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元、チート魔王が頼りない件。  作者: 雪見だいふく
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魔王様『後編』

舐めやがって。

 相手は爽快に笑い俺達から目線を逸らしている。

 決めるなら早くがいいんじゃないか……?


『魔王様……ダッシュするぞ』

『おう!』


 俺は一・二・三と頭で数え走り始める。円状の部屋なので端っこに沿っていけば水晶までたどり着ける。

 相手の近くを通る。もしくは相手をかわすよりは安全だと判断したからだ。

 緊張と不安のあまり忘れていたが服に厚い本を入れていたことを思い出す。

 何で……これ置いてこなかったんだよ。

 スピードが遅すぎ……ない? それは自分でもビックリするような速さだった。

 地を這う蛇。獲物を狩るライオン。という比喩表現が合っているのでは無いだろうか。


「は、早い……そうか……油断してしまったな」


 と、相手は一人で何かに感心している。


『何か分かんないけど感心して止まってるな。さっさと決めるぞ!』

『お、おう! それはいいんだけど、この速さ。お前人間か!?』


 体制が低いまま走り続け水晶まで残りもう少しのところまでいく。


『よしっ……もう少しだ!』

『それは死亡フラ……』


 魔王様がそんな縁起の悪いことを言おうとしたタイミングで止めが入る。

 俺の前にはたくさんのナイフが投げられる。手足は狙っていないのか幸い一本も当たっていない。


「少し焦りましたよ……ふぅ。人間にしてはやりますね」


 と、左手にレイピアを持ちながら右手でナイフを持ちくるくると回す。

 動いたら殺すと言わんばかりだった。

 俺はそれにビビり止まってしまう。

 後、もう少しで水晶にたどり着くのに……二、三発よければいいだけなのに。

 一歩ずつ近づき相手はレイピアの方を聞き手と思われる右手に持ち替える。

 この距離ならレイピアでも殺せるということなのだろうか。


『おい……! 怖いのは分かるがビビって止まってたら状況が悪化するだけだぜ……?』

『分かってるよ……! でも、どうすれば……!』

『ダッシュしてみるしかねーだろ……勝つ手段はそれしか無い!』


 俺は一気に水晶に向かってダッシュした。

 今度は蛇やライオンの動物なんてものじゃない。オーバーかもしれないが新幹線くらいの速さだろう。

 アニメで良くある地を這うようにダッシュするやつだ。オーバーな程にしゃがむなと思うあれだ。


 このペースなら絶対に割れる!


 俺は勝ちを確信したが水晶との距離。後、五メートルあるかないかのところで止めが入る。

 本日二度目の感じ。

 再び、走馬灯が起こるように時間の進みが遅くなるのを感じた。

 相手は俺らの前に立ち塞がりレイピアを構え俺が突っ込む先に力を加え一気に刺し出す。

 それはゆっくりと俺の心臓に接近してくる。


 こんなの厚い本でどうにかなる話じゃねぇ……。


 どうすれば……!? 死にたくない!


 と、思った時には時間の歪みは無くなり元に戻っていた。


 レイピアは俺の心臓を突き刺す……はずだった。

 何故か、そのレイピアを俺の本は金属音を出し防ぎ切る。

 相手は戸惑い、何故だ……と不思議そうな顔で呆然としていた。

 俺も気が抜け、戸惑い両手をぶらんとさせて立ち止まってしまう。

 だが相手と違って俺には魔王様がいた。


『おい! 今が最後のチャンスだ! 走れ!!』


 そうだ……戸惑ってる暇なんてない!!

 俺はすぐ我に戻りダッシュで走る。

 相手の方は見えないが俺達の勝ちだ。そう思い手を全力で飛び込むかのように前に出す。


「うおおおおぉ!!」


 飛び込んだ時、水晶に触る感覚があった。

 俺達の勝ちか……?

 そう思い後ろを振り返ると、相手は機能停止をしたかのよう、その場に止まり右手を左胸に置き上を向く。

 そして俺は敵の方をちらっと確認し上を向くように水晶を見る。

 細胞が崩れ落ちていくかのように水晶の破片が下に落ち散っていく。


「勝った……の……か?」


 俺は疲れが溜まっていたのか気が薄れていく……体はそのまま崩れ落ちてしまった。


 ――――――

 ――――

 ――


 起こされるようにトントンと叩かれる。いや……バンバンが合っているだろう。

 起こし方が激しい。だが、こんなことを感じられるということは生きているということだ。

 俺はゆっくりと目を開ける。

 そこには明るい天井……ではなく暗い天井が広がっていた。

 こういうのって明るい草原が広がってたりするはずなんだけどなぁ。


「よぉ。起きたか」


 俺の頭の方から図太い声が聞こえてくる。

 重い体を起こし、そちらを見ると魔王様が大きな姿でこちらをギロりと見ていた。

 怖っ……! つい声が出てしまいそうになったぞ。

 その姿、怖いから嫌いなんだよなぁ。

 ……じゃなくて、どうなったのか話を聞かなきゃ。


「あの……俺、倒れたところまでは分かるんですけどどうなったんですか?」


 俺は大きい魔王様に少しビビりながらも声を上げる。


「おう! 勝ったぞ!!」

「よっしゃぁぁあ!」


 俺は嬉しさのあまり叫んでしまう。


「本当に感謝だぜ! やっと一つ砦を取り返したな!」


 あ、そうだった。

 凄く大変だったけど、まだ一つなんだよな。

 でも、砦を取り返せば取り返すほど楽になるからな。よし! この調子で頑張るぞ!


「この調子で頑張りましょう! ところで気になったんですけど……」


 俺は続けるように一つだけ問いかける。


「こんなことを言うのも何ですが……俺は何故、死ななかったんですか?」

「あぁ。それなら捕らえといた勇者に直接聞いてみたらどうだー?」


 と、捕らえたのか!?


「今から連れてくるように言うから待ってろよ。おーい! リミルー」


 そう言うと奥の方から扉の開く音がして足音が徐々に近づいてきた。

情報を色々と吐いてもらおうか。

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