五
奸智の神は主神達との酒宴の中で自分が御子の復活を阻んだと吹聴した。
そして、自分以外の神々の欠点や罪をあげつらい始めた。
他の神々は彼を咎め、あるいは宥めようとしたが彼は意に介さず、
『全てが炎に呑まれる』日が来ることを仄めかして去った。
その後彼は身を隠したが、嘗て自らが考案した罠によって捕えられ、罰を受ける事となった。
先ず彼の長子が主神によって狼に変えられ、その弟の身を引き裂いた。
彼は鉄に変じたその腸に縛られ、洞穴に閉じ込められた。
とりわけ彼を憎んでいた女巨人は彼の頭上に毒蛇を配置し、その毒が彼の顔に垂れるようにした。
洞穴では彼の妻が器で毒液を受けていたが、器は有限なので満杯になるとそれを捨てにいかなければならない。
そこで妻がその場を離れている間にも容赦なく毒は彼の顔に落ちた。
その激痛に彼が呻く時、大地が震えた。
***
諸葛恪の容態は、目に見えて悪化していた。
日に何度も血と膿に塗れた包帯を自ら取り替え、医者から調合された薬酒で傷口を洗う。
その合間に邸で政務を執り、人事や軍事の刷新を図った。
「…そのような容態で本当に向かわれるのですか?明日の酒宴に」
「私の為に開かれる酒宴だ、向かわねばならぬ。―――命が尽きる前に今一度、陛下にお目通りしたい」
「命が尽きる!?」
「傍で見ていて、私が死病に冒されているのも解らなかったのか。
東興の戦の頃からだ、通いの医者からもって一年、早くて今年中と言われている」
「…それは私も、このままでは危ういなとは感じておりましたが」
「残された月日は最期の最後まで有効に使わねば。他者の毒酒などによって終わらせられる訳にはいかぬ」
「――― 毒酒とは、まさか」
「あの昼間に来た孫峻という男は、先帝陛下が崩じられた際には私と協力して政敵を排除した癖に、
今回の人事で近衛軍の長を解かれて恨みを抱いたのだろうよ。
武勇には優れているのだろうが案外小心者で、宮中で刃を振るうという真似は出来まい」
「はあ」
「誰も私を殺しなどさせぬ。その瞬間まで足掻ききってやるさ」
「所で、建業を発つ日の『あれは今日だった』は、何の日だったでしょうか?思い出せなくて…
元遜殿の命が尽きる前に聞いておきたかったのですが」
次回、怒涛の諸葛恪過去回想ターン(死亡フラグ)。