表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Baldr  作者: はぐれイヌワシ
4/8

父神は、御子の死が神々の世界の破滅を齎す切欠で或る事を知っていた。

母神は、冥界に使いを出して冥界の女王に彼の蘇生を嘆願した。

冥界の女王は「全世界の者が彼のために涙するというならば帰そう」と約束した。


全ての生きるものと生きないものとが彼のために涙した。

ところが、たった一人、洞窟の女巨人が涙を流そうとしなかった。

神々の使いが彼女に懇願するが、彼女は歌った。


『私は御子とやらのために乾いた涙しか流さぬ』

『生きようと死のうと私にとっては同じだから』

『冥界の女王、持てるものを放すな』


そして御子は遂に帰ることはなかった。

女巨人は、冥界の女王の父である奸智の神が姿を変えていたものであった。


***


今、諸葛恪の軍は建業へ退いている最中である。


彼が倒れたその日を境に気温が上がり始め、たちまち疫病が襲った。

「動員した兵は既に半数以下にまで減少しています、これ以上の戦は無理です!」

「黙れ!貴様らがその様な事をほざくから、余計に兵の士気が下がるのだ!

今度その様なことを申したら、その場で斬り捨てるぞ!」

そう怒鳴られた都督は、数日後に魏に降ったと聞いた。


漸く動けるようになった彼が巡察をしたところ、

暑さから生水に手を付け、下痢や黄疸の者が大半となり、 路を彷徨い、穴や溝で動かなくなる者が多かった。

山越討伐等で数々の功績を挙げ、数多の戦場を見てきた彼も、

ここまで酷い生き地獄絵図には遭遇したことが無かった。


最早、彼自身も胸の矢傷が悪くなる一方であったので、退くより外無かった。

その退却を、待っていた者達が当然いた。

魏軍が、三万の騎兵を以て追撃した。たちまちにして、七万以上の兵を失った。


退く途中の潯陽で一月程屯田を図ったが、建業から詔が来て、やっと帰る事になった。

民はもう二度と彼に心寄せることはないだろう。


―――元遜殿とは思えない失態だ。

張悌は、自らがいまだ五体満足で或る事を奇跡だと感じる程であった。


敗走の途上で諸葛恪は幾度も喀血したが、

『胸を矢で射られたからであろう』とその真の意味を問い質す者はなかった。



全く関係ありませんが、筆者は大学に提出するレポートの中で『山越』を悉く『三越』と誤植し、

提出直前に修正液で皆書き直したという苦い思い出があります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ