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猫は異世界転生したことに気づいていない!?  作者: セレンUK
第3話 気まぐれなラックと面倒見の良い冒険者
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17 大きな爬虫類はみんなドラゴン

 時間にして数十秒。

 狭く細長い穴を転げ落ちて、その終着点として開けた場所へと放り出された。

 転げ落ちたとはいえ、相当の高さから落下したようだ。


「いたたたた」

 落下の途中からは器用に鎧の尻部分で穴の中を滑り下りていたアニダ。

 とはいえ、それまでは回転しながら体のあちこちを壁や床にぶつけたはずだ。

 その美しい褐色肌にいくつも傷がついている。


「ラック?」

 一緒に転げ落ちてきたはずのラックの姿が見えない。

 辺りを見回すアニダ。

 穴の出口の近くで、落下の衝撃で伸びているラックを見つけた。


「ラック、大丈夫かい?」

 すぐさまラックに近寄る。息もしているし、どうやら大きな外傷もない。


「気絶しているだけか。やっぱりこの子でもダメだったか」

 ラックの姿を見ながらそう呟くアニダ。


「でも、キミは案外力が強いんだね」

 気絶したラックのほほを指でつついてみる。

 

 つついてみる、つついてみる、つついてみる?

 何か思うところでもあるのだろうか、ラックが起きないことをいいことに、しばらくラックの頬を突き続けていたアニダだった。

 

「さてと」

 ひとしきりして気が済んだのか、アニダは立ち上がり辺りの様子を確認する。


 ここは先ほどまでの人工の遺跡ではなく自然洞窟のようだ。

 湿気が多く、あちらこちらに水たまりがある。

 また、少量ではあるが水が流れている場所もある。

 ただ先ほどまでの自然洞窟とは違い、青白い光を発する壁は見当たらない。

 上を見上げると天井は相当高いのだが、大きな裂け目がありそこから月明かりが入っているようだ。


「今どこらあたりなのかねえ。上に戻る道があればいいんだけど」

 落ちてきた穴は相当な落差があるので、下から登るのは容易ではない。

 まずは周囲を探りながら上へ至る道を探すことになるだろう。

 幸い荷物は一緒に落下してきている。

 しばらく分の食料も入っているためすぐに行き倒れるということはない。


「ラックを起こして進むとするか」

 考えをまとめたアニダは、ひとまずラックを起こすことにしたようだ。


 ――グォォォォォォ

 大きく深く、そして凶悪な鳴き声が聞こえる。


「この鳴き声、まさかここが封印の間?」

 アニダが恐る恐る声のした方向を向く。


 ゆっくりと岩陰から現れる声の主。

 あれはドラゴン、いや、そう見間違うほどの巨大な爬虫類。


「話しは本当だったか、キングリザード」


 高さは5m程度、全長は15m程度と、駆け出しの冒険者が見たらドラゴンであると間違うであろう。

 全身は青色の鱗で覆われ、前足、後ろ足にはそれぞれ強靭な爪が生えている。

 長い首の先にある頭には鋭い牙が何本も生えているのが見える。

 そこからちろちろと細い舌を出している。

 一目見ただけで、並みの冒険者では太刀打ちできないと分かる。


 が、この個体、よく見ると片目がつぶれており、胴体にもところどころ深い傷がある。

 魔物どうしの争いで付くような力任せの傷ではない。

 なにか鋭利な刃物でつけられた傷のようだ。


「さすがに、封印されているとはいえすごい圧力を感じるな」

 アニダの表情がこわばる。

 戦うつもりなのだろうか、腰に下げている剣を抜き放った。


 キングリザートの目がアニダを捕えている。

 彼か彼女かはわからないが、その目にアニダはどのように映っているのだろうか。

 自らを害する者なのか、それとも捕食する対象なのか。


 キングリザードはゆっくりと二人の方に向かってきて、その眼前で動きを止めた。


――グォォォォォォンンン

 瞬間、咆哮が洞窟内に響き渡る。


「んあ」

 その大きな音と衝撃でラックが目を覚ましたようだ。


「丁度いいところで目が覚めたね。ラック、いいかい、敵だよ。って、」

 ラックの様子を確認したアニダは言葉を失う。


「あにだー」

 まだラックの目からハートマークが消えていなかったからだ。


 剣を抜いてキングリザードに対峙しているアニダの背中に向かって飛びつくラック。


「あにだあにだ」

 背中に飛び乗ったラックは、両手足でしっかりとアニダに抱き着いている。


「ちょ、ちょっと、ラック。正気に戻って。今はだめだよ」

 仮に無理に引きはがそうとするとしても、背中なので対応しづらい。


「あにだー」

 すんすんとアニダのうなじの匂いを嗅ぎ始めるラック。


「ひゃぁぁ、ちょっと恥ずかしいよ。それは恥ずかしい」


 そんな大混乱の様子を知ってかしらずか、キングリザードが右前足を振り上げる。鋭い爪が光っている。


 緩慢な動作であるが、その重量により圧倒的な攻撃力となるであろう前足が振り下ろされる。


「このっ」

 ラックを背に抱えたまま、なんとかその攻撃を回避するアニダ。


 キングリザードの一撃が、アニダのいた地面をえぐる。

 衝撃によって生じた地面の破片がアニダたちを襲う。


「くそっ」

 背中のラックが邪魔でそれをさばききれていない。

 致命傷にはならないとはいえ、痛くないことはないのだ。


「ラック、しっかりしな」

 背中にしがみつくラックに気を取られているうちに、キングリザードの第二撃が迫ってくる。


 第二撃、第三撃と、かろうじてかわし続けるアニダ。

 その動作で精一杯で攻撃に移ることなどできない。

 

 第四撃が来るかと思われたところでキングリザードの行動パターンが変わる。


 キングリザードの口に何かが集まっていくのがわかる。


「毒液か? こいつの毒で村は!」


 予想通り、キングリザードの口から液体が放出される。

 爪の一撃よりも速い。

 

「範囲が、広いっ!」

 高さ5mの位置にあるキングリザードの口からまるでシャワーのように広範囲に液体が噴射される。

 かわし切ることをあきらめて、ダメージを最小限にすることを考えてか口と鼻を手で押さえる。剣を持った手は自分を、もう片方は後ろのラックの鼻と口をふさぐ。


 液体が二人の体に付着する。

 直接は吸い込まなかったものの、いつまでも息を吸わないわけにもいかない。

 それにラックも。


「ぶはっ、ラック、手のひら舐めないでっ」

 ということで二人とも仲良く息を吸い込んだのだ。


「毒液じゃない、じゃあいったい」

 吸い込んでしまったが、即効性の毒ではないようだ。また、すぐに効果が判別できるような麻痺の類でもないようだ。遅効性の毒又は麻痺もしくはそれ以外か。


 すぐさま、キングリザードの口から続けて液体が射出される。


「!? くっついて、うごかない!?」

 液体を避けようと体を動かしたものの、体にまとわりついた液体がそれを邪魔しており、敢え無く粘液を食らうことになった。


 体中をべたべたの粘液が覆っている。粘性はかなりのもので、力を入れれば伸びることは伸びるがほとんど動くことは出来なくなっている。


「これはまずいね。動けなくした獲物をどうするかっていうと」

 そうだ。

 次は先ほどの爪による攻撃がくる。


 そんなシリアスなシーンだが、ラックはというと粘液で体はアニダとくっついてしまっているので、自由になる舌でアニダの手を舐め続けている。

 それでいいのだろうか。


「ちょっと熱いかもしれないが我慢してくれよ。非常事態なんだ」

 背にいるラックに呼び掛けたようだ。聞いていないことは承知の上のようだが。


「リリーヴォルト、解放!!」

 先ほどスケルトンの炎魔法を防いだ時の言葉だ。


 粘液にまみれてよく見えないが、アニダのビキニアーマーが僅かに発光している。


「はあっ!!」

 何らかの力を込めたのか、鎧の発行が強くなる。

 ぶわっと、体中に纏わり付いていた粘液が蒸発するように消え、辺りが水蒸気のようなものに包まれる。

 霧のようにも見えるそれは、ちょうどキングリザードから二人を覆い隠すように展開している。


「あちっ、あちちちっ。あっちー」


 そしてアニダの鎧に直接抱き着いていたラックが、飛び跳ねるようにしてその背から離れる。


「ごめん、ラック。大丈夫かい?」

 霧で見えないキングリザードに注意を向けながら、後ろを向く。


「あつい、あにだ。なに?」

 まだ足元がふらついているようだ。


「もしかして正気にもどったのかい? よかった」

 朦朧としているようだが会話が成り立っている。熱によって意識が活性化したに違いない。


「さっきいいにおいのもやもやすいこんだら、きもちよくなって、それから、???」

 まだ混乱しているようだ。


「良い匂いのもやもや? ああっ、だめだ、こっちにきちゃ」

 その呼びかけもむなしく、ラックはアニダに近づいてくる。

 先ほどと同じならこの後……


――ぶわっ

 

 アニダの鎧の肩当ての部分からぬるい空気が吐き出される。

 先ほどのように狭く閉鎖された空間ではないため、それは周囲に飛散するはずだったが。


 近づいてきたラックが何やら鼻をすんすんしている。


「いいにおい、いいにおい」

 どうやら吸い込んでしまったようだ。


 匂いを嗅いでいたラックの動きがピタリと止まる。


「ええと、ラック?」


「にゃふー」

 声をかけた瞬間、ラックの飛びかかりを受けた。

 倒れはしなかったもの、もはや普通に戦うには程遠い状況だ。


 粘液が蒸発した際に発生した霧が晴れてくる。

 月明かりが生じさせた大きな影の下、アニダはその顔を上に向けた。


「えっと、あの……」

 ラックを抱えたアニダとキングリザードの目が合う。


「逃げるよ!!」

 アニダは剣を腰にもどし、ラックを抱えたまま走る。

 落ちていた荷物を手に引っ掛けると、一目散に駆け出した。



 大地を揺るがす振動が後方から追ってくる。

 荷物に加えてラックという大荷物を抱えたまま洞窟内を走るアニダ。



 段々と追ってくる振動が後方へ後方へと下がっていく。


「さすがにあの巨体だ。なんとか引き離せそうだ」

 だが油断は禁物だ。仮に引き離したとしても追うのをあきらめるとは限らない。それに他の魔物たちと遭遇する可能性もある。


 ・

 ・


 ラックを抱っこする形で逃走しているアニダ。

 背中には荷物を背負い直している。

 ある程度走ったところで、岩陰に身を隠した。


「ふぅ。何とか助かったか」

 二人分の重さを抱えて走っていたアニダもようやく一息ついた形だ。


「さてどうするかな」

 どうするかなとはラックのことだろう。

 二度目のぬるい空気を吸い込んで、再びトランス中だ。


 現在はアニダの背中ではなく、アニダの肩の上から首に手を回して前側に抱き着いている。

 そしてペロペロと舌で首を舐め続けているのだ。

 その感覚にも慣れてきたのか、アニダはその様子を見下ろしている。


「私のせいでこうなってしまったからなぁ。無理やり引き剥がすのもかわいそうだし。あれを使うか」

 無理やり引き剥がすというのは、きっと殴って気絶させてぐったりしたところを引き剥がすということに違いない。

 

 そういうとアニダは背負っていた荷物を降ろし、片手で器用に何かを探し始めた。

 しばらくごそごそして、何かの入った小袋を取り出す。

 そして小袋から粉末状のものを手のひらに取る。


「ほーらラック、ごはんだぞ。ほれほれー」

 その手をラックの目の前に持っていく。


「ふにゃっ。ごはん?」

 差し出されたものをスンスンと鼻で嗅ぐラック。


「ふにゃぁぁぁ」

 変な泣き声とともにラックがぐったりとうなだれる。


「ふう。魔物用の眠り粉が効いてくれたか」

 どうやらラックは気絶したのでは無く、眠り粉の効果で眠ったようだ。

 

「びっくりしたよ。本当に」

 これで本当に一息つけたようだ。

 力なく覆いかぶさるラックをそのままにして地面に寝転ぶ。


 視線の先には、割れ目の先に小さく見える月。


「さーて、ラックが目を覚ます前に街にもどるかな。でもまあ、あと少しだけ」


 そう言ってラックの頭とふかふかの耳をなで始めた。

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