黒羽瑞稀
アステリア国の歴史は人々の好奇心と冒険心、そして残酷なまでの欲望を見せるものである。
アステリア歴はエリザ帝国への宣戦布告を布告した7月4日から始まる。その始まりの日を告げたのはアステリア国初代大統領であるデビット・エードルセンが首都であるエードルセンシティーにある大統領府の前の広場に集まる万を超える民衆の前で建国を宣言した日である。
しかしアステリアの歴史に置いて絶対的な英雄として、絶対的な政治家として、後世の人々が彼の様になりなさいと言われたデビットの人柄、いやその人物像全てが歴史の謎として語り継がられる事になる。
アステリアの英雄デビット・エードルセンとは何者だったのか? デビット・エードルセンとは何故この様な偉大な功績を残せたのか? アステリアの残酷な歴史を偉大なる歴史に変えたデビットの物語が始まる。
2017年日本
「どう言う事ですか大臣? 貴女が献金をあの企業から受け取った事は間違いないはずです!」
「そうです、貴女は国民に説明する義務が」
東京都千代田区、ここは与党の本部。そこに沢山の記者が押し寄せていた、何故かと言われると
「黒羽大臣、貴女は国民を裏切ったのですか!」
黒羽瑞稀は日本史上最初の女性総理に最も近いと言われる女性議員であり、現在は外務大臣としてその職務に全力投入していたのだが
「黒羽議員は〇〇建築から多額の献金を受け取り、その見返りに広大な国有地を格安で譲り渡したと」
ニュースで流れるのは彼女の疑惑ばかり、そんな状況の彼女は
「はめられたわね、流石長年日本の政治をしてきただけあるわ」
瑞稀はそう呟きながら事務所でため息を吐く
「先生に国有地をどうする権限などありませんし、財務省にパイプなども無いのですけどね」
彼女の秘書もそう考えるのだが、しかし世間に流れたニュースは彼女が既に悪人であると断じていた、証拠も何もなく、ただ怪しいと言うだけなのだがマスコミが連日騒ぎ立て、野党も政権のアキレス腱と見たのか意味なく責める日々
「父から受け継ぎ選挙に出て、もう何年かしらね」
瑞稀はボーっとそんなことを考える、自分の小さな頃の夢は何だったのだろうかと、父は不自然な事故で亡くなった、彼女の父親は総裁選に出たら間違いなく勝てると言われていたのに外遊先でテロに襲われて
「証拠は無いけど、間違いなく父を死に追いやったのは与党議員の誰か、そして今回も私を総理にしたくない誰かなのね」
彼女は疲れ切っていた、人の悪意の全てを凝縮された政治の世界に
彼女は諦めかけていた、総理になりこの国の不遇に喘ぐ全てのものを救う事を
彼女は……
「私の仕事は、私の全ては認められなかったのね」
黒羽瑞稀は疲れた体を引きずる様に進む、今日も彼女は野党から無意味な追求を受けるのだろう、彼らにとって証拠は必要なく疑惑だけで良いのだから
黒羽瑞稀は味方のいない道を進む、今日もマスコミが彼女に質問するだろう真実ではなくセンセーショナルなニュースを欲しがる彼らにとって彼女は格好の餌なのだから
「この売国奴が!」
だけどその日はいつもの彼女の敵でなく、情報の真実を見ぬ英雄になりたがるマヌケが彼女の目の前に
カチャ
「じゅ、銃!」
誰にでも生殺与奪権を与えられる道具を持って
パッン!
彼女の歴史は幕を降ろす事になる。
はぁー、本当に馬鹿だったな私
政治家なんて道選んだばかりに若くして死ぬなんて
ちなみに三十は超えています。
親父の言った通りに普通のOLしとけば良かったな、ああ私の熟れた肉体をいやらしい目で見まくるジジイばかりだったよ政界なんて、親父のコネでどっかの大企業にでも入って若いイケメンのエリート捕まえて、そいつに親父のあと継がせてたら後援会の人達も納得してくれたろうし
彼女の目標は結構俗物です。
まさか最後に殺されるなんてね、しかもアホな奴に、はぁ、本当になんで政治家なんてね、次機会があるなら政治の世界だけは御免だわ、本当に絶対御免だわ
黒羽瑞稀は最後に政治家なんて絶対二度となるもんかと心に決めて死んでいったのだった。
黒羽瑞稀の物語はそこで一旦終わりを迎える筈だったのだが、今回の彼女の不遇には理由があった。
《サイド ???》
アストランデは何故あんなにも人々が憎しみ合うのかしら? どうして従わせようとするのかしら?
アストランデを見守る者は悩んでいた、その悩みは深刻でアストランデの未来を憂うものだった。
文明の発展を望んで送り出した者が作りし国は確かにアストランデに豊かな国を作ったわ、でも豊かなのは彼の国だけ……
アストランデの発展を望む者が送り出した者が作った国はアストランデの歴史で大帝国と呼ばれ、その力で他の国を、特に違う大陸の、しかも違う人種、いわゆる亜人と呼ばれる、エルフ、獣人、ドワーフなどを奴隷として支配していた。その事が見守る者が受け入れがたい事であった。
また誰かを送れば良くなるかしら?
見守る者は基本的に他力本願であった、これに選ばれた者は災難である。そんな運の悪い人物が
まあ凄いわ、黒羽瑞稀と言うのね、この方をアストランデでに送ればきっと良くしてくれる。地球と同じ位の文明に導いてくれるかしら?
見守る者にとって地球はお手本である、人種間のいざこざがあるにはあるが、それを乗り越えようと自発的に動く人類に好感を持っていたし、支配者を民衆が決める民主主義をアストランデが目指す一つの手段と思っていた。
民主主義が出来れば、その先に文明の急激な発展とそれによる差別への反発が強くなるはずよ。
見守る者の思いつきで黒羽瑞稀はアストランデ行きが決定してしまう、彼女の知らぬ場所で
まず彼女の魂を彼女の体から引き剝がさないと
彼女の命の是非を
そうだ、このおかしな考えの人にやってもらいましょう。
関係無いものまで巻き込み
そうだわ、彼女が死んでもおかしく無いようにしないと
いわゆる神と呼ばれる見守る者、その存在は思いついた事を実行する時に相手の都合を考えない
ふふふ、これでアストランデは救われるわ、私のアストランデが
何故なら神こそ、この世で最も傲慢に人を扱うからである。
こうして黒羽瑞稀はアストランデに転生する事になる。彼女がこの事をしったならば間違いなく神を倒す為に行動を起こしただろうが、今回の事は彼女の知るところにはなかった。そして黒羽瑞稀は転生する、日本にいた頃より過酷な世界で
『あれ、なんで? 私生きてるの?』
日本にいた頃より残酷な世界で
『あれ? 体が思う通りに動かない』
日本にいた頃より強く
『へっ? 誰、外国人?』
日本にいた頃より可憐に
「初めまして、私の可愛い赤ちゃん、ママよ」
「おぎゃー、おぎゃー」
「喜んでください、元気な女の子ですよ」
日本にいた頃より……
『あれ! 私、赤ちゃんになってるーーーー!』
アストランデを救う使命を勝手に課せられた女の子、その名はレイラ=エードルセン、アスタリ大陸のエリザ帝国領である港町ポーツマの領主の娘としてその生を受ける。
これはアステリアという国がどのように建国されたか、どのように巨大なエリザ帝国に立ち向かったか、そしてデビット・エードルセンがどのような軌跡を描いたのかを語る物語
レイラ=エードルセンの誕生はアステリア建国の10年前の出来事だった。