プロローグ
とある小国にある衛兵詰所 ──
リスタ王国 ── 人口およそ三万程度のこの小国は、ムラクトル大陸北方に位置し、北をノクト海、南にはガルド山脈があり、漁業と陸海の交易の要所として栄えていた。丘の上の王城……と言っても、館と言ったほうがしっくり来る程度の大きさだが、その裾野に広がる街。そこに小さな衛兵詰所があり、そこには五人の衛兵がいる。
その中で今日配属したばかりの新兵、金髪の青年ラッツが幼子を抱えて隊長室を訪れていた。その脇に抱えられた幼子は、綺麗な金髪に、淡い緑の瞳を持った女の子で、ノースリーブのシャツと赤いスカートを履いている。
「ゴルド隊長! 厨房に忍び込み、我々の昼飯を食おうとしたコソ泥を捕まえました! いかが致しましょう?」
「コソ泥だぁ?」
ゴルド隊長と呼ばれたその男は、顔に刀傷があり、いかにも傭兵崩れといった風貌だった。ボサボサの茶髪をボリボリ掻きながら、新兵のほうに振り向き幼女を見ると深くため息をつき。
「……またか」
新兵の小脇に抱えられた幼女は、ジタバタと手足を振り回しながら
「この無礼者っ! 離すのじゃ~!」
と必死に抗議している。ゴルド隊長は、面倒くさそうに右手をぶらぶらと振って「解放しろ」と合図すると、頷いたラッツが抱えていた手をパッと離した。
「ふぎゃ!」
その結果、幼女はそのまま床に顔から着地する羽目になったのだった。
「おいおい、丁重に扱え……大丈夫ですかい?」
床に落とされた幼女はプルプルと震えている。しばらくして、震えがピタリと止まると飛び上がるように立ち上がり、もの凄い勢いでラッツを指差しながら。
「死刑じゃ~! この無礼者を死刑にするのじゃ~!」
いきなり死刑宣告をされたラッツだったが、心配そうな顔で幼女の頭の上に手を置き
「だ……大丈夫かい、お嬢ちゃん? ひょっとして落とした時、頭を打ったんじゃ?」
それを聞いたゴルド隊長は、噴き出しながら腹を抱え
「ぶっ! ……はっはははははは!」
その様子にオロオロしながらも頭を撫で続けるラッツ、顔を真っ赤にしながらプルプルしている幼女。
「そうか、そうか! お前さん、他所から来たばかりだったな~、それじゃ知らなくても仕方ねぇか」
ゴルド隊長は、膝を折って幼女と目線を合わし、讃えるように両手を向けると
「聞いて驚け! この方こそ我らが雇い主であられる、この国の女王リリベット・リスタ陛下だ」
「えっ?」
ぽかーんと口を開けて固まってしまうラッツ。リリベットと呼ばれた幼女は、ふんぞり返って腰に手をあて胸を張りながら、フンッと鼻を鳴らし改めて告げる。
「えっへん! わたしが、リリベット・リスタなのじゃ!」