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第5話「海賊なのじゃ!」

 リスタ王国 王都 海洋ギルド ──


 リスタ王国北部には広大なノクト海が広がっており、漁業の他に海運業も盛んである。ここ海洋ギルド『グレートスカル』では、漁師や船乗りを一手に仕切っており、リスタ王国の経済の一翼を担っているギルドだ。今日はリリベット、マリー、そして護衛としてラッツの三人が、このギルドに訪れていた。


「グレートスカルって、まるで海賊みたいな名前ですね」


 髑髏模様の旗を掲げた海洋ギルドの看板を見ながら、そうつぶやいたのはラッツである。そして、マリーが頷きながら答えた。


「正直、海賊そのものですね。ちょっと困った方が会長なのですが……会ってみればわかりますよ」

「たのもーなのじゃ!」


 そう言いながら、元気良くギルドの中に入って行くリリベットにマリーとラッツが付き従う。ギルド内は活気に満ち溢れており、資材を運ぶ者、商談をする者、殴り合いの喧嘩をする者、まさに荒くれ者どもの棲家(アジト)と言った様相だった。


 その合間を縫って進んだリリベットは、カウンターの前でピョンピョン飛び跳ねながら受付を呼ぶが、騒がしいのか気が付いて貰えずにいた。

 

「ぐぬぬ……」


 憤慨しているリリベットの脇をマリーが掴み、人形を持つように抱き上げると、ようやく受付嬢から見えたようで、微笑みながら声を掛けてきた。

 

「あら、陛下ちゃん! いらっしゃってたんですか? 今日はどんな御用で?」

「会長のオルグと話がしたいのじゃ」

「わかりました、ではこちらへどうぞ」


 受付嬢はそのままリリベットたちを奥にある一室の前まで案内し、ドアをノックをすると、さっきの愛想のいい感じとは違う威勢のいい口調で中の人物に声をかけた。


(かしら)ぁ、陛下ちゃんがいらっしゃいましたよっ」


 すると部屋の奥から野太い声が返ってきた。


「おぅ、入って貰えや!」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 海洋ギルド 会長の部屋 ──


 部屋の中に案内された三人を出迎えてくれたのは、ゴルド隊長を越える巨躯で色黒のボサボサの白髪、そして大層な髭を蓄えた老人だった。顔の皺などから老人なのはわかるが、胸元は開いた船長服から見える異様に発達した筋肉が、とても老人のそれには見えない。


「おぅ、陛下! よく来てくれたのぉ、がっはははは」


 その老人は豪快に笑いながらリリベットに近付くと、ガシガシと頭を撫でくりまわした。


「いたっ……これ、やめるのじゃ! 潰れるのじゃ!」


 その様子にマリーがリリベットを抱き上げて避難させると、老人を睨みながら抗議した。


「オルグ殿、陛下が嫌がっております。おやめください」


 この巨漢の老人が、この海洋ギルドの長であるオルグ・ハーロードである。その様子にオルグは豪快に笑いながら答える。


「がっははははは、すまんなっ! それにしても、相変わらずマリーちゃんはいい(ケツ)してるのぉ」


 そのままマリーの臀部を触ろうと手を伸ばすオルグだったが、すんでのところで(はた)かれたうえ蔑むような目で睨み付けられた。


「……やめてください」

「がっはははは! それで、お前ら今日は何しにきたんだ?」


 マリーの抗議にも悪びれもせず笑うオルグに対して、リリベットは書類を突き出した。

 

「これじゃ、今年の納税の書類に不備があるのじゃ! 数週間前から書類で、数日前には大臣自ら説明に来たじゃろうがっ!」


 オルグは自慢の髭を擦りながら少し考え込んでいたが、やがて思い出したように答える。

 

「う~む……大臣だぁ? あぁ、あの二日前ぐらいに来た、ちみっちぃのかぁ? (ケツ)を触ったら、何も言わず泣きながら帰っていったなぁ。ワシ的には、もう少し肉付きがいいほうが……」


 リリベットは怒りながら、書類をパンパンっと叩く。


「そ・れ・じゃ! 大臣が泣いて帰ってきたから何事かと思えば、お主は何をしておるのじゃ! わたしの臣下に手を出すでないのじゃ!」

「いやぁ悪い悪い! あまりに可愛らしい(ケツ)でのぉ、がっはははは……それで納税の書類だったか? それなら孫の仕事じゃのぉ。おーい、レベッカ!」




 二分後 ──


「呼んだかい、爺様?」


 褐色の肌に豊満な胸を包む水着の様な白い上着、短いズボン、そしてそこから伸びるスラッとした脚が印象的な美女が入ってきた。思わず見とれるラッツの肩に、がっしりとオルグが腕を回すと下品な笑みを浮かべながら

 

「どうじゃ、若いの? ウチの孫は、良い(ケツ)じゃろうが?」

「いや、お……俺は別に」


 その女性は呆れながら、オルグに蔑んだような瞳で見つめる。

 

「爺様、若いのに特殊な性癖を押し付けるんじゃねーよ。アンタ、大丈夫かい? 見ない顔だねぇ」


 ずいっと顔を近づけられたことに焦ったラッツは、顔を赤くしつつしどろもどろに


「あ……俺は、最近衛兵隊に入った、ラッツって言います」

「そうかい、そうかい! あたいは、レベッカ・ハーロードよ。よろしくな!」


 この女性がオルグの孫で、名前をレベッカ・ハーロードという。海洋ギルドにおいては経理を担当しており、その美貌から若い船乗りたちの憧れ的な存在だ。そんな彼女もオルグの血を明らかに継いでいる特殊な癖があった。


「よく来たのじゃ、レベッカ。それでは、この書類じゃが……」


 リリベットがそう言いかけると、レベッカはすぐにリリベットに駆け寄り、抱き締めるとそのホッペに自分の頬をスリスリしはじめた。


「陛下ちゃん来てたんだ? 相変わらずプニプニで可愛いホッペだね! スリスリ~」

「こ……これ、レベッカ! や……やめるのじゃ……」


 彼女は見た目と反して子供好きで、特に幼女の頬のプニプニ感が大好きなのである。リリベットを見ると、いつもこの様な行動に出るのだ。マリーはレベッカから、リリベットを奪還すると手刀で空中に線を引きながら


「貴方たちは、それ以上近付かないように……話が進みませんので」


 と告げると抱き上げていたリリベットを地面に降ろす。リリベットは肩で息をしながら書類を突き出した。


「はぁはぁ……まったくお主らと来たら、とにかくこの書類に目を通すのじゃ」


 レベッカは、リリベットから渡された書類を受け取ると、真剣な眼差しで目を通し始めた。しばらくした後、頷くと書類の一箇所を指差しながら


「あぁ、ここの計算が間違ってるねぇ……しかし、よくこんな細かいの見つけたもんだね」


 その言葉に自分が褒められたかのように笑顔になると、リリベットは腕を組ながらふんぞり返る。


「えっへん! 我が国の財務大臣は、とても優秀なのじゃ」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 海洋ギルド~王城への道 ──


 書類はレベッカが修正したものを後日役所に届けることに決まり、リリベット、マリー、ラッツの三人は城に戻る道を歩いていた。ラッツがグレートスカルでの出来事を思い出しながら

 

「いや~なんと言うか……すごい人たちでしたね」


 マリーに抱っこされているリリベットは眠そうな顔で答える。


「性格には……やや難はあるが、とても優秀な連中なのじゃ」

「そうですね。我が国の経済は彼らが回していると言っても過言ではありませんし、王家としても邪険には扱えないといいますか……」


 しばらく、そんな話をしていると衛兵詰所前を通りかかると、すでに眠ってしまったリリベットを起こさないように、マリーは小声でラッツに


「護衛は、ここまでで結構です。それでは……」


 と有無を言わさぬ感じで告げると、そのままスタスタと王城へ向かって歩いていく。マリーたちの後姿を見送りながら、オルグのセリフを思い出したようにラッツが小声で呟いた。

 

「確かに……いいかも?」


 次の瞬間、マリーが臀部を手の甲で隠しつつ振り返り、キッと蔑むような目でラッツを睨みつけるのだった。





◆◆◆◆◆





 『グレートスカル』

 

 かつては、オルグ・ハーロードが団長をしていた大海賊団の名前。ノクト海を拠点に活動していた。リリベットの祖父ロードスに討伐されかかったが、戦いの場で意気投合。


 その縁からリスタ王国建国時に駆けつけ、海運関係を一手に担い現在の海洋ギルドを設立した。未だにノクト海での影響は絶大で、『グレートスカル』を恐れてリスタ王国印の商船が海賊に襲われることはない。

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