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猫は異世界転生したことに気づいていない!?  作者: セレンUK
第3話 気まぐれなラックと面倒見の良い冒険者
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20 私にはそっちの趣味はありませんから

 工作室はモノづくりの授業で使われる教室だ。

 美術室や音楽室と同様にT字校舎の2階にある。


 リーズはすたすたと先頭を進み、二人はその後ろに続く。


 このオルサリィ学院は初等9~11、高等12~14の合計6クラスが存在し、1クラス20人前後が学んでいる。数字は年齢を表しており学院では9歳~14歳の女学生たちが在学しているというわけである。


 廊下を突き当りまで進み、左に曲がった所。そこにある工作室に一行はたどり着いた。


「へえ、見たこともない道具がいっぱいあるね」


 ナイフ、ハンマー、のこぎりなどの一般的な道具から、先端が渦巻き状になった金属の棒にそれを回転させるような動力源が付いた魔法具、大小さまざまな大きさの金属の輪っかがいくつも連なった使い方の想像できない道具まで、多種多様なものが壁に棚にと所狭しと並んでいる。


「ここはモノづくりのための部屋ですからね。基本的な魔法具から上級の魔法具まで作成できます」


 リーズは肩にかけていた自分のカバンを室内のテーブルの上に降ろす。


「それで、さっそくですが。あなたラックさんに何かしましたか?」


 初対面の年上女性に臆しもせず、リーズはアニダを睨みつける。


「何かって?」


 質問の意図が分からないのか、アニダはその目線をきょとんとした表情で受ける。


「とぼけないでください! ラックさん魅了状態じゃないですか。私の魔法具は誤魔化せませんよ!」


 そんなアニダの様子に馬鹿にされたと受け取ったのか、リーズの口調が一層強くなる。


「ああこれは」


 話せば長くなるので、自分の鎧の事、鎧の効果でラックが魅了状態なったこと、魔法具屋の老婆に応急処置をしてもらったことをかいつまんで話した。


「なんで先に治療してあげないんですか!」


 もちろん完全な治療の事だ。もはや残っている魅了は軽度とはいえ、状態異常には違いない。

 自分に会いに来るよりも先に少年の体を心配すべきだという思いが爆発したようだ。


「すまない」


 アニダはうつむいて謝罪の言葉を述べる。


「りーず、おこらないで。あにだはわるくないよ」


 そんな険悪な様子に、さすがのラックもアニダを庇う。


「んーっ、あなたには後でこってりと説教しますからね。まずはラックさんを保健室に連れて行きますよ」

 

 思いを寄せる少年に上目遣いで迫られ、少年から視線を外してしまった。

 そこでリーズの怒りの大半は霧散した。


 ・

 ・


 1階にある保健室にラックを連れて行き、保険の先生に魅了を完全に治療してもらった。

 学校の先生と侮る事なかれ。そこらの教会の神父よりも優れた神聖魔法の使い手なのだ。


「ただの神聖魔法じゃないわよん、超弩級神聖魔法なんだから」

 と先生はのたまっていた。


 そんなやり取りをこなして再び工作室に戻ってきた3人。


「さて、話を戻しますけど」


「ああ、この魔法鎧の外し方を聞きたいんだ。それと解れば魅了効果について知りたい。」


 色々あったが、リーズに会いに来た目的は魔法鎧リリーヴォルト発動時の副作用である魅了効果をなんとかしたい、ということだ。


「出来るとは断言できかねますよ。とりあえずこちらに座ってください」

 用意した椅子にアニダを座らせるリーズ。

 稀代の天才ではあるが驕りはしない。魔法具に対する姿勢が垣間見える。


「それでは今から調べます。体に触れることもあるので先に断っておきます」

「わかった。よろしく頼む」


 まるで格調高い儀式が行われるかのようにピリピリとした空気が辺りを包む。

 

 そしてリーズによる魔法鎧の調査が始まった。


 まずはアニダの背後に回り、背中部分を確認するようだ。

 ひとさし指で鎧の背の部分に軽く触れる。

 そこから右にゆっくりと指を滑らせる。


 もう片方の手でアニダの腕を持ち上げ、わきの下を超えて前方へ。

 リーズも正面へ回りこむ。その間も指は鎧から離れてはいない。

 胸の部分を過ぎ、さらに右へと指を滑らす。


 アニダは自ら左腕を上にあげる。 

 リーズの指はわきの下をくぐり、また背中へと戻ってきた。

 指で触れたまま鎧を一周した形だ。


「継ぎ目が無いですね。難易度が高そうです」

 リーズは指での感触を反芻しながらそう呟く。


「それでは下を確認しますね。椅子から立ってください」

 座ったままでは都合が悪いので、今度はアニダを立たせる。

 そしてリーズはしゃがみ込み、膝上まで覆っている足具に指を伸ばす。


「これ、上と違いますね。魔力の流れというか、感覚が」

 ほんの少し足具に触れただけだ。それだけで違いを感じ取る。


「ああ、それは脱げるんだ」

 アニダは片方の足具を脱いで見せる。


「そういう大事なことは先に行ってください。じゃあ脱げないのはどれなんですか?」

 情報の後出しにご立腹のリーズ。調べれば解るとはいえ時間は短縮したい。時間があればそれだけ良い結果が出せるからだ。


「ごめんごめん。両足以外は脱げないよ」

 両足とも足具を脱いで素足になるアニダ。残りが鎧の脱げない部分だ。


「胸部と股部ですか。それでは股部を確認します。そのままじゃあよく見えないので、片足を机の上にのせてもらえますか?」


「こうかい? ちょっと恥ずかしいね」

 上に乗せると言っても机の高さはある程度の高さがある。

 アニダが左足を机に乗せると、大きく股を開いた状態となった。


「あのですね、それを見る私も恥ずかしいんです。でも安心してください、私にはそっちの趣味はありませんから」

 アニダの股間の前にしゃがむリーズ。

 そうは言ったものの、はたから見てると蠱惑的な状況だ。


 そして先ほどの胸部鎧と同じように股部鎧に指を伸ばす。


 まずは正面の部分に触れる。引き締まった腹のへその下あたりだ。

 そこから下に、股間部分へとゆっくり指を滑らす。


 リーズはアニダの股の下、つまりは机の上にあげた足の下に自分の体を入れ、そのまま真上を見る。

 ちょうどアニダの股間の部分が目に入る体勢だ。

 鎧に触れている指をゆっくりと滑らし、股間部分を通り過ぎる。


 指の動きに合わせてリーズも体勢を変え、アニダの後方へと抜ける。

 尻の部分をなぞるように指をすべらせて鎧の後方の部分へ到達した。


「足は机から下ろしていただいていいですよ」


 そこからは腰回りだ。指はずっと鎧に触れたまま。

 左回りに周囲をなぞり、後方へと戻ってきたところで鎧に振れていた指を離した。


「上も下も継ぎ目なしですね。んー」

 リーズは腕を組み自分の頬に手を当てて目を閉じる。

 思考するときの癖なのだろうか。


「なんとかなりそうかい?」

「まだなんとも。もう少し調べてみます」

 ぱちりと目を開いたリーズ。

 そういうと、工作室の棚からごつごつの手袋を取り出して自身の手に装着する。


「それは?」

「これは私が開発した、どんな魔法具にも強制アクセス君です。その名のとおり、無理やりアクセスを試みます」

 出袋をはめた手を前に出して、ドヤ顔をしているリーズ。


「さてさて、それではアニダさんはそこに立ってじっとしていてくださいね」


 ごつごつの手袋をはめた片手を背中、もう片手を鎧の尻部分にあてる。

 今回は指ではなく、手のひら全体を鎧に密着させている。


「始めます」

 手袋が淡く光り始める。

 すると手袋の光に呼応したかのように、鎧が淡く赤い光を帯び始める。

 少しすると赤く淡い光の外側に白いもやのようなものが生じ、それが鎧の周囲に何らかの空間を形成する。


 まるで鎧と手袋の間に透明なゴム風船があり、膨らむそれに押し出されるかのように手袋がその空間の外側へと押し出された。


「ほほう、魔法障壁ですか。鎧のくせに抵抗するんですか? 生意気ですね!」

 突然に鎧と会話し始めたリーズ。

 ちょっとスイッチが入ってしまったようだ。


「ちょっとちょっと、大丈夫なのかい? この鎧結構出力高いんだよ」

 様子がおかしくなってきたリーズに不安を訴えるアニダ。

 無茶をして爆発などを引き起こせば三人ともただでは済まない。


「今いいところなんです、黙っててください。さて鎧ちゃん、観念しましょうねぇ」

 リーズの手袋がさらに強く輝き始める。魔力の出力のようなものを上げたに違いない。


 先ほどまで上下に分けて当てていた手袋を、両手とも背中一か所に集める。


「あうっ」

 アニダがうめき声を上げる。


「ちょ、ちょっと、刺激が」

 よく見ると鎧と手袋の間の空間で瞬間的に稲妻のようなものが走っている。

 そしてそれは段々数を増しているように見える。


「はーはっはっは、抵抗なんて無駄ですよ。さあコア部分をさらけ出しなさい」

 アニダの言葉など聞こえないかのように、リーズは鎧と会話し続けている。


「んくうっ……!」

 たまらず艶めかしい声を出してしまったのが恥ずかしかったのか、慌てて手で口をふさぐアニダ。

 そして目を閉じてじっとその刺激に耐えている。


「ほら、そこですか、そこですか、いいんですよ。恥ずかしがらずに」

 トランス中のリーズ。


「あにだ、だいじょうぶ?」

 今までぼーっと見ていただけのラックだったが、さすがにアニダの様子が気になったようだ。


「あっ、ああっ、だ、だいじょう、ぶっ!」

 息も絶え絶えに返答する。


 それでもやはり心配なのか、アニダの元に近寄ってくる。

 そしてアニダの前にしゃがみこむラック。


「よろい、ひかってるよ」

 ラックの言う通り、胸部鎧前面の胸を支えている部分と、股間部分にわずかに赤く光る点が出現している。


 しゃがみこんだまま、その光っている部分をまじまじと見つめるラック。


「ああん、ちょ、ラック、あまり見ないでおくれよ。さすがに恥ずかしい」

 アニダの股間に水滴が光る。

 どうやら鎧が発熱しているため、汗をかいているようだ。太股にも腕にもきらりと光るものが見える。


「いいえ、ラックさん、しっかり見てお手伝いしてください。光は何色です? 大きさは? 光の強さは?」


 後方にいるためその光を見ることができないリーズ。

 その光は重要なものらしく、ラックを通して状況を把握しようとする。


「あかいろにひかってて、ちいさいよ。きえそう」


「ふーむ、出力が足りませんかね。もっと出力を上げていきますよ!」


 手袋がさらに強い光を放つ。まるで光が湯気のように立ち昇っているのがわかる。


 ――ぼんっ


 軽い爆発音と煙が手袋から登る。

 それとともにあれだけ激しく光っていた手袋の光も消えていった。


「強制アクセス君が……」


 呆然として焦げた手袋を見る。


「はあっ、はあっ、リーズさん、たのむ、すぐにラックを教室の外に。それから扉を閉めて!」


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