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猫は異世界転生したことに気づいていない!?  作者: セレンUK
第2話 お嬢様との主従カンケイ
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10 倉庫の守護神は鉄壁の守り

 体育の授業中にティナの持ってきた服従の首輪が何者かに盗まれた。

 それを探すためにラック、ティナ、リーズの三人は地下の部屋へと踏み込んだ。


 階段から転げ落ちた一行は、この部屋が倉庫であり、ここに首輪が隠されていると踏む。


 わずかな明かりの中、いくつもある棚を手分けして探す一行だったが、階段正面の壁に置いてあったゴーレムをラックが起動させてしまったのだった。


 ・

 ・


 ゴーレムが球状の腕を大きく振り上げる。

 ゴーレムの大きさは大人の背丈よりも高く、ずんぐりむっくりの横幅もあいまって、まだ子供の三人からみると大きな壁を見上げているような感じだ。


 ――どずぅっ


 ゆっくりとした動きでその腕が振り下ろされた。


 3人とも難なくその攻撃を回避する。

 床への音からして、ゴーレムの素材は金属ではないようだ。

 土もしくは石でできている可能性が高い。


 打ち下ろした球状の腕をゆっくりと持ち上げるゴーレム。


「動きは遅いようだけど、こちらからの攻撃は通じるのかしら。どう思うリーズ」


「そうですね、構成する材質は土でしょう。こちらの攻撃は通じると思いますが、逆に衝撃が吸収されて決定打にならない可能性もありますね」


「よし、ラック、行きなさい。攻撃よ」


「あれはたべれないよ」


「食べなくていいの。動かなくすればいいから」


「わかった。まえあしあたっくでこうげきする」

 ラックが両手を開いてまじまじと眺める。

 見慣れたはずの肉球は無い。


 一度ぎゅっと拳を握る。

 そして指を開き、ゴーレムに向かって跳びかかる。


『爪撃Lv3を発動します。』


 振りかざした爪の一撃が相手に届く、と思われたところで、

 ゴーレムの手がラックを弾き飛ばす。


「ぎゃふっ」


 急に敏捷に動いたゴーレムの手が、跳びかかるラックを下から払い上げたのだ。


 その攻撃によりラックはゴーレムの横にあった棚にぶつかり、そのまま棚の後ろの方に落下した。


 前衛を務めていたラックが弾き飛ばされたことで、ゴーレムに対する前衛はティナとなり、その少し後ろにリーズが控えている。


 ティナとリーズがいるのは階段から降りて(転げ落ちて)少しの所。

 両側を棚に挟まれているため、横のスペースは少ない。

 ゴーレムの攻撃を回避するには必然的に後方に移動することになる。


「今おかしな動きしたわよね。急に手の動きが速くなったような」


「ええ、私も見ました。最初の一撃は相手を油断させるためだったんですよきっと。このゴーレム凄いです」


「近づくのは危険ね。ラックの速さであれだからわたくし達なんか赤子の手をひねるよりも簡単にやられるわ。距離を取って攻撃しましょう」


「え、戦うんですか!? 逃げましょうよ」

 及び腰なリーズ。

 それもそのはず、そもそも彼女たちは普通の女学生なのだ。


「装置も反応したし、このゴーレムが首輪を守っているに違いないわ」


「確かに装置は反応しましたけど、ゴーレムは違うものを守ってるかもしれないじゃないですか。一度逃げて他の手を考える方法もありますよ」


「他の手って? たとえば」


「先生ですよ先生。先生に助けてもらいましょうよ」


「そうね、確かにいい手かもしれないわ。けど、ラックを放って逃げるわけにはいかないわ」


 ラックはゴーレムの後ろでダウン中だ。


「で、でも、あのゴーレムは防衛用なので、無力化した相手には危害は加えないはずですよ」


「防衛用だという確証は無いわ。そんなあやふやなものでラックを危険にさらせない。もしあなたが助けを呼びに行くというのなら無理強いはしないわ。明かりを持ったあなたがいなくなれば、わたくしもラックもやられるけど」


「うっ……」


「『友を裏切ることなかれ』。偉大なる曽祖父アリューシャンの教えはオル女の学則となっているけど、あなたの心には響かなかったのかしら。それとも、わたくしとラックは友達ではないということかしらね」


 ゴーレムに対峙しているので、リーズはティナの背中としゃべっている。


「わかった、わかりましたよ。やりますよ。やればいんでしょ。でもラックさんを助けるまでですからね」


「ありがとうリーズ。そしてひいおじいさまに感謝します」


 ティナのミドルネーム「アリューシャン」はオルサリィ女学院の創始者でもある曽祖父の名前からとったものだ。


「と意気込んでみたものの、どうやって遠距離攻撃なんか。普通の女学生なんですよ、私達」


「この前、授業でやったじゃない。『簡単な火の起こし方”これでもう火打石は必要ない”』で」


「それって確か……」


「これよこれ。ファイヤーボール!」

 ティナの手のひらに火球が生み出される。


 スキル『ファイヤーボール』だ。

 魔法に分類されるスキルで、自らの魔法力を使い火球を生み出し、対象に打ち出すスキルだ。


「ちょ、お嬢様」


 リーズがティナを制止しようとする。

 が、時すでに遅し。火球がゴーレムめがけて飛翔する。


 ――ばふっ


 ティナの渾身の一撃だったが、ゴーレムの手によりかき消されてしまった。


「ちょっとお嬢様、何やってるんですか」


「何じゃないわよ何じゃ。あなたも攻撃しなさいよ」


「いや、そうじゃなくて、こんな屋内で火なんか使ったら火事になるじゃないですか。私たち焼け死にますよ」


「……。それもそうね。危なかったわ。ゴーレム恐るべし、ね」


 自己防衛だったが、火災を防いでくれたゴーレムを称賛したい。


「手詰まりね。リーズ、あなた何か方法あるかしら」

「そうですね。これならありますが」


 懐からなにやら道具を取り出す。


「あら、それは」

「ええ、近距離用電磁魔法具です。対象に接触してスイッチを押すと強力な電気を流すやつです」


 通常は護身用として利用される小型のマジックアイテムだ。


「もちろんただの市販品ではなく、私が改良を加えた品なんですよ。ほら見てください。電気が放出される部分からブレード状に電気を伸ばせるんですよ!」


 自慢げにリーズがアイテムを操作する。

 どうですか、ふふーん。という思いが顔に出ている。


「へー、すごいわね。で、それで殴りにいくの?」


「えっと……それは」


「でも、なるほど、マジックアイテムね。ここは倉庫なんだから攻撃に使えるものがあるかもしれないわ」


 辺りを見回すティナ。


「あら、これならいいんじゃない」

 置いてある消火設備に目を向ける。


「なるほど、これなら火事になっても大丈夫ですね」


 魔法力で水の球を打ち出す小型の銃のようなものだ。

 水が詰まった容器が取り付けられているわけではないので、小型であり設置場所を選ばない優秀な消火器だ。


 ゴーレムの動きに注意を払いながら消火器の設置場所に向かいそれを手にするティナ。

 その場からではなく、ゴーレムの正面に戻り銃を構える。


「この、この、このっ」

 ティナが引き金を引くたびに水の弾が打ち出される。


 しかしながら、連打した水弾のすべてはゴーレムの手で無残にも撃ち落された。


「あれだけの数の水弾を……。鉄壁のディフェンスですね。特にあの手の機構が秀逸ですね。鞭のようにしなる動きで広範囲をカバーしてます」


 どうやってもゴーレムに攻撃が届かない。


 その時、薄暗がりの中で二つ、きらりと光るものが浮かび上がる。

 それはラックの目。


 ラックが背後からゴーレムに襲い掛かった。


「よし、いいわよラック」


 だがその瞬間、ティナ達の攻撃を防ぐため前方に展開されていたゴーレムの手が、奇妙な動きで背中から迫るラックを叩き落とした。


「そんな、完全に死角からだったはず。後ろに目があるの?」


 ――ずずずず


 重そうな足を引きずりながらゴーレムが少しずつ前進してくる。


 引き続き水銃を撃つが、ゴーレムの守りに阻まれる。


「ほら、リーズも撃ちなさい」


 水銃はもう一丁ある。

 設置されている水銃を取りにリーズが駆け出す。

 後ろ目にその姿を追いながら、ティナは撃ち続ける。


「えーい」


 リーズもその場で打ち始める。


 二丁の銃から水弾が撃ち込まれるが、ゴーレムの手は速度を増してそれらすべてを叩き落とした。


 攻撃が一段落した隙を突いて、ゴーレムが腕を振り上げる。

 自分から一番近いティナを狙っているようだ。


 緩慢な攻撃のため、楽勝で避けれると思いきや、


「フェイント!?」


 途中で起動を変え、薙ぎ払うようにティナを襲った。


 ――どさっ


 腕にはね飛ばされたティナは、リーズの後ろへと落下した。


「いたたた」

 余裕のある痛がり方だ。攻撃速度が遅かったためか、あるいは。


「お嬢様大丈夫ですか」


「撃ち続けなさいリーズ。わたくしの事はいいわ」

 駆け寄ろうとするリーズを制止するティナ。


「わ、わかりました」

 言われるがままに水弾を撃ちつづける。

 だが手に阻まれ効果は見られない。


 ――ごうっ


 火球がゴーレムに命中した。

 ティナが放った一撃が、鉄壁の守りで今まで一撃も受けていなかったゴーレムに。


「当たった?」

 横になった体勢で苦し紛れに放った一撃だった。


「お嬢様!?」

 様子を確認するリーズ。


「もう一つ」

 火球を生み出して投げつける。


「ちょっと、火事になりますよ」

 その球を目で追うリーズ。


 今度は手によって阻まれた。


「防がれた……」


 ――ぱしゃぱしゃ

 辺りには水銃で撃ちこまれた球が防がれたときの水たまりができている。

 そこを駆け寄ってくるリーズ。


「お嬢様。もう逃げましょう。怪我してるじゃないですか」

「かすり傷よ。それよりも二人で撃つわよ。当たらないわけじゃないわ」


「わかりました、けど……」

 立ち上がり火球を打つティナ。そしてその横で水銃を撃ち続けるリーズ。


 撃ち続けるそのすべてがゴーレムの手に阻まれた。


「さっきは当たったのに……。どうして」

 魔力の放出のし過ぎか、ティナがふらつき、床に膝をつく。


「お嬢様、大丈夫ですか」

 視界の端にティナを見ながら打ち続けるリーズ。


「放った火球が当たった時、二人で同時に狙っていた。その後同じように攻撃しても防がれた。防御の手数が足りなくなったから当たったわけじゃない。後方の死角からも攻撃は通らなかった。だから油断していたとも思えない。 なにか条件があるはず。ぶつぶつ」

 うずくまったまま状況の考証を行うティナ。


「急な腕の動きの変化もあった。無理やり修正してるのか。ぶつぶつ。見えている……。ここの様子が」


「リーズ!」

 ぶつぶつ言うのが終わったとおもったら、大きな声でクラスメイトの名前を呼んだ。


「な、なんですか?」

 その呼びかけに応じて、リーズがティナの方を向く。


 ――ばしゃっ


「わぷっ、何をするんですか」


 ティナが足元の泥水をリーズの顔に向けて投げかけた。

 目に泥水が入って視界が塞がれるリーズ。

 右手には水銃、左手にはトーチを持っているため、咄嗟には泥水を払うことが出来ない。


「ラック、今よ!!」


 闇の中、光る眼がゴーレムの後ろに出現する。

 そして爪による強力な一撃がゴーレムを切り裂いた。


 ――ざざざざざ


 力を失ったゴーレムが形を失い、砂の山へと戻っていく。


「さてリーズ、もう我慢の限界よ。首輪を返してもらいましょうか」

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