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第18話「歴史なのじゃ!」

 リスタ王国 王城 財務大臣執務室 ──


 現在この部屋には財務大臣のヘルミナ、女性衛兵のレイニー、それに新人衛兵のラッツという不思議な組み合わせの三人が揃っていた。やや迷惑そうな表情でヘルミナが一つ咳払いをしてから話しはじめた。


「ごほんっ……陛下に頼まれたので、貴方たちにリスタ王国について教えることになったヘルミナ・プリストです、よろしくお願いします。知ってるかと思いますが、私はとても多忙の身ですので手短にいきましょう」

「はい」


 返事をするラッツとレイニーの二人。事の始まりは、ラッツがリリベットに投げかけた質問だった。




「この国って、今までよく無事でしたね?」

「それはじゃな……」


 ラッツの質問に完璧に回答したリリベットだったが、ラッツは理解できなかったようで首を傾げていた。


「えぇぃ! わからぬならヘルミナに聞くがよい! ヘルミナは教えるのが上手いのじゃ」


 そして、あの件以来ラッツを警戒しているヘルミナの「ラッツ君と二人はちょっと」というの意見から、レイニーも同席させられることになったのだ。

 

「えっと……ラッツ君の質問は、なぜこの国が侵略されないかでしたか?」

「はい、数々の国を併呑して大きくなった帝国が攻めてこないのは、国力差から考えておかしいなと」

「なるほど、ラッツ君は思ったよりバカではないようですね。わかりました、それではリスタ王国の歴史、情勢などをお話しましょう。まず、この国を護っている要因は大きく四つあります」


 一つ咳払いをして、ヘルミナはラッツに向かい質問を投げかける。

 

「ラッツ君、この国を建国したのはどなたですか?」

「建国は、先々代国王ロードス・リスタ陛下です」

「よろしい、ではロードス王の出自は知っていますか?」


 ラッツは少し考えた後、首を振って答えた。


「いえ、わかりません」

「ロードス王の建国前のお名前は、ロードス・クルトという名前でした。名前からわかる通りクルト皇帝の一族、それも四代前のクルト帝国皇帝の次男だった方です」


 ラッツは驚きながら目を見開いていた。

 

「そう、つまりリスタ王国は四十年前にクルト帝国から分裂して興した国なのですよ」

「えぇ!?」

「ラッツ君、本当に知らなかったの? この国じゃ常識よ」


 呆れた顔のレイニーが呟くが、ヘルミナは気にせずそのまま回答を続ける。


「当然のことですが突如独立を宣言したロードス王を、討とうという動きはあったみたいです。しかしロードス王は単身帝都へ乗り込み、『皇帝の密約』と呼ばれる条約を結んだのです。これによりロードス王は所領のほとんどを帝国に返還し、この残ったリスタの街で国を興しました」


 信じられないという顔で呟くラッツに、ヘルミナは頷きながら答えた。


「えぇ信じられないことだけど、皇帝は代々『皇帝の密約(コレ)』を守っているわ。でもやっぱり反発が起きて、建国まもなくリスタ王国東方のレグニ侯爵が、三千の兵でこの国へ侵攻してきたの」

「『リスタの騎士と氷の守護者(アイスガーディアン)』ですよねっ?」


 そう目を輝かせながら身を乗り出したのはレイニーだった。リスタの騎士と氷の守護者は、リスタ国内でも人気の歌劇になっており、レイニーもそのファンなのだ。レイニーの勢いに少し怯んだヘルミナが頷いた。


「えぇ……そうですね。結果は知ってのとおり宰相閣下のご活躍で、リスタ王国の勝利に終わったわけです」


 ラッツが首を傾げながら手を上げた。


氷の守護者(アイスガーディアン)は宰相閣下の事ですよね? リスタの騎士っていうのは?」


 ラッツの質問に、ヘルミナは小さくため息をついて答える。


「衛兵なのに、そんなことも知らないのは問題なのでは? まぁいいでしょう。リスタの騎士というのは、ロードス王に付き従った百人の騎士たちのことです。それぞれの家は今でも名を引き継ぎ騎士職に就いており、東西の城砦に配置されてます。それぞれ二名の従士がついており、貴方たち衛兵二百と含めて計五百が我が国の総兵力です」

「えっ!? す……少なすぎませんか?」


 あまりの数の少なさに驚いているラッツに、ヘルミナは人差し指を鼻頭に持っていき小声で呟くように答える。


「あくまで表向きは……ですが、帝国を刺激しないためにも仕方ないのです。それに少ない兵力は財務としても助かってますしね」


 どんな国でも軍隊を維持するのにはお金がかかる。国庫を預かる財務大臣としては切実な問題なのである。

 

「さて国の興りについては、これぐらいでいいでしょう。少し休憩してから、この国の状況について話しますよ」



◇◇◆◇◇



 休憩を挟んで、再び財務大臣執務室 ──


 ヘルミナはペンを走らせてメモに『リスタ王家の血統』と『皇帝の密約』と書き込み、ラッツに見せる。

 

「さて……先ほどの話から、この国を護っている二つの要因がわかったかと思いますが、次はもっと実利的な話をしていきます」

「はい」


 聞く姿勢が整ったラッツとレイニーを確認したヘルミナは、手元にあった世界地図を広げる。地図には中心が大きな海、逆三角形の頂点にそれぞれ大きな大陸があり、周りにはいくつかの小島が描かれていた。

 

「これは世界地図ですが、貴方たちリスタ王国の位置はわかりますか?」

「う~ん?」


 ラッツはもとより、レイニーすら場所がわからない顔で首を傾げていた。一般市民において世界のどこに自国があるなど、気にかけることではないからだ。ヘルミナは一番南にある大陸の一番北側を指した。


「この大陸がムラクトル大陸で、ここがリスタ王国です。その北の海が我々がノクト海と呼んでいる海になりますね」

「なるほど……」

「それぞれの大陸を行き来するのに、どの航路を通れば近いと思いますか? ラッツ君」


 そう問われたラッツは、それぐらいはわかるという顔をしながらノクト海を指差した。


「ここですね?」

「そうですね、ノクト海です。しかし、この海には『シー・ランド海賊連合』という海賊たちの国があり、普通の商船では通れません。以前は他国でも軍艦を護衛に雇って通っていましたが、費用が膨大にかかり採算が取れなかったため、現在では遠回りのルートを使うのが主流です」


 レイニーは首を捻りながら、ヘルミナに質問をする。


「でも、確かこの国はノクト海を通って大陸間の輸送をしてますよね? 確か、あの黒くて大きな船で」

「はい、グレート・スカル号ですね。あの船に攻撃を仕掛けてくる海賊はいません。それにリスタ王国の商船を襲うと、海賊グレートスカルが敵にまわると噂が流れてるので、彼らはそちらにも手を出しません。つまり、どういうことでしょうか?」


 ラッツは少し考える素振りをした後、自信がなさそうに答える。

 

「……航路を独占してウハウハですか?」

「確かに経済的にはそうですね。まず我が国は航路を独占的に確保して、他の大陸国家と太いパイプを持っていること、それにリスタ王家のみが海賊グレートスカルと、友好関係を結んでいることが三番目の要因ですね」


 レイニーは首を傾げながら、すでに話についていけないという顔をしている。ヘルミナは困ったような顔をして

 

「難しかったでしょうか? まぁ最後は簡単ですから安心してください」


 と微笑んだ。


 しかし、その瞬間ドアからノックの音が聞こえた。ヘルミナが中に入るよう入室の許可をすると秘書官が入ってくる。


「閣下、そろそろお時間が……」

「えっ?」


 ヘルミナは驚いて懐から懐中時計を取り出すと、思ったより時間が経過していた。ラッツとレイニーの方を向くとヘルミナは申し訳なさそうに告げる。

 

「すみません。この後、人と会う約束がありますので、今日はここまででお願いします」


 そう言うと慌てた様子で、ラッツとレイニーを追い出すようにドアの前まで見送ると、ヘルミナは彼らに右手の指を四本立てて

 

「四番目は、この国で暮らしていればすぐにわかりますよ」


 と告げて微笑みながら、ドアを閉じるのだった。





◆◆◆◆◆





 『シー・ランド海賊連合』


 世界の中心にあり、大陸から他の大陸まで行くためには、ムラクトル大陸でノクト海と呼ばれている海を渡るのが最短ルートである。このルートであれば通常の船足で七日ほどの航海で大陸間を渡ることができるが、この海には『シー・ランド海賊連合』と呼ばれる非公認の海賊たちの国があり、安全な航行が困難になっている。

 

 その為、大幅に迂回して東ルートか西ルートを取らねばならず、そちらのルートでは三十日ほどの航海になってしまうのだ。


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