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第123話「城砦攻防戦なのじゃ!」

 リスタ王国 西部戦線 リスタ領土内 ──


 魔導式ポリボロスから射出された炸裂槍は、見事に黒騎士率いる騎士団の後部に直撃していた。先頭を走る黒騎士を倒すことは叶わず、騎士団の半数程と敵本陣の前部に多少の被害が出たのが初撃の戦果である。しかし黒騎士と敵本隊との分断には成功し、炸裂槍の威力を初めて見た解放軍左翼と後方部隊を、浮き足立たせるには十分なものだった。


 騎乗突撃中のジンリィは、左側に控えていた副隊長のミュゼに向かって指示を出す。


「ミュゼ! お前たちは騎士団に当たれ! 私は作戦通り、あの黒い大将を貰う」

「はっ!」


 ミュゼは頷くと、後に続いているクリムゾンに指示を出していく。クリムゾンの動きに、ミュルン副団長は苦しそうな顔をしながら、率いている騎士たちに向かって指示を飛ばしていく。


「私たちは敵先鋒を突破して敵本陣を衝くぞ! 敵の両翼が動くまでが勝負だ、征くぞっ!」

「おぉぉぉぉ! リスタ王国に勝利を!」


 鬨の声を上げた騎士たちは、ミュルン副団長を護るような隊列を組みつつ、敵正面を貫かんと突撃していく。


 徒歩で進む衛兵と民兵たちは少し遅れながらも騎士たちに続く、その衛兵の一人がゴルドに向かって叫ぶように報告する。


「隊長! 敵右翼に動きが!」

「包囲が始まったか?」

「いえ、真っ直ぐ城砦に向かって移動しています!?」


 その報告に驚いたゴルドは進みながらも振り向くと、確かに解放軍右翼は西の城砦に向かって進撃していた。ゴルドは少し迷ったが、すぐに首を横に振ると後続の部隊に向かって叫んだ。


「前を見ろっ! 俺らの敵は前だ!」

「た……隊長!? 陛下の危機です。救援に行かなくていいんですか?」


 ゴルドの決定に慌てた様子の衛兵が尋ねるが、ゴルドは振りかえると怒鳴るように答えた。


「俺らが前を突破しないと、どちらにしろ負けるんだよっ! いいから走れっ!」


 そして前を向くと小声で呟くのだった。


まな板(ミリヤム)、そっちは頼むぜ……」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 西の城砦 城壁の上 ──


 近衛隊の一人が慌てた様子で隊長のミリヤムに報告する。


「て……敵襲です! 数はおよそ六千!」

「見えているわ。慌てないで」


 ミリヤムは落ち着いた様子で、腰から弓を取り出すと周辺に向かって指示を出していく。


「弓が扱える者は弓で、使えない者は投石の準備を!」

「は……はいっ!」


 現在、城砦には正規兵は近衛隊三十人と、重傷を負った兵が五百名程度しかおらず、残りは志願兵の中で戦闘には不向きとされた者たちが二千いるだけだった。全てを含めても戦力差でおよそ三倍、この満身創痍の城砦を攻め落とすには十分な差だ。


「も……もう、おしまいだぁ……」


 民兵を中心に絶望的な雰囲気が漂いはじめた中、城壁上のリリベットが叫ぶ。


「皆の者、これは勝機なのじゃ! 敵は愚かにも部隊を分散させる愚策を取っておる。ここで我々が耐えれば、必ずや出陣した者たちが敵陣を突破して勝利するじゃろう!」


 まさに詭弁としか言いようがない発言だが、城砦の兵たちの士気を高めるには十分な効果があった。


「か……勝てる? 本当に? でも、陛下が言うなら」

「あぁ、俺たちだって志願して来たんだ!」

「やるぞぉ!」


 半ばやけくそ気味だったが、兵たちの士気がどんどん上がって行くのを見て、ミリヤムはマリーに向かって小声で呟いた。


「あれがちょっと前までお菓子が貰えなくて、すぐに涙目になってた陛下だとは……とても見えないわね」

「あら、それは今でも涙目になりますよ……ふふふ」


 マリーは朗らかに微笑みながら、ミリヤムの言葉を訂正するのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 西部戦線 西の城砦での戦い ──


 解放軍右翼を務めていたランガル・フォン・レティが率いているレティ侯爵軍は西の城砦に迫っていた。城砦からは散発的に矢や石が飛んできているが些細なものであり、レティ侯爵軍を止めれるものではなかった。


 しかし何分かに一度、二十人から三十人ほどを吹き飛ばす風を纏った矢が飛んできており、それが解放軍右翼にとって唯一の脅威となっていた。これはかつて大猪を仕留めたミリヤムの得意技『スーラアロー』である。


 その攻撃にランガルは苛立ちながら、横にいる部下に命じる。


「無駄な抵抗だな。おい、アレを使え!」

「はっ!」

「くくく……炸裂系の武器を使えるのは自分たちだけと思うなよ」




 ランガルの命令からしばらく後、十人ほどの盾を持った兵士に囲われた何かが、城砦の西門に向かって突撃を開始した。城壁上のミリヤムは、その怪しげな動きを見せた一団を指差しながら


「破城槌よ、あいつらを狙って!」


 という指示を飛ばしつつ、弓を持った味方と共に接近を阻止しようと矢を浴びせかけていく。


 しかしミリヤム以外の矢は、兵士の盾に防がれてしまい城門に取り付かれてしまった。その後、盾を持った兵士たちは大急ぎで城門から離れていき、ただ一人みすぼらしい格好をした男が、球状の何かに鎖でつながれた状態でその場に残っているのだった。


「一体、なにを……っ!?」


 ミリヤムがそう呟いた瞬間、鎖で繋がれた男が泣き喚きながら球状の何かを叩き、閃光と共に爆音が鳴り響き城門が弾け飛んだのである。




 その爆発を満足そうに見ていたランガルはニヤッと笑うと、すぐに全軍に向けて攻撃を命じた。


 同じ炸裂系の武器でもレティ領では、リスタ王国の工房『土竜の爪(ドリラー)』が開発したような信管が作れなかったため、手元の炸裂系の魔法を閉じ込めた魔法具を爆発させる方法を取っていた。ただし、この方法では起動させた人物は確実に死ぬため、薬や洗脳で操ったり家族などを人質に取り、自爆を強制する方法が取られたのである。


 しかし破壊した城門から侵入しようとした兵士たちが、城門前で立ち往生をしていることに気付いたランガルは苛立ちながら叫ぶ。


「貴様ら、何をしている! さっさと城砦を落として女王の身柄を確保しろっ!」

「そ……それが、城門の中に……」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 西部戦線 西の城砦 城壁上 ──


 突如起きた爆発で城壁上の何人かが吹き飛び、ミリヤムもその良すぎる耳を押さえながら周辺を見て悪態をついて叫ぶ。


「自爆ですって!? この外道がっ……誰か、急いで城門を固めて!」


 すでにかなりの数が侵入しているはずと考えたミリヤムも体勢を立て直すと、城門があったほうへ走っていき城壁の上から覗こんだ。


 しかし、そこでは予想を反して信じられない光景が繰り広げられていた。




 城門内には未だに誰も侵入していなかった。そこには身の丈の三倍はある直刀を持った老婆が一人、佇んでいるだけだったのである。


「ふぉふぉふぉ……ここは王へと続く道じゃ。この『王者の護剣』コウジンジィがいる限り通しゃせんわい」


 この老女は民兵に混じってついて来ていた、コウ老師ことコウジンジィである。城砦内に侵入しようとする敵兵をまるで踊るように舞いながら、巨大な直刀を振り回して撫で斬りにしていく。


「がぁぁ」

「ぎゃぁぁ」


 蹂躙してやる! と意気込んで城砦に突撃してきた兵たちは、城内に入った側から切り刻まれていく仲間たちの姿に、すっかり心を折られてしまい足を止めてしまっている。そのため元々狭くてそれほど通れない城門は人混みで埋まり、身動きが取れなくなってしまったのである。


 この予想外の出来事に固まっているミリヤムを横目に、ラッツが城壁から飛び降りコウ老師の後ろについた。


「老師、俺も手伝いますよ」

「ふぉふぉふぉ、若いの……無理はせんようになぁ」


 まるで孫に接するように微笑みながら声を掛けるコウ老師に、ラッツもニコッと笑い返すのだった。彼らは師弟関係であり、老師は足繁く修行に訪れるラッツを大層気に入っており、彼にいずれは『王者の護剣』という名と技を引き継がせることを考えているのである。




 そんな二人を見て、この場は任せてもよいと判断したミリヤムは、敵の数を減らすべく城門前の敵に対して弓を構えた。その瞬間ようやく爆音のダメージから回復しつつあった彼女の耳には、再び衝撃と共に轟音が鳴り響くのだった。





◆◆◆◆◆





 『王者の護剣』


 コウ老師の二つ名であり、彼女が得意とする短剣術の技の名前でもある。王宮のような帯剣できない場所でも使えるように編み出された技であり、短剣を用いて相手の武器の軌道を変え、相手の腱などを斬ることで無力化を図る高等技術だ。


 リスタ王国内では、コウ老師の他にコウジンリィ、ゴルド、ラッツが使うことができ、一応リリベットも教えて貰ってはいるが、才能がないのでまともに使えたことはない。

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