06.弱音を吐いた、ユヅル
声がする。
誰かの声がする。
「起きて、起きなさい、ゆづる。」
慈愛に満ちた優しい声。その声にずっと聞いていたい。
俺は、思い瞼を開け、辺りを見渡す。
またここだ。
異世界に転移されたときもここにいた。
でも、今回は人、いやエルフがいた。
「あなたは誰ですか?なぜここにいる」
エルフは 「私はユスティーナ、ティアーナの母です。この空間は私とあなたしか存在できない空間。私がここにいる理由はあなたに娘を助けて欲しいから。」
この人が、ティアのお母さん確かに、どこかティアに似ている。
「もう、無理だよ。恐いんだ、剣で刺された時は、恐怖でどうにかなりそうだった。でも、ティアの事ばかり考えていたから、大丈夫だったんだ。でも、今は違う。俺は身をもって体験したんだ。俺は恐怖を刻まれたんだ。もう戦いたくなんかない。あと、俺は死んだんじゃないのか?」
「あなたは確かに死にかけていた。でも私とあなたの命をリンクし生かしたのです。あなたしか、娘も世界も救えないから。この世界に転移させたのです。これは、私の身勝手な行動です。もし、あなたが世界を救えたなら、褒美を与えましょう。これは、あなたにしかできない事なのだから。」
「恐いんだよ。俺は頑張って色々考えて、赤銅に挑んだ。これで、勝てるって。そう思ったんだよ。でも、勝てなかった。あいつは負けたフリをしていただけだった。俺はちっぽけで弱い。ティアを助けれなかった俺が、世界を救える訳ないじゃないですか。あいつは、レベル7なんだ。この世界に、数人しかいない強者なんだよ。それに比べ、俺は最弱職の冒険者でレベル1、それに知恵も勇気も何もかもが足りない。ユスティーナさん、あなたは知っているんですか?」俺は涙目になりながら、怒りを露わにして言った。
「俺が今までどういう風に、生きてきたのか。何もしてこなかったんだ。ティアにはなかった自由も時間も俺にはあった。でも何もしてこなかった。俺はこんなちっぽけな人間なんだ。そんな俺に何ができるんだよ。なんで俺なんかを転移させたんだよ。」ユスティーナはそんな俺に何も言わずに抱きしめて、「確かにあなたは何もしてこなかった。その事を私は知っています。あなたは、知恵も勇気も何もないってそう言いましたね。でもあなたには、優しさがある、親譲りの優しさが。あなたがもし、1人でどうしようもない時は、ティアにそれから私に頼りなさい。私があなたをこの世界に転移されたのは、あなたが最後のこの世界の希望だから。」
俺は、その言葉だけで恐怖が身体から消えていくような感覚があった。「ありがとう。少し気持ちが楽になったような気がする。でもそれでも、今の俺では、赤銅には勝てない。俺には強さが足りない。だから俺に力を貸してはくれないか。」
「あなたに、いつでも私に会いにこれる権利とパッシブスキル 『治癒』とスキル 『神の時間』を与えます。パッシブスキル 『治癒』は、一定時間ごとに体の傷が癒え、スキル 『神の時間』はチャージした分だけ、自分のレベルが上がる。1分チャージすれば、レベルが1上がる。でもずっとその効力が続く訳ではない。1分間だけ、効力が続く。その効力が消えた瞬間あなたには、とてつもないほどの疲労が襲います。それだけは憶えておきなさい。それでは、娘を助けに行きなさい。」
「はい。必ず助けます。」
理不尽だと思ったけど、俺に期待してくれてるんだ、期待に応えないとな。
「あのぅ、どうやって現実世界に戻るんですか?」
恥ずかしい。あんなにキメた後に現実世界の戻り方を聞くなんて。
ユスティーナさんは、微笑を浮かべ俺を現実世界に戻してくれた。
「待っていてくれ、ティア。
俺がお前を必ず救ってみせる。」