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Baldr  作者: はぐれイヌワシ
6/8

神々はこの世の終わりを知っていた。雄鶏達が鳴き、冥府の犬は、遠吠えをはじめた。

夏は二度と訪れる事はなかった。

永い冬の中で激しい戦いが雨のように続き、一族が相争い、姦淫はまかり通った。

風雪凄まじく、太陽は見えなくなった。永生の果実を持つ女神は冥界に堕ちた。


やがて解き放たれた奸智の神を筆頭に、その子等と巨人たちが、神々の国に向かった。

虹の橋は、彼等が通った後に崩された。

番人の喇叭は吹かれ、神々は戦の支度に入った。

全てが炎に包まれる日が来たのだと、誰もが理解していた。


***


「――― 綽の命日だった」

しまった、と張悌は固まった。


綽、とは諸葛恪が嘗て犠牲にした長男の名である。

その父によく似た貌をしていたが父に比してかなり柔和な質で、

実際、張悌はまるで実の弟のように扱われてきた記憶もあった。


「毒を呷る前に、『私はいつしか魯王を誠に慕うようになってしまっていた』

『誰にも顔向けして過ごせぬからこれでよい』と漏らした」


先帝・孫権の晩年、東宮の問題で宮廷は二つに割れた。

立太子された孫和を掲げる派閥と、孫和を次期皇帝として認めかねる者が担いだ魯王・孫覇を掲げる派閥。

多くの者が相争い、そして死んでいった。

諸葛恪も表向きは孫和の側に付いていたが、綽を孫覇に近づかせ、万一の際の保険をかけていたのだ。

そして、孫和は廃嫡されて荊州へ。孫覇は自害を命じられた。

太子の座には、母が孫権に愛されてはいたが未だ十にも満たなかった現皇帝・孫亮が入った。

諸葛綽が孫覇と交流していたのを問題視していた孫権は再教育をその父に命じたが、

その真意を汲み取った彼は、長男の手に毒杯を渡したのだ。


「私が今のお前と同じぐらいの年頃に、先帝陛下に召されてその御落胤の侍従となった。

元々は市井の陰で育てられていたようだが、引き取った夫人の教育が良かったらしくて、

誰が見ても主君として掲げるに相応しい人間となっていた」

「でも、確か、彼は」

「――― 彼にも弱みはあった。彼を産んだ女はどうにも、先帝陛下さえどういう女だかよく知らぬと言う有様で、

『そういう半分解らぬ男よりちゃんと後宮で生まれ育った子孝(孫和)様を立てるべきだ』とか、

『皇后と太子は一致させるべきだ』とか、そういう雑音がいつも私達を取り巻いていた。

そして先帝陛下とその太子であった彼の折り合いは必ずしも良くはなかった。

しかし、その『素性の怪しい』宣太子様がお亡くなりになられたらどうだ?

新しく立てられた『後宮で生まれ育った』太子に不満を抱く者が現れ、そこから宮廷は最も残酷な戦場と化した」


宣太子――― 孫登は皆に愛された。もとい、愛されなければならなかったのだ。


「光は決して万能ではない。光が強く輝く程、闇もまた深くなるという事は承知している。

だがな、その光が天から失われたらどうなる?永久の闇どころの話ではないぞ。

地上から温もりが失われ、草木は全て枯れ落ち、生き物は飢え始める。

やがて残り少ない食い物を巡って一族が相争い、姦淫が蔓延る。

――― そして、全ては滅びに呑み込まれるのだ」


「まさか」


「私は再び春に見える事が出来るだろうか、生きて」

そう云って、諸葛恪は寝所に引き上げた。


はい…どうして三国志で北欧神話な題名なのかはこれで皆さまお判りでしょう。

私の中では『宮廷=滅多に流血沙汰はないものの、最も凄惨な戦場』という認識です。


諸葛綽が孫覇に近かった理由は、他の方の考察+独自解釈です。

父もいつしか長男と魯王に、嘗ての自分とその光を見てしまった、とか妄想した。


孫亮も(一応後宮出身とはいえ)母親は罪人の娘なのに、

孫登の生母が後宮に入れない人だったとはこれいかに。

もしかしたら(孫呉時代の怪異録の多さ的に)妖怪の類いで、孫登は半妖でしたー…って

これじゃ犬夜叉だ(アニメの犬夜叉もちゃんと完結していたと知って驚いた)!!


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