリザードは尻尾でラックをあしらいながらも、アニダの動きを目でとらえている。

 走りこんでくるアニダに対して範囲の広い横なぎの一撃を繰り出した。


 アニダは左手の剣を腰に戻すと跳躍し、迫りくるキングリザードの腕にタイミングを合わせて片手を突き、跳び箱を飛ぶ要領で攻撃をやり過ごす。

 大振りの一撃を回避したことにより、懐へと飛び込むことに成功した。


「ラック、クリスタルを使う。気を付けるんだよ!」


 そう言うや否や、硬直で動きを止めているキングリザードの胸部に向けて力の限りクリスタルを投げつけた。


 ――ぱりっ


 クリスタルが砕けた。狙い通りに胸部で。

 瞬間、クリスタル内に封じられていた冷気が外に開放される。


 渦を巻くような激しい吹雪が着弾点を中心に巻き起こる。


「こっ、これは、思った以上に……」


 キングリザード程では無いにしろ近距離で冷気を浴びるアニダ。

 体の外側を薄い膜のように光が包み込んでいる。

 魔法鎧リリーヴォルトの魔法障壁だ。


「ち、ちべたい。」


 巻き起こった冷気は後方のラックまで影響を及ぼす。

 空気中の水分が氷の結晶となり一層吹雪を強めている。


 たまらずラックは吹きすさぶ冷気の渦から距離を取るのであった。


『スキル:冷気耐性Lv1を取得しました。レベルが上がるほど冷気への耐性が向上します』

『スキル:冷凍爪Lv1を取得しました。冷気を乗せた攻撃が可能です。レベルが上がるほど冷気の威力が上がります』


 生前は比較的温暖な地域に住んでいたラック。雪を見ることも珍しく、ましてやこれほどの冷気を身に受けることも無かった。

 初の冷気ということになるのだろうか、それを身に受けたためいくつかのスキルを取得した。

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