悪役令嬢の弟
俺の姉には前世の記憶というものがあるらしい。
初めてカミングアウトされた時はとうとういかれたかと本気で思った。
姉曰くこの世界はチキュウという惑星のニホンという国で一部の女子に絶大な人気を誇った『貴方の声に溺れたい』という乙女ゲームの世界らしい。
真に受ける方がどうにかしている。
しかし、当時まだ出会っていない“攻略対象”の名前や容姿、性格の特徴を言い当てられたら信じざるおえない。
メイン攻略対象だという王太子にお会いした時は本気で驚いた、平静を装えた10歳の俺えらい。
ちなみにカミングアウトされたのは俺が7歳の時。
「やっと信じたの?遅いわよ。」
「誰が前世なんて信じるんだよ‼︎マリアンヌは俺がいきなり前世の記憶があって18歳の誕生日に処刑されるなんて言って信じるのかよ⁉︎」
「信じるわけがないでしょう。」
「理不尽‼︎‼︎」
といあえず話を整理してみよう。
物語は主人公の孤児アリア・リーシャンが高い魔力をかわれ、国の最高機関の1つである魔術研究所に訪れる所から始まる。
宰相兼公爵の令嬢マリアンヌ・ガロウは誰からも愛されるアリアに嫉妬し、彼女を陥れようとして失敗、断罪され自身の18歳の誕生日に処刑される悪役令嬢らしい。
攻略対象は6人
王太子 アーノルド・セリステン
公爵子息 マルクス・オブライエン
最年少近衛騎士 ケイン・ダンウェン
オペラ作家兼子爵 グレル・ダート
魔術研究所所長 ゼノ・ルゥ
そして俺 ジュリアス・ガロウ
俺も巻き込まれるらしい。解せぬ。
そしてこの6人。
タイトルのとおり全員声が無駄に良い。マリアンヌが「声優の無駄遣い」だと嘆いていた。
そしてそして、俺を除いて全員婚約者持ちである。
略奪愛前提が売りなんだとか。
「だからジュリアスにも婚約者がいるはずなのよ。
何で全部断っちゃうの?」
「だって俺ゲイだもん。」
「は?」
「だからゲイなの、女を好きになるとかありえん。」
指差して笑われた。解せん。
自分の双子の片割れが同性愛者だと嫌がられるかとは思っていたが、大爆笑されるとは思っていなかった。
ということで、俺の事と言いマリアンヌの事と言い、ゲームとは微妙に違っているが、処刑されるのは絶対に嫌だというマリアンヌの処刑回避に向けての協力をさせられることになった。
身内が処刑されるのは俺としても避けたいが、めんどくさい。
と、いうことがあったのが8年前。
俺達は今年18になる。
マリアンヌの言うとおり魔力研究所にアリアが現れ次々に攻略対象を虜にしていった(俺除く)。
しかし、アリアに彼らを落とす気はなく、彼らが勝手にアリアに惚れ込み婚約者を捨てたのだ。
王太子の婚約者だったマリアンヌも婚約破棄されたが「あんな顔だけ男、こっちから願い下げ。」だと清々していた。
そしてマリアンヌの処刑回避作戦だが、なんとマリアンヌとアリアが親友になった。
しかもアリアも記憶持ちの転生者だったのだ。
お互いにゲームのファンだったらしく初対面から意気投合。
作戦など初めからいらなかったのである。
攻略対象に興味のなかったアリアは、お忍びで観光に来ていた隣国の王太子と互いに一目惚れ。
3ヶ月後には隣国に電撃で嫁入りとなった。
アリアを失った攻略対処の5人は激怒。
怒りの矛先をアリアと仲の良かったマリアンヌに向け、婚約破棄された恨みによる陰謀だとありもしない罪をなすり付け断罪しようとしている。
呆れてものも言えない。
息子のアホさ加減に呆れた国王を巻き込み、罪の捏造の証拠をこれでもかと掴んだマリアンヌは今夜の王太子誕生祝賀会で5人を断罪してやると高笑いしていた。
出どころのしっかりした証拠ばかりだし国王の協力もバッチリ。
明日には5人の地位は剥奪されているだろう。
ちなみにマリアンヌは最近即位した大国の若き国王に輿入れが決まり、俺は同じくゲイであることが判明した王弟殿下に輿入れすることが決まった。
頼れる年上好きの俺は騎士団にいたこともある無口だが逞しく不意に見せる微笑みの眩しい王弟殿下に長年片思いをしていた。
王弟殿下に声をかけていただいた時は嬉しさのあまり死ぬかと思った。
ガロウ公爵家は容姿端麗、文武両道な3つ下の弟に任せている。
小柄で奥ゆかしい婚約者とはラブラブで見ているこちらが砂糖を吐きそうになるくらいだから後継も問題ないだろう。
さて、今夜の断罪劇を見届ける為にもそろそろ仕度に取り掛かりますか。