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猫は異世界転生したことに気づいていない!?  作者: セレンUK
第3話 気まぐれなラックと面倒見の良い冒険者
22/37

22 狙ってるのは結婚の方だけど…

 床に倒れこんでいるのは、ぐったりとしたアニダ。

 魔法具に責められ続けて、声が出なくなってきた所で解放されたのだ。


「りーず。あにだ、だいじょうぶ?」


 アニダの様子を心配するラック。

 そのアニダはぴくぴくと時折体を震わせながら工作室の床で天井を仰いでいる。

 美しい顔は今や白目をむいてよだれを垂らしている。年頃の女性が男性に見せていい様相ではない。


「大丈夫ですよ。冒険者なのでこれくらいでは参りません。んー、そうですね、大人しいうちに鎧の改修をしておきましょう」


 そう言うとリーズはウエストポーチから先のとがった道具やハンマーのような道具を取り出すと、床に転がるアニダをうつぶせにして鎧に細工を施していった。


 ・

 ・

 ・


「これで完成ですね」


 額の汗をぬぐうリーズ。

 その表情は生き生きとしている。


「ぐぬぬぬぬ」


 今まで気を失っておりなされるがままだったアニダだが、ようやく気が付いたようだ。

 変な声を出してアニダがうつぶせの状態から体を起こそうとする。

 だがその腕はぷるぷる震えており、まだ力が入らないことを物語っている。


「あにだおきた。あめちゃんたべる?」


 そんな様子のアニダを心配してか、虎の子の飴を差し出すラック。


「だ、大丈夫。この程度、触手魔獣に比べたら……」


 なんとか起き上がったアニダは、そう言いつつも飴を受け取り口に放り込んだ。


「さてアニダさん。鎧を改造しておきました」


「外せるようにしてくれたのかい?」


「いえ、それは無理そうでしたので、排気機構に細工をしておきました。今後は排気時に魔法障壁に穴が開かないようにしておきました。なので排気時にフェロモンをまき散らすことは無いです。」


「おお、ありがとう!」


「ただし気を付けて欲しいのは穴が開かないということは、魔法障壁内でフェロモンは密度を増していきます。0距離でのフェロモン効果は各段に増すでしょう。今後は食生活等で体質改善しながらフェロモンの影響を押さえていってください」


「わ、わかった。体質改善か。難しそうだな。ま、それは後から考えよう。これで全力でキングリザードと戦えるってわけだ」


「キングリザード!? あんな猛獣と戦うんですか!?」


「ああ、言ってなかったかい? 昨日一度戦って来てさ」


「ラックさん!?」

 

 私は聞いてない! と言いたげに、高速でラックのほうに首を向ける。

 

「んー、よくおぼえてない」


 これはキングリザードと戦ったかどうか覚えていないという返事だろう。

 ラックはその間ずっと魅了状態だったため、覚えていないとしても仕方ない。


「まあ、鎧の力も気兼ねなく使えるようになったんだ。今度こそ倒して見せるよ」


「ま、待ってください。まさかまたラックさんを連れて行く気ですか?」


「え? そうだけど」


「だめです、危険です。許可できません。二人でキングリザードに挑むなんて無謀すぎます。せめてあと数人加えてパーティーを組んでください」


 あっけらかんと答えるアニダ。

 そのアニダにリーズは詰め寄ると早口で捲し立てた。


「そうは言ってもな。雇う金が無いんだよね。クエスト成功報酬でなんとかマイナス分をプラスに持っていけそうな感じ」


 アニタの返答に、リーズは俯いてプルプルと体を震わせている。

 爆発前の、そんな様子だ。


「わかりました、それなら私も一緒に行きます! ええ行きますよ! 無料でいいですよ! よかったですね! 天才美少女魔法具士が同行ですよ!」


 爆発した。顔を真っ赤にして訴える。

 この世の不当労働を許さない!

 とは思っているわけではなく、もちろんラックの身を案じてのことだろう。


「ほほう。学生さんがね。相当な自信だけど大丈夫かい? 魔物もたくさん出る洞窟なんだけど」


 いくら天才魔法具士とはいえリーズは女学生。熟練冒険者でも難易度の高いキングリザードの討伐に役に立つのか。そもそも道中の魔物達ですら相手にならないのではないか。そういうニュアンスが言葉の端から取れる。


「え゛、洞窟? あの暗くて狭いやつですか?」


 その小さな体のどこから出したのかわからないような声を出すリーズ。

 明るくて広い洞窟もあるだろうが、それはもうタコの入っていないタコ焼きと同じようなものだ。


「そうだよ?」


「ん、んー。ど、どうくつね。んー、んー。」


 リーズの目が泳ぎだす。


「どうしたんだい? おじけづいた?」


 そんな様子を見て、先ほどの仕返しとばかりに責めていくアニダ。


「い、いやぁ、別にキングリザードは問題ないんですが、実はですね。私、最近のとある出来事以来、暗くて狭いところがトラウマでして……」


 オル女首輪盗難事件のことだろう。

 ラックが身に着けていた首輪が欲しくて完全犯罪を目指したが、結局最後には同行していたクリスティーナによって看破され、自身の秘めた恋心まで暴露させられたのだから。


「ほうほう、それは仕方ないね。戦力が足りないけどしかたないね。キミもそう思うだろ?」


 にこやかな笑顔でラックに同意を求める。


「んー、りーずいっしょにこれないんだ」


「うっ、そ、そんな目で見ないでくださいラックさん」


「これないんだ?」


「行きたい。行きたいんですけど、こればっかりは。過去の自分を叱咤したい。で、す、が!」


 なにやらウエストポーチをごそごそしだすと、何かを取り出す。


「私の代わりにこれを授けます。必殺の切り札となるでしょう」


 それは青色に光るガラス細工のような物体。それが二つ。

 こぶし大のものと、一回り小さいもの。

 透き通った青色の素材が六角柱の各面を形成しており、先端は尖って綺麗な六角推となっている。

 青色のそれは中が透けており、よく見ると何かが中で渦巻いているように見える。


「それは?」


「これは私が作り出した魔法具で、その名も凍てつくファイナルウェポン君です。権利出願中です。このクリスタルの中には極限までに凝縮された冷気が詰まっています。対象に対して投擲することでクリスタルを割ることにより一気に冷気が噴出して氷漬けにするという優れたアイテムなのです」


 投擲して割ることによって効果を発揮する魔法具。

 効果がいかほどかはわからないが、いかにも割れやすそうなそれは持ち運びなどの実用面が犠牲になっていそうだ。


「ちなみに、こちらの大きなほうは凍てつくファイナルウェポン君ラージです。通常の凍てつくファイナルウェポン君よりもさらに大量の冷気を詰め込んでいます。こちらは大変危険なので、死なば諸共の時にお使いください。試作品ですが効果は保証しますよ」


 完璧に魔法具士モードに入っているリーズ。

 与えた強力なアイテムが逆にラックの危険度を上げている矛盾に気づいていない。


「キングリザードが圧倒的な力を持っていようとも、しょせんは爬虫類です。冷気にはかないませんよ。その上私が作った魔法具となればなおのことです」


「ほほう、それはすごい。ちなみに内臓まで凍り付いてしまうかい?」


「んー、そうですね。実際にキングリザードで試したことは無いですが、凍てつくファイナルウェポン君ならやれますよ! たぶん」


「それは逆に困るな。実はキングリザードの希少部位の解毒器官を手に入れたいんだ。それまで凍ってしまうとまずい」


「解毒器官ですか。食べるとおいしいとの噂のやつですね」


 リーズの言葉に、ラックの猫耳がぴくぴくっと反応する。


「いや、食べるためじゃなくてね。それを持ち帰るのがクエスト達成の条件なんだよ」


「なるほどなるほど。依頼主はヴェヌールの領主ですね」


「っ、なんでそれを!?」


「一部の界隈から聞こえてきた話ですよ。ヴェヌールの領主の跡取りは不治の病に罹っている。それを治療できたなら莫大な報酬か、跡取りとの結婚を認めるっていう話」


「さすがは天才魔法具士だね。大事なのは情報戦というわけかい」


「さすがによいお年のアニダさんも結婚願望にはかなわないってことですね。ええ。そうですかそうですか。

 …………なんて、冗談ですよ。莫大な報酬のほうですよね」


「いや、狙ってるのは結婚の方だけど……」


「えっ!?」


「報酬も魅力だけど、貧しさに怯えることなく安定して暮らして行ける事もそれに勝るとも劣らない価値があるだろ。何しろ領主一族だ。安定感は抜群だ。まあそういうことだ」


「そうですか。応援しますよ! ええ。応援します!」


 リーズの声はやたらと気合が入っている。

 これは恋バナに対する女子の反応か、ラックを狙うライバルが減るのを喜んでいるのか、はたまたその両方か。


 ・

 ・

 ・


 リーズによると、解毒器官は冷気に強いため凍らないとのことだった。仮に凍ったとしても解毒能力の低下は無いので遠慮なく凍てつくファイナルウェポン君を使ってくれと勧められた。


 そしてアニダたちはリーズに礼を言い学院を後にした。


「終わったらまた学院に来てくださいね。主にラックさん」

 最後にリーズはそう言っていた。


 こうして二人は打倒キングリザードのため、再び洞窟へ向かうのだった。


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