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第15話「御祭なのじゃ!」

 リスタ王国 王都 大通り ──


 翌日リリベットたちは、王都で開催されているリスタ祭の観光に出かけていた。同行したのは女王付メイドのマリー、衛兵隊長のゴルド含め衛兵四名、リリベットの従兄でクルト帝国外交官フェルト・フォン・フェザーの六名である。クルト帝国側の護衛は表向きは、フェルト自身が断り同行していない。


 リリベットは街の賑やかな様子に、内心すでに興奮した様子だったが、リスタ祭には多くの諸外国の目もあるので、いつもより澄ました顔で歩いている。フェルトは、辺りの様子を見回しながら褒める。


「すごい賑わいだね。ここまで盛り上がるお祭は、帝国内でもなかなかないよ」


 フェルトの言葉に、リリベットは聞いているのか聞いていないのか、そわそわしながら曖昧に答えた。


「う……うむ、そうじゃな」


 道々では商売に勤しむ商人、酒を飲んで肩を組んで歌う中年男性たち、すでに酔いつぶれて寝ている人など様々だったが、それぞれがお祭を楽しんでいた。それでもリリベットの姿を見かけると国民達は集まり、様々な声を掛けてくるのである。

 

「陛下ちゃーん!」

「リスタ王国ばんざーい!」


 リリベットも、その一人一人に微笑みかけ手を振っていく。

 

「聞いてはいたけど、この国は王家と国民の距離がとても近いんだね!?」


 その姿に驚きながらフェルトは感心するのである。リリベットは、胸を張り手を腰に当てるとドヤ顔を浮かべる。


「当然じゃ、国民は家族じゃからなっ!」


 そこに酔っ払いの中年男性が、酒が入った木製のジョッキを掲げながら、フラフラとリリベットに近寄ってきた。瞬時に警戒態勢を取ったマリーがリリベットの前に立ち、その前にゴルドたち衛兵が立塞がる。それでも酔っ払いの男性は愉快そうに


「陛下ちゃんも一杯どうだい~? あっははは」


 と笑いながら酒を煽っていた。その瞬間後ろから飛んできた拳骨が直撃し、ゴッ! と凄い音と共に酔っ払いは道端でノックアウトしてしまった。殴ったのは腕っ節の強そうな小太りの女性で、酔っ払いの奥襟を掴むとリリベットに


「陛下ちゃん、すまないね~うちの宿六がっ! 今連れて帰るから」


 と言い残すと、酔っ払いの男性を引きずりながら歩いて行ってしまった。その様子にフェルトは若干呆れ気味に呟く。

 

「いや……本当に凄い国だな」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 『海神館(グランド・シー)』 ──


 しばらく観光を続けたリリベットたちは、昼食を取るために『海神館』という料理店を訪れていた。『海神館』はリスタ王家 御用達の高級料理店で、王城のコック長の実家でもある。


 リリベットはマリーから禁止されているため、基本外食はさせて貰えないが、本日はマリーが毒見、及び給仕を行うことを条件に許可されていた。衛兵隊からは保安のため店ごと借り切る案も出ていたが、リリベットが「稼ぎ時にそれでは申し訳ないのじゃ」という理由から、店の一角を予約しただけで通常営業している。


 テーブルは二脚用意され、一脚はリリベットとフェルトで、衛兵四名は別のテーブルとなった。理由としては衛兵は傭兵上がりなどが多いため、テーブルマナーなど知らないためである。


 リリベットは慣れているため、他人のテーブルマナーなど気にしないが、帝国貴族であるフェルトのための配慮だった。しばらくしてマリーによって運ばれてきた海鮮料理に、舌鼓を打ちながら歓談したリリベットとフェルトは、すっかり打ち解けた様子になっていた。


 しかし、リリベットがニコニコと食後のシャーベットを食べている時、その問題(トラブル)が起こったのだった。



「や……やめてください!」



 店内に響き渡った悲鳴に、驚いたリリベットは食べかけのシャーベット落としてしまう。



 ガシャーン!



「あぁぁぁぁぁ……いったい何事じゃ!」


 楽しみにしていたシャーベットを落としてしまった悲しみを、怒りに変えてキッと悲鳴がしたほうをみると、どうやら給仕の女性にどこかの若い貴族が絡んでいるようだった。

 

「ふははは、よいではないか~」


 などと、いかにも小悪人のセリフを吐いて女性給仕に言い寄っていた貴族の姿を見て、フェルトは信じられないという顔をしながら首を振る。

 

「あれは……確かポート子爵のご子息だね。放蕩息子だとは聞いていたが……。すまない、僕が止めてくるよ」


 そう言いながら席を立つフェルト。クルト帝国の使節団として同行してきた子爵家の子息が、相手国の国主の前で国民に無体を働くなど国際問題である。しかし、リリベットはバンッ! と力任せにテーブルを叩くとゴルドの名前を呼んだ。

 

「よいっ、我が国の問題じゃ! ゴルド!」


 ゴルドはリリベット前で傅くと、彼女の命令を待つ。


「任せたのじゃ!」

「へーい!」


 気の抜けた返事をしたゴルドは、のそりと子息に近付く。子息は、いきなり近付いてきた大男に、腰が引けながらもわめき散らし始めた。

 

「な……なんだ、貴様ぁ! 俺を誰だと思ってる! こんな国の小役人なぞ、いくらでも消せるのだぞっ!?」

 

 そう言い終わったところで、ゴルドの右拳が顔面にめり込んだ。座っていた椅子ごと吹き飛び気絶してしまった子息は、そのまま片手で持ち上げられると、窓の外に投げ捨てられた。そして、突然の出来事に混乱していた取り巻きに、ゴルドがニヤッと笑うと小さく悲鳴を上げながら、慌てて逃げて行ったのだった。


 目の前で起きた出来事が信じられなかったのか、それともこの後起こりうるだろう事態を考えたのか、フェルトは目を閉じて呟くのだった。


「……見なかったことにしたい」


 一方リリベットは、マリーから届いた代わりのシャーベットを食べながら、ニコニコと笑っていた。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 別邸 食堂 ──


 王城近くにある別邸では、クルト帝国使節団が宿泊していた。クルト帝国使節団は、フェルト・フォン・フェザーを代表に五名の貴族と、その護衛として十名の騎士が同行していた。また貴族の妻や子弟らもついてきて観光しており、合計で三十名ほどになっていた。


 その日の夜、別邸の食堂ではとある議題が持ち上がっていた。ポート子爵の三男 ホルガー・フォン・ポートが『暴行』されたと訴え出たのである。


 食堂に集まったのは、使節団代表のフェルトとポート子爵を除いた貴族三名、それに先ほどから喚いているホルガーと、その仲間の子弟たち二名だ。頭を抱えたフェルトは、静かな声で


「もう一度言って貰えますか?」


 と問い返してみる。その態度にホルガーは苛立ちながら


「……ですから、私は突然この国の衛兵に暴行されたのです! 見てください、この鼻を!」


 と顔に巻かれている包帯を指差しながら必死に訴えているが、その場にいたフェルトにしてみれば、茶番以外何者でもない。

 

「これはひどい! 帝国貴族に手を上げるとは!」

「このままでは帝国の面子が立ちませんぞ!?」


 しかし、まわりの貴族たちは口々に同調する始末。帝国貴族は体面を気にしすぎると、常々思っているフェルトはため息をついてから睨み付ける。

 

「僕もその場にいましたが、ホルガー殿にも非があったのでは?」


 その気迫に押されながらも、ホルガーは尚も諦めず主張を繰り返した。


「わ……私に少しばかり非があったとしても、リスタ王国のような属国が偉大なる帝国に楯突いたのです。厳重な抗議と制裁をするべきでしょう!?」


 それに同調する貴族たちによって場はざわめき始めた。流れを掴んだと思ったのか、ホルガーはさらに調子に乗り始める。

 

「フェルト殿は、この国の女王となにやらただならぬ関係のご様子、庇いたくなる気もわからなくも……」

 

 そこまで言ったところで、フェルトはバンッ! とテーブルを力任せに叩きホルガーを睨み付けた。


「まず貴方は考え違いをしている! リスタ王国は建国以来一度も属国になったことはありませんし、僕は私事で仕事を疎かにしたことはない! それに僕は皇帝陛下の名代として、ここに来てます。僕への無礼な発言は、皇帝陛下への侮辱と受け取りますよ?」

「ぐぬぬぬ……」


 納得いかないといった顔で歯軋りをするホルガー。その時、扉が開いて初老の男性が入ってきた。気分が優れないからと部屋で休んでいたポート子爵である。これを渡りに船とばかりにホルガーは


「父上! 聞いてください! この国の衛兵に……」


 と縋りつきながら訴えはじめた。その話を黙って聞いていたポート子爵はプルプルと震えている。そして……爆発した!

 


「こぉのっ! 大馬鹿者がぁ!」



 という怒声と共にポート子爵の節くれだった拳が、ホルガーの折れた鼻に炸裂した。

 

「ふごぉ!」


 血を流しながら尻餅をついて後ずさりするホルガーに、ポート子爵は懐から出した手紙を突きつけた。

 

「すでに女王陛下より、『事の次第』と『暴行への謝罪』の手紙が送られてきたわ! 他国まで来て婦女子に手を出すなど、帝国貴族の風上にも置けぬ!」


 さらに殴りかかろうとしたポート子爵を、フェルトは割って入って止める。


「お待ちください、子爵」

「止めないでくだされ、フェルト殿! このバカ息子を……うぅ」


 と遂には泣きはじめてしまった。ポート子爵の肩を優しく叩きながら、フェルトはまわりの貴族に向かって沙汰を伝える。


「ポート子爵の様子から、こちらの非は明白でしょう。そして暴行は向こうの非です。しかし、それに関してはすでに謝罪があり、あとは大国なりの寛容を持ってこれを受ければ、こちらの面子は立つのではないでしょうか?」


 そう語りかけることで、この問題をこれ以上大事にすると恥をかくのは自分たちとわからせたのだ。貴族たちからは、反論はなく黙って頷くのだった。


「ポート子爵には申し訳ありませんが、ご同行者様といち早く帰国していただきます。これ以上この国と軋轢を生むと、外交的に問題がありますから」

「は……はい、ではさっそく準備を……こいっ、この馬鹿者が!」


 ホルガーの耳を引っ張りながら、引きずっていくポート子爵。フェルトは、その様子を見送りながら小声で

 

「リリベット……君は、ここまで見越してたのかい?」


 と呟くのだった。





◆◆◆◆◆





 『帝国貴族』


 クルト帝国の爵位は、五爵制(公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵)である。また一代限りの爵位として騎士がある。


 帝政であるため、国土はすべて皇帝のものだが、広大な国土は皇帝だけでは治めきれず、各貴族が委任され統治している。また領地を持たず宮仕えしている貴族も存在している。基本的に選民意識が高く高飛車である。

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