アステリアイーグル
アステリアの国旗には、その象徴として銃と白頭鷲が描かれている。
アステリア国民に取って銃と白頭鷲は自由と正義の象徴であり、初代大統領、そして建国の父であるデビット・エードルセンの象徴でもあった。
アステリアに伝わる童話にデビットと一匹の白頭鷲との出会いが描かれている。
「鳥さん大丈夫よ、その傷を治してあげるわ」
「ぴー」
あら? ずいぶん大人しい鷲ね。猛禽類って怖いイメージあったけど、こうして見ると可愛いものね。
「この者に癒しを!」
「ぴー?」
うん、上手くいったわね。初めて使ったけど治癒魔法って凄いのね。
レイラは魔法の練習を沢山してきたが、治癒の魔法に関しては練習台が無かったのであまり自信が無かった。だが今回使って見ると思いのほか上手く出来たのでレイラは満足していた。
この世界の魔法は完全に術者のイメージ力に依存する。その為に優れた術者とは卓越したイメージ力を持つ者になるのだが、イメージ力を得る為に必要な物が何なのか? と問われるとそれは知識である。つまりこの世界で魔法使いの権威とは賢者と呼ばれる程に科学的な知識が豊富である可能性が高かった。
だがこの世界の科学はそれ程発展してるわけでなく、地球で言うところの中世程度なのだ。だがそれでも天才と呼ばれるものは存在し、その存在が確かに科学的な発展を遂げていた。近代では銃の発明が代表例であろう。そしてその天才のほとんどがヨール大陸に存在したのだが……
「これで大丈夫よ、鳥さん」
「ぴー!」
「な、なんという治癒魔法なんだ、あれをお嬢さまが」
ケインが見たのは治癒魔法と呼ばれるものを遥かに凌駕する、言葉にするなら再生魔法と呼べる程の魔法であった。
獣医の資格なんて無いけど、それでも鳥の治療が出来たわ。流石私、天才ね。
アストランデより遥かに進んだ文明の地球の知識を持つレイラの治癒魔法は、この世界の誰よりも優れていた。いくらこの世界の天才と呼ばれるもの達が100年進歩した発明をしたとしてもレイラは更にその100年先の知識を有していた。そして黒羽瑞稀自身が才女として博士号などを有する優れた人間であった為にこの世界で最も優れた魔法使いとなるのだ。
「ぴー! ぴー!」
「あはは、やめなさい、もう」
白頭鷲がレイラに戯れつく、その光景はケインが歴史の証人として語り続ける事になる。
これがデビット・エードルセンに常に寄り添い、彼の偉業を支えた伝説のアステリアイーグルと呼ばれる白頭鷲との出会いであった。
「ねぇケイン?」
ケインは思った、これは間違いなくおねだりをする時のお嬢さまだと。
「はぁ、お嬢さま私に聞いても答えられませんよ、旦那様に聞いてみないと」
「そうね、パパンにきいてみる!」
ケインはこの時何も思わなかったが、先ほどのレイラの喋り方が急に大人の様になった事をこれから起こる様々な事件がある度に「そう言えばお嬢さまは急に人が変わる」とこの時の事を思い出すのだった。
さてこの鷲を飼えるかは、私の話術、もとい駄々に掛かってるのね。パパンは応接間かしら?
レイラは鷲を連れて屋敷に戻る。怪我が完全に癒えた鷲は何故か大人しくレイラの肩に留まっていた。
トントン!
レイラは応接間の扉をノックする。
「ん? 誰だ入りなさい」
「はい、レイラ入ります!」
「おうレイラか、何か用かい」
そう言ってレイラの方を向いたパパンはレイラの肩に居る鷲を見て固まる。
あら! パパンが驚いてるわ、まあ仕方ないか、それじゃあ
「ねぇこの子を飼ってもいいでしょ!」
私は両手を胸の前に合わせ、拝む様にパパンに潤んだ目で有無を言わさず許可を取りに行く、ここは力押しよ!
「いやレイラ、それは流石に」
「お願いします、レイラはいい子にしますから」
「いやでも」
「お願いします」
私はグイグイとパパンの顔に近づき、潤んだ目で見つめて押し切る。ここは押しの一手、これが娘に甘い父親に勝つ最大の一手!
「むむむ、くぅ、仕方ない分かったよレイラ、その代わり面倒をキチンとみるのだよ」
「きゃー、嬉しいパパンありがとう!」
私はパパンに抱きつき喜びを表現する。ここで大袈裟に喜ぶと娘に甘い父親はこれからもずっと甘くしてくれるのだ。
「う、うむ、ところでその鳥はどうしたんだい?」
普通は一番初めに質問するのだがレイラの先手に出来なくなったのだ。
「うーん、あのね、けがをしてたからたすけたのよ!」
「そうかレイラは優しいからな」
ここに来て子供らしく喋り始めるレイラ、普通なら遅い判断だが娘に甘い父親には決して遅くなく、今もデレデレとレイラを可愛がるのだ。すこし鷲にビビりながら
「えへへ、そうなのこの子はわたしのあいぼうよ!」
「そうか、そうか」
「ぴー!」
ケインはこの光景を見て家族とは良いものだなと思っている。ちなみに応接間にいまだにコンド社の営業とウィスター社の営業が座っていたとさ。