ジョンという男
西部での私達の影響は確実に大きくなっている。でも西部の人達はあまり積極的にエリザ帝国を非難しない、何故なら
「独立なんてするより新天地よ、俺たちゃ夢追いかけてるだ!」
とか言われることが度々ある。西部にいる女性や商人は直接的にエリザ帝国の政策での被害を受けているが、西部の男達は新天地開拓を条件に税の面で優遇されているためエリザ帝国への怒りは薄く、なおかつ子供の私では威厳と言えば良いのか西部の男達を惹きつけるカリスマみたいなものが足りなかった。
「ジョンさん、今日も狩りですか」
「ああ、俺にはこれしか出来んからな」
「頑張ってくだせえ」
「ありがとよ」
そして西部でカリスマ抜群なのがこのジョンと呼ばれる男、名をジョンポールと言い、皆からジョンと呼ばれている。
噂では、いや間違いなく世界一のガンマンであろう男
ヨール大陸から何故流れて来たのか理解できないほどの強者で、噂では各国の貴族ですら何も言えないほどの男だとか
うん、そんな男なら間違いなくカリスマだよね、周りの男共がみんなジョンさん、ジョンさんと彼を讃える。そんなジョンが狩ってくるのはバッファルと呼ばれる牛型の魔物、その突進力は石でできた壁すら軽く破壊する厄介者で町を破壊されないためにいつでも討伐対象なのだが西部で単独で狩れるのはジョンただ一人、私? 私は無理よ怖いもの
そんな強さも噂通りだから彼のカリスマを抑えることは何も無いの、町長さんの言うことよりもジョンの言葉が優先されて、もちろん私の言葉よりも遥かに優先される。
「はぁ、予想外もいいところよ、なんであんな化け物が西部にいるのよ!」
「頭、たまにおいら達と出くわすことがあるんですが、応戦は」
「していいわけないでしょ、殺されるだけだよ」
「そ、そうですよね」
風の踊り子のアジトは何処かと言うと
「現場監督、この資材どうします?」
「それはこちらへ」
大陸横断鉄道の建設現場、風の踊り子は基本的には工夫として働いてるのだ。もうほとんど盗賊行為なんてしていない、レイラの指示でヤラセを行う時程度である。
「しかし頭の考えた工法は凄いっすね、こんな簡単に作業が進むなんて」
「全くここでは頭と呼ばないでくれ、ここでは考えだよ」
「へいすいやせん頭、あっ! 監督」
「はぁ、まあいいか、ともかくジョンを倒すか、味方に引き入れるかどうするかな?」
どうしたものかしら、どうやればジョンを…
味方に欲しい人材なのよね、だって滅茶苦茶強いもの、戦ってるところを遠巻きに見てたけど凄いの一言よね。バッファルを一撃で10匹倒したのは圧巻だったわ、なんで10匹が一撃で倒せるのよ、もう!
「ジョンの情報が必要よね、出来れば弱みが良いけど、ワガママは言わない」
「それはおいら達の出番ですかい頭?」
「ここでは監督だよ、でも確かにお願いしたいね」
「へい」
そこに現れたのは風の踊り子の中でも諜報活動を主に行うもの達で、その仕事は既に風の踊り子の規模を超え、レイラにとって最大の力になっていた。後のアステリア諜報機関の元となった組織である。
そこのリーダーは
「坊っちゃま、それではすぐに調べさせますね」
「はーい、よろしくねケイン」
「はっ! よし行くぞお前達」
「へい親分」
ケイン君がその任に就いていた。