日常
うぅ。だるい……。
寝不足と怖い……という唸りを聞いたせいか、とても気分が悪い。
だが、何とか体を起こす。
そして、いつもの準備を始める前にクローゼットを開けて魔王様の様子を確認する。
「あのー……おはよう」
「お、おはよう! お前ってめちゃくちゃ鬼畜なやつだったんだな……」
と、小さい体を震わせる。
……何回も言うが誘拐犯ではない。
ところで……こいつはどこに置いておけばいいのだろうか。
親に見せる? そんなことをしたら俺は犯罪者の子供と親に認知されて終わりだ。
「鬼畜ではないぞ? 昨日は……その仕方なかった」
てへ。と、べろを出し、頭に手をやる。
「まぁ……お前の家でこたつを借りる時がそのうち来るから許してやろう……」
「許して欲しいけど、こたつは貸さないぞ!? 家に帰ったら魔王様と幹部達がこたつでゴロゴロしている家なんて絶対に嫌だからな!?」
「まぁまぁ。いいじゃん!」
いやいやいや、良くねぇよ!
まぁ、とりあえず、この話はもう少し寒くなってからするとして……こいつ、どうしよう。
「良くないけど……まぁ、そんな事はどうでもいいんだ」
「良くないぞ?! こたつだぞ? こ・た・つ」
「分かった。分かった。冬は寒いもんな」
こたつ、こたつ、うるさい魔王様だ。
夕方日曜日にやっている国民的アニメの女の子じゃないんだから……。
「で、大事な話があるんだけどさ。お前、どこで過ごすの?」
「そりゃあ、この家で美味しそうなご飯を食べさせてもらうつもりだぞ」
「いや、だからな。それだと俺は児童誘拐犯として捕まり、お前のために砦を取り返すことは不可能なんだよ」
「なら、どうするんだよ」
「お前にとって飯は一日一食でいいんだよな?」
「そうだぜ?」
「なら、俺が少し遠くまで行ってスーパーで買ってきてやるから、それを食べろ」
金銭的に終わるかもしれないが……こうするしかないよな。
いざとなったらパン屋で耳を貰ってこよう。
「過ごす場所はどうしろと?」
「それなら、この家で大丈夫だぜ!」
「おおっ! さすがだぜ……!」
「その代わり……そこのクローゼットでな?」
「殺すぞ!? 城に戻ったら魔法を顔面に打ち込むぞ!?」
「それはお前も死ぬんじゃないかー?」
と、にっこり微笑みかける。
魔王様とはいえ、こっちだって協力者なんだ。それ位の我慢はして欲しい。
「ぐぬぬぬ……分かった。我慢してやるよ」
「母親がいなくなるのを確認したらクローゼットからは出ていいからさ。な?」
「おお! 本当か! なら全然いいぜ!」
「後、一つだけ最後に確認をいいか?」
「お前との念話って、距離があるとやっぱり使えないのか?」
「残念ながら……そうなるな。だから、次の砦を取る時は学校から直接……じゃなくて家まで帰ってきてくれ」
「はいよ。なるべく早く帰るようにしとくぜ」
「まぁ、お前も疲れてるだろうし少しは余裕が出来たんだ。今日はゆっくり休んでいいぞ」
どちらかと言うと、明日から休日なので、そっちを休みにして欲しいが、まぁ我慢しよう。
「じゃあ、魔王様。そろっと準備して学校に行くから。また、放課後な」
「いってら」
俺は準備を進める。飯を食い服装を整え、学校に向かう……が、いつもとは違う。
今日からは自転車だ。
スーパーまで行くとなるとバスの方がいいのだが金銭的にもきつい。
そうなれば、少し遠いが自転車で、ここよりは増しな街の方に行くしかないだろう。
そう思い、チャリで学校に向かう。
風が長い髪を吹き上げる。
さっぱりして何だか気持ちがいい。
何だかんだ言って、チャリで学校に向かうのは久しぶりだからなー。
チャリを使うのはいつぶりだろう。友達とも最近は遊んでないからなー……。
別に友達が少ないわけではないんだけどな!
自分で考えたことにガッカリしている。情けない話だ。
一人、落胆していると前の方に胡桃らしき姿が見える。
俺はそんなだらしない姿で歩いてる胡桃を煽るようにチャリで追い越す。
「遅いなー! 胡桃は!」
「チャリで越したくらいでムキになって……ぷぷ。恥ずかしっ!」
そんな胡桃にイラッとしてしまったのか、ただ単に話したかったのか、気がつけばチャリから降りて隣で歩いていた。
「何だかんだ言って止まるなんてツンデレですかー?」
「っせぇ! 別に、お前と話してやろうと思っただけだ」
「ふふっ。まぁ、いいんだけどねー!」
と、嬉しそうに両手を伸ばす。
いつも通りの日常に戻ったかのように歓談を楽しみ学校に到着する。
「おっ! おはよう。お二人さん、熱いねー!」
俺達をからかってきた、こいつは矢部 太一。
高校に入ってから出来た友達で、顔、成績、その他もろもろも普通だ。だが、明るく人気がある。
数少ない友達のわけではない。
「熱くないしー! ただ昔から仲がいいだけー! 何も無いんだからねっ」
「そうだそうだ」
俺も同じことを思っていたので続けて、そう言う。
「息ぴったりじゃん。それにして幼馴染とか相性バッチリ!」
と、親指でグッドポーズを作る。
しばき倒してやりたい。
「はいはい。まぁ学校に入ろうぜ」
「だねー」
俺達は学校に足を運んだ。
……普通の学校生活だなぁ。
――あれから大して時間が経っていないのに、そう感じてしまった。
普通が異常か……。