三
主神の御子が不死となった事について不審を抱いている神もいた。
巨人の間より生れ落ちながら主神と義兄弟の契りを結んでいた、御子に次ぐ美貌の神である。
かれは奸智に富み、神々に災いを齎しつつも同時に神々の窮地を救ってきた。
女性に化けた彼が御子の母神に近づき、御子の弱点を聞き出すのは容易なことであった。
早速彼はヤドリギを抜いて、先端を削って尖らせたものを、御子の弟である盲目の神に渡した。
「今、皆君の兄上に向かって色んな物を投げて、
そのどれもが彼を傷つけない事を確かめて遊んでいるのは解るよね?
今彼は私が示す方向に立っている。試しにこの木の枝を投げてご覧よ」
弟は彼に唆されるが儘に、ヤドリギを兄に向って投げた。
ヤドリギはあっさりと兄の胸を穿ち、あらゆる物から守られていた筈の輝ける御子は斃れた。
***
「敵の矢が胸を貫き、眉間にも矢が掠りました」
軍医が諸葛恪の受けた傷を診ている。
どうしてこうなってしまったのか。
城の一角が崩れかかった際に、新城の守将からの使者が来た。
「魏の法では、百日立てこもってなお援軍が来なかった場合のみ、
降伏してもその家族は罰せられぬことになっております。
諸葛殿は既に九十日間包囲なされ、後十日待っていただければこの城は自ら落ちましょう」
直ちに、攻撃停止命令を下したその、十日後。
「諸葛恪は智恵者だと聞いたが、それほどでもなかったようだな!
城内にはまだ半年分の兵糧がある、降伏する理由などないわ!」
逆上した彼は、総攻撃の命令を出した。
しかし一旦、攻撃の手を緩めた兵の動きには、もう当初の勢いは無かった。
彼一人が怒りに燃えて、馬上で先頭に立ち、城壁に突進した。
と――。
大小無数の岩石が転がされ多数の呉兵を押し潰し、同時に、弓兵一斉発射。
「ひるむなーっ!進めー!」
ヒュン、と矢が目の前を掠め、一瞬、目を瞑った。
次の瞬間、鋭い激痛と衝撃が、胸の辺りに走った。らしい。
偽りの降伏に、総指揮官の負傷。おまけにこれから気温は上がる一方だ。
張悌は、暗澹たる思いに包まれた。
諸葛恪が負傷したというのは、実は演義にしかない記述だったりします。
にしても、『バルドルに物を投げる』という『遊び』、
事情を知らない人間がその光景を見たらいじめにしか見えないよな。
ロキがバルドルを殺そうとしたのは、『この世に絶対があってたまるか』根性?