壊れる日常
茶会とはエリザ帝国民にとって、とても身近なイベントだった。
エリザ帝国は国民の不要な集まりを禁止していた、よくある集団による武力革命等の準備をさせない為であるが、何事も抜け道と言うものがありそれが茶会と呼ばれる紅茶を嗜むパーティーである。
エリザ帝国民にとってお茶とは崇高なものであり建国の王である、初代皇帝ウィリス一世が広めた茶の文化は現皇家ですら覆せない神聖なものとなっており、どの様な集まりでもお茶会と申請があればどの様な集まりでも解散させる事が困難なのだ。その様な歴史の中で皇家も苦肉の策として茶会には最高の茶葉で挑むべしと令を出し金を掛けさせる事により無駄な集会をできない様にさせたのだが、その令をによりエリザ帝国内で茶葉の需要は天井知らず、それがアスタリ大陸進出を加速させ、その大規模な茶畑にエリザ帝国の政府は異常なまでの課税を掛ける。それは奴隷に遠慮などする必要が無いと言わんばかりに。
「本国に思い知らせるんだ、奴らから茶を奪おう、あの企業の輸送船を襲おう」
「東ドワーフ会社か」
東ドワーフ会社とは、説明すると少し歴史の話にもなるのだが、アスタリ大陸を最初にヨール大陸の民が発見した時、それを発見したのはエリザ帝国では無くヨール大陸の南の方の国であるボルトサ王国であり、時の王が冒険家であるローブスに
「東にドワーフの王国があると言う、そこには素晴らしきものがあると言うのだが陸路では間に異教徒どもが邪魔をする、それを何とかできると言うのかローブスよ?」
「はい王よ、この世界は丸いのです、だから西に進めばいずれ東のドワーフの国に着くのです」
「なんと、そうであれば西に行けばドワーフの国から胡椒を」
「はい、お任せ下さい」
とのやりとりの後に西の海路を進み、そして見つけた大陸に上陸してみればそこには多数のドワーフがおり、そこを東のドワーフの国と報告したローブス。しかしそこはヨール大陸の西に存在したアスタリ大陸でありドワーフが居たのはその大陸の近隣にある諸島群であり、そこに胡椒は無かったのだが
「こんな広大な土地があるのなら利用出来るはず、資源の宝庫だ!」
エリザ帝国を始めヨール大陸は各国が睨み合う状態で己が領土を増やす為には国力をかなり割く戦争をしなければならず、しかも戦争をしたならばその他の国から確実に弱った状態の国を蹂躙される為各国ろくに動けなかったのだが、そこに知らされた広大な土地の情報に時は大航海時代へと進む。
こうした中で頭角を現したのが東ドワーフ会社、これはエリザ帝国が海運業を迅速に行える様に立ち上げた半公半民の会社でアスタリ大陸、そして大航海時代に確立されたドワーフ王国への海路から茶葉と胡椒をエリザ帝国に運び出す事を生業とする。
東ドワーフ会社はその性質状凄まじい力を持ち、アスタリ大陸の茶畑の事業者程度では話し合いにも応じないほど高圧的な態度を取る。
そしてアスタリ大陸の民から深い憎しみを買ってしまい、現在憎しみの対象としてポーツマの支社は忍び寄る不穏な動きに気付かぬまま時は激動の時代に突入していく。
「男爵、本国はこの額では納得してませんよ。この地で取れる茶葉の額を考えれば税は安いものでしょ」
「しかし八割とは暴利が過ぎるのでは」
「これは皇帝の命ですよ?」
「ぐっ!」
男爵とはエードルセン家の当主であるレイラの父の事であり、エードルセン男爵はアスタリ大陸の貿易に対しての責任者として本国から送られた人間であった。
そしてエードルセン男爵は本国からとんでもない要求を突きつけられていた。
茶葉の売り上げの、いや全ての輸出品の売り上げから八割、利益からでは無く売り上げから八割を税として要求されたのだ。はっきり言えばアスタリ大陸の全ての民は生活出来ない税率であり、死ねと言われてるのと同意語であった。
「大丈夫ですよ、言う事を聞かぬのなら見せしめに殺せばよろしい、所詮本国から流れた移民と亜人どもだけだ。死んでも構いませんよ」
それはエリザ帝国の民の本音であり、そしてヨール大陸の多くの民の考えでもあった。アスタリ大陸の原住民はそもそも人で無く、そしてアスタリ大陸に移住した者もそもそもヨール大陸の爪弾きものだろうと、そこからある差別の意識は決して消える事無く、その事が本国エリザ帝国と属国のアスタリ大陸に決定的な歪みを生み、その歪みは領主程度では止められるものでは既に無くなっていた。
しかしその歪みは表に出る事なくどんどん大きくなっていく、八割の税率を発表した時も表面上は何事もなく平和に進むのであった。だが
「ふざけるな! 俺たちは奴隷じゃ無いぞ」
「何が皇帝だ! 俺たちの支配者にはふさわしく無い!」
「エードルセンのクソ野郎、死ね!」
数名の暴徒が暴れまわり、領主軍によってすぐさま、いやこの時来ていた
「なんだ、皇帝陛下に逆らう族が、身の程を教えてやれ」
この時たまたま駐留していた、エリザ帝国海軍総司令のジョーイ公爵にがその暴徒を見せしめに、消して例外無く串刺しの刑に処す。その日ポーツマの街に血の海が出来たのだ。それはエリザ帝国に逆らう者を減らす作用は起こさず、それどころか
「これが奴らの答えなんだ、俺たちは戦わねば殺されるだけだ」
「そうだ、エリザ帝国は俺たちの国では無い、奴らは敵国だ!」
「そうだ独立すべし、奴らをこの大陸から排除するんだ!」
そんな声が大きくなり、そしてその日はやって来る。
その日ポーツマに大量の茶葉を積んだ船が止まっていた。その船全てが東ドワーフ会社の所有船で、その会社の社長はジョーイ公爵である。
その船の積み荷を狙う民衆が茶会と称して集まっていた事は後の歴史書に書かれていた。
「あら、何事かしら?」
レイラは騒がしい外の様子に不思議がっていた。そこに慌てた様子でケインがやって来る。
「お嬢さまお逃げください、このままではお屋敷に暴徒達が!」
「えっ!」
この日始まる事件はアステリアの歴史に置いてよく語られる事件だが、その中心に初代大統領である、デビット・エードルセンが関わっていたとはついぞ知られる事が無かったのだった。