19歳、女子大生の場合
気晴らしが欲しい程度に蒸し暑い夜だった。
帰り道。携帯電話で、ある男性のブログを彼女は確認する。
大手のブログサービスを展開しているWEBサイトのうちのなんの変哲もないブログのひとつだ。
しかし、彼女はそれを愛読していた。
文章だけの簡単なブログだ。掲載しているのは彼女でも彼女の見知った人間でも有名人ですらない。
更新されたのは今日の正午前である。掲載主は毎日午前中にブログを更新している。
ブログを書いているのは二十代の男性で六本木でバーテンダーをしているらしい。ブログの内容は主に彼の恋愛に関する情報や私的な見解だ。
そのあまりに詩的でロマンティックな内容と、ともすればストーカー気質な発言に彼女は内心笑いながらも、毎日のように応援のコメントを載せ続ける。
彼のことを馬鹿にしているのか?
本心から応援しているのか?
そんなことは彼女にとってはどうでもいい話だ。ただただ面白ければいいのではないだろうか。
その男性の文章はそこそこ読めるものではある。それが彼のどんな自己陶酔の発露であろうとも、今日のブログも笑えたのだからそれでいいだろう。
彼自身が気づいていないのであろうから。
自己満足に読者をつき合わせているということに。
小さな快楽を読むものに与えているということにも。
そして、彼女は学校の友達にメールを送り、あるいは誰が見ているとも知れないSNSにその本文の一部とURLを掲載して発信する。
それが彼女の日課であり、これをするようになってから、彼女のフォロワーは増えつづけていた。
千葉県は千葉市稲毛区の郊外を歩きながら彼女は不意に空を見上げた。
雲間に満月に近い月が鎮座している。
その光景が少しだけステキに思えて、彼女は携帯電話を空へと翳す。
雲間から覗く陽光をヤコブの梯子とか言ったのではなかっただろうか。
では、雲間から覗く月光はなんと呼ぶべきなのだろう。
携帯画面に収めて写真を撮った。
携帯電話からソーシャルネットワークを介して彼女は『つぶやく』