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Baldr  作者: はぐれイヌワシ
8/8

※いきなり280年に飛んだ。

※独自設定ラッシュ。

※本文も長けりゃ、あとがきも長い。


「この国が置かれた状況はどんな愚者だって解る。

このまま敵を引き寄せるならば、逃亡兵が続出して、戦う事も出来ずに剣を置く羽目になる。

国難に誰も殉じないというのは、誰にも惜しまれずに滅ぶ国であったと晋に示すようなものだ」

その丞相・張悌の言葉に、呉国最強の部隊を率いる山越の血を引いた将は激昂して、暴言に暴言で応えた。

「『呉国最大の敵は岑昏と張悌だ』って、俺の部下が言っていたが、ありゃ本当だったんだな!

ったく、あんただけでも勝手に死んでくれる算段立てて助かるぜ!!」


「と言って、貴様らだけで留まる気も毛頭ないのだろう?」

「一緒にしないでくれ、我等青巾兵は腰抜けでも脆弱でもないと示したいだけだ」

沈瑩は吐き捨てるように言い放った。


***


張悌らの軍は江を渡った。

しかし、最強の青巾兵五千が三度攻撃を仕掛けても、晋軍を打ち破れなかった。

撤退を決めた途端、降ったものと思われていた晋の捕虜が後方を攪乱した。

常勝軍団だった筈の青巾部隊は、とうとう晋軍に勝てぬまま沈瑩以下殆どが討死した。


『こちらに青巾兵含む残兵が五、六百程御座います。再び江を渡って建業まで逃れ、再起を図りましょう』

その書状の筆跡は、諸葛の姓を持つ男のものだった。


張悌は、自らの右手に未だ残る咬傷の痕を見つめた。

全てが変わってしまったあの日、

医者は自分の目には何てことはない様に思えるこの傷の手当てに随分と時間をかけた。

治療が終わった頃は既に日が暮れかかり、急いで邸に駆け戻った。


駆け戻って見たものは、見知った者の消えた邸と、それを踏み荒す多数の兵。

兵の一人に見咎められ、掛けられた言葉は

『お前、諸葛恪の部下だったな。身を保ちたいなら俺たちの言う事を聞け』


彼等と共に嘗ての主の子等を追い、見定めた。

『早く医者へ向かえ』と言った、実兄の様に慕った者が最期に見せた表情は、今でも鮮明に思い出せる。

旧主の一族は根絶やしにされたが、あの黒い犬の行方だけは杳として知れなかった。


『長沙の廃太子と密かに連絡を取り、帝の廃立を企んでいた』と、

自分も知らなかった旧主の陰謀を聞かされ、既に死を賜っていた廃太子の検死に向かった。


出迎えた廃太子の長子こそ、今の帝である。


***


「丞相、丞相!!」

今更袖を引く者がいたので振り返ると、書状を出したと思しき本人であった。

「どうして書状を無視されたのですか?もうこの場所を維持するのは不可能です!!」

「ああ、不可能だな」

「なら退きましょう!ご覧の通り、残兵も引き連れて参りました!!」

「いや、彼等は君が率いて都に還すべきだ」


諸葛靚は、同姓の、張悌がよく知る男に似た姿と声で落ち着いて問うた。

「丞相、国家の存亡は多いなる暦数であり、どうして貴方一人の知る所でしょう。

自ら死を択ぶとはどういう事ですか?」


「…仲思殿、今日が私の命日だったと記憶してくれ。

私は幼い日、諸葛家の丞相によって官吏の路を与えられた。

そのお方が道半ばで斃れてからの日々は、この国を覆う闇への解を示す日々であった。

解を成せるが来たのなら、どうして避けようか?どうかその手を離してはくれぬか」

張悌は、話しながら頬を流れる感触に気付いた。


「この短刀は、そのお方の遺品だ。諸葛家のものは、諸葛家のものに還すべきであろう」

突き飛ばすと同時にその懐に押し込んだ。


諸葛靚もまた涙を見せながら背を見せた。

張悌は戈を構え、二度と振り返らなかった。








――― 張巨先、其れがお前の示した解か…

心臓を穿たれ、意識が途絶えようとするその刹那、

呉国最後の丞相・張悌は背後から聞き覚えのある声によく似た声を聞いた。


***






全てが灰燼と化した後に。

海中から新しい大地がせり上がった。

其処では草原や森が輝いている。鳥は囀り、魚は泳ぎ回り、種もまかぬのに穀物が育つ。


主神の子達が姿を現した。雷神の子達も姿を現した。

彼等は其処に居る筈のない神々を見た。


冥界に堕ちた筈の、あの輝ける御子と、奸計によって彼を手にかけた盲目の神であった。


そして彼らは黄金の将棋を見つけた。

父達の遺品で戯れながら、彼等は何時までも昔語りを続けるだろう。


また、僅かに焼け残った森の中に、一人の男と一人の女が身を隠して、朝露で生命をつないでいた。

この二人は多くの男と女を遺した。

そしてまたこの大地は人で溢れる。


主神の名が変わろうと、旧い世界が消え去ろうとも。

神々は、人と共に在り続けるだろう。



私の場合は、中二病ではなくて小六病(女子の場合は少し早いらしい)でした。

但し、ネットにある『ケーキ焼きたい』とか、『プール嫌悪』とかとはちょっと違う系統。


『三国志の孔明死後、魏末とか呉末のドロドロにハマる』という主症状でした。

(蜀は意外と末期はドロドロのイメージがない。姜維が一人で吼えているって感じ←酷)

特に孫呉の酷い人間関係に萌え、孫呉贔屓、三国末期贔屓がここで確定しました(うわー)。

でも西晋以降は胸糞が過ぎてパス。(というか南北朝の国名やら順番やらが覚えられずに挫折した)

そもそも三国志自体、ちょっとネットでは未だに恥ずかしくて公表出来ない理由で、

小2で演義ベースのウェブ漫画諸々から入ったものなぁ…。


春秋戦国など、中国史の他の時代にも興味を持ち始めたのも丁度この頃。

(こちらの切っ掛けは、父の部屋にあった鄭問氏の春秋戦国漫画でした)

歴代王朝の順番をマスターしたのは高校世界史に入ってからだったけどね!!


逆に、中二病ツールとして有用な筈の神話は高校までスルーしていました。

児童文学の古事記でほぼ覚えた日本神話と、ギリシャ神話を断片的に齧った程度。

Sound Horizonに唐突に嵌ったのがギリシャ神話モチーフの《Moira》発表直前時点で、

発売前考察の為にギリシャ神話を猛調査しまくったのが始まりです。


家にあったギリシャ神話関連本は山室静氏の文庫本だったのですが、北欧神話が同時収録されていたんです。

あくまでギリシャ神話の『ついで』で読んでみたのですが(Moira萌えでそれどころじゃなかった)、

一番印象に残ったのが『バルドルの死』から『ラグナロク』への流れでした。


実は当時、既に孫呉を舞台とした小説を高校の部誌に連載していたのですが

(嗚呼書いちまった。今度こそ本当に身バレしそうだ)、

それを書きながら『孫登が死んでから本当に孫呉は暗転したよな』という意識がありまして。


孫登死後のグダグダと、バルドル死後の崩壊が脳内で見事にリンク致しましたとさ。


それ以来『孫登≒バルドル』という認識が根底にあり、いつか形にしたいと思ったらこうなりました。

(まあ相違点は多いけどね。孫登は正妻の子じゃないしバルドルにはどうやら兄がいるみたいだし)


語り部二人、諸葛恪と張悌について。

数々の頓智系エピソードから「こいつ面白い奴だなwww」程度の認識しかなかった諸葛恪でしたが、

調べる内に「あれ…?もしかして孫登生きていたら名臣になれたんじゃ…?」となって、

更に「うわああああ四友にも先立たれちゃってまじ孤独だよおおおお」と愛おしくなりました。

よってウチの諸葛恪は『孤独』『どこか脆い』イメージが先行しております。


張悌はですねー…《建康実録》が三国志ファンの間で話題になる以前から、

私の脳内では『抜擢した諸葛家の丞相=諸葛恪』という設定になっていました。

まあ、その時点では《建康実録》の存在自体を知らなかったので

《襄陽記》の記述を脳内改竄しただけの妄想に過ぎなかったわけですが。

(諸葛恪も大傅という丞相クラスの大官だし問題ないよねっ☆なノリで)


最初は『国に殉じた最後の丞相』でしかなかった彼も、

『孫皓に取り入っていたので評判が悪かった』という記述から

「あれ、そもそも孫皓に気に入られて丞相って…あっ…(察し)」となり、『孫皓の共犯者』になりました。

流石に岑昏と並べるのはやりすぎだったかも;(そもそもMy孫皓のイメージすら揺らぎつつあるし…)


張悌にも沈瑩にもSSでは語り切れなかった裏設定があるので、

もしかしたらまた呉末期で何か書くかも知れません(因みに両名とも諸葛恪に関係しているという設定)。


それでは、ここまで全て読んで下さった方に、この場を借りて御礼申し上げます。


2017/08/19 はぐれイヌワシ


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