盗賊達の説得
さてと、盗賊さんもここまで集まると壮観ね。
レイラの前に百を超える盗賊、元になるが、がいた。
「みんな僕の話を聞いてくれるかな?」
盗賊達は黙ってレイラの話を聞く、既にレイラにボコボコに負けていた為おとなしかった。
「では聞いてくれ、まず私の名はデビットだ。そして君達を何故殺さなかったのかも君達に納得して貰いたい為に今後の説明をさせていただく」
「今後ですかい?」
一人の盗賊が聞き返す、この盗賊は彼らの中でもリーダー格の様だ。
「そうだ、正直君達が盗賊に身をやつしたのは何故かは想像出来る」
レイラはこの時言葉を選ぶ、彼らが盗賊になった理由は様々に決まっているのにレイラは自分の目的に賛同して貰いたい様に理由を誘導する。
「エリザ帝国が悪いのだろう?」
「そうだ、あの国は俺たちを追い出した!」
「俺の家族を奴隷としてどこかに売り飛ばしやがった!」
「おれは無実の罪でこんな辺境に」
次々上がるエリザ帝国憎しの言葉、ここでレイラはニヤリと笑う。
うふふ、良いわよ。そうやってエリザ帝国を悪者にするのよ。
ここで声を上げているのは最初にレイラ達を襲った盗賊、レイラはこの盗賊達には盗賊になったきちんと理由を聞いていた。そこからエリザ帝国に被害を受けた者、もしくはそれほどでなくてもレイラの誘導でエリザ帝国が悪いと言うことになった者を選抜して集会に参加させてる。その他のメンバーは周囲警戒の為に見張りを
「そう私たちは好きでここにいるのではない、好きでこんな犯罪を犯したのではない、全てエリザ帝国の蛮行の為よ!」
レイラの演説、その演説は彼らにとって都合のいい事を都合のいい様に変えてくれた。自分達は好きで盗賊になった訳じゃない、エリザ帝国が盗賊でもしなければならないほどに追い込んだと思いこむ。
「あなた達だけでは無いわ、この地に住まう全ての人々の権利をエリザ帝国は無慈悲に奪っていったわ」
「そうだ!」「エリザ帝国め!」「奴らは悪だ!」
煽る最初の盗賊達
「みんなこのままでいいの? 私達は虐げられていていいの?」
「ダメだ!」「許せない!」「奴らを見返せ!」
威勢のいい言葉が他の盗賊達にも目立ち始める。レイラはいい感じだと満足気に見渡す。そして下を向く盗賊達がいるのにも気づく、彼らはエリザ帝国の強大さを知っており、この場のノリだけですら強気になれない者だった。
「そうエリザ帝国から私達は勝ち取らなければならない、自由を!」
「自由を!」「自由を!」「自由を!」
その声が大きくなるにつれ、下を向く者は戸惑いを隠せなくなる。そして
「バカを言うな!」
盗賊達の中で一目を置かれてるであろう一人が場の鎮静に当たる。その男はレイラを睨みつけ熱狂する盗賊達を鎮めにかかる。
「アダムズさん」
あら? あのアダムズって奴は最後に襲って来た一番まともな盗賊団のリーダーだったかしら? アダムズの一喝で彼の盗賊団以外も黙ってしまったわ。
レイラも意外な光景だったが、それ以上に
盗賊をまとめるのにもっと苦労するかと思ったけど、これはもしかした楽に事を運べそうだわ。
そうにやけ顔が止まらない、だが盗賊達の前では真面目な顔で
「おい坊主、確かにお前さんは強い、俺でも敵わねえし、命を取らなかった事は感謝してる。だがなこいつらにアホな事をさせようとしないでくれないか?」
ほぉ、こいつ私が何をさせようとしてるか気が付いてるのね。
「僕があなた方に何を求めてると?」
「エリザ帝国から物資を奪わせたいんだろ? エリザ帝国軍の物資は豊富だからな実入りが段違いだ」
「エリザ帝国から物資を奪う」
「そんなこと」
「あいつらの武器は俺たちの銃と比べ物にならね、しかも大砲まである」
あら、エリザ帝国からの物資奪取程度でここまでビビるのね。ふーん、案外骨が折れそうね説得するの
でもね、その程度では私に勝てないわよアダムズ君
「ふふ、あはは! アダムズ君といったかな?」
「な、何がおかしいんだ?」
「おかしいなんてもんじゃないよ、だって君は見当違いな考えをしてるからね」
「見当違いだと?」
「そうだよ、僕がその程度の事をする為に君達を生かしたとでも?」
「違うってなら何をさせるんだ?」
アダムズが大きく叫ぶ、他の盗賊達はそれをただ見てることしかできない。
「確かにエリザ帝国から奪うものはある、その為に君達に手伝って欲しいのは事実だ」
レイラの言葉に騒つく盗賊達
「やっぱりそうじゃねえか、俺たちにエリザ帝国軍へ鉄砲玉になれと言うんだろふざけるな!」
アダムズはエリザ帝国の強さを知っている。彼は過去に、いやこの盗賊達ほとんどがエリザ帝国に全てを奪われているのだから。
「ふざけるな、か、僕は君達に確かに大変な要求をする、それは間違いない!」
レイラはゆっくりと間を取りながら一つ一つの言葉を丁寧に喋っていく。彼女はここが勝負所と読む。
「だが、君達は今のエリザ帝国の蛮行に納得してるのか!」
レイラの演説に黙る盗賊達
「我々アスタリ大陸に住まう全ての人々を奴隷として扱う、そんな状況に納得してるのかアダムズ!」
「ぐっ!」
アダムズも黙ってしまう。エリザ帝国の所業に納得してるもの達なんてこの大陸に存在しないのだ。
「君達を生かした、違う! 私は君達に出会ったんだ。同じくエリザ帝国の不当を許さぬ同士として!」
レイラはその時喋り方だけでなく、立ち姿、仕草、そして目線まで気を配り盗賊達の心を高揚させる事に注力する。
「盗賊に何故なった! 何故荒野に隠れ住む! 何故我々は我慢をしなくてはならない!」
盗賊達はうんうん頷いている。
「エリザ帝国こそが最悪の盗賊ではないか! 我々から何もかも奪い、私腹を肥やし、虐げる。
それが許される、こんな世に納得して生きていくのか!」
アダムズは額から汗を流す、彼は悟ったのだ目の前の子供は我々に悪魔の選択を迫るのだと。
「さあどうだ! お前達はどうしたい、エリザ帝国に怯えて暮らすのか!」
レイラは大きく間をとって、盗賊達に有無を言わさぬ迫力で問う。
「自由を! そう自由を勝ち抜くのか!」
そこで盗賊達は大歓声をあげる。アダムズはもう止められないと悟る、止められないなら
「さあ選べ、私の目的はただ一つ、そうエリザ帝国からこの大陸全ての人々に自由を勝ち取らせる事、エリザ帝国からの独立だ!」
どわ! と更に歓声が大きくなり、そして盗賊達の「自由を!」コールが響き渡る。
「アダムズ、君はどうする?」
レイラはアダムズの目の前に行き、最後の問いを問う。
「勝算はあるのかい?」
しかしアダムズも最後にこれだけは聞かねばならなかった。アダムズのその言葉に盗賊達も静かになる。確かに盗賊達もノリだけでエリザ帝国にケンカは売れなかった。
「存分に!」
レイラの自信満々の顔に盗賊達はまた歓声を上げる。そして広がるデビットコール
あるって言っただけで具体的な事は言ってないのによく騒げるな、バカなのかしら?
レイラはちゃんと説明しようとしていたのだが、思いの外早くに盗賊達がやる気になってしまう。
「そうかい坊主、いや王よ、俺はあんたに付いてくよ」
そこで盗賊達は俺も、俺もと声を上げる。彼らもエリザ帝国に何か仕返しをしたかった。そしてデビットと言う化け物みたいな強さに期待を持ってしまったのも理由の一つだろう。
「ダメだよ君達、僕は王になる訳ではない」
「なんだいエリザ帝国から独立するんだろ? 国を作るんじゃないのかい」
そんなアダムズの質問に
「僕の作る国は人民の国である、そう君達が考える王様の国ではない」
「あん?」
盗賊達は首を傾げてしまう、そこにデビットは
「君達に教えよう、自由を! 君達に教えよう、最強の国の作り方を 君達に教えよう、民主主義を!」
「民主主義?」
この日、後に常にアステリア最強の軍隊と呼ばれた陸戦第一師団が生まれた瞬間でもあった。
アダムズ
独立戦争の際に陸戦部隊の大将としてその名を十二分に轟かせた猛者である。