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限定天使物語  作者: 憂い帯
底辺天使 転落編
2/20

002:悪戯と、その代償 ―― 前後不覚のランジェリー

 ポニーテールと言う髪型がある。


 年頃の少女の髪型として完全無欠に宇宙一位であることは今更語るべくもないが、せっかくの機会なので初心者の方にも分かり易く説明しておきたい。


 ポニーテールとは、髪を後頭部の高い位置で束ね、後ろに垂らす髪型のことを指す。 必要条件には諸説あり、広義では髪の毛を結んで垂らしたものは全てポニーテールと定義する輩もいるがロマンがないので出直して来いッ!


 語源はとてもシンプルで、毛先が仔馬(ポニー)の尻尾のように垂れていることからこの名が付いた。 日本語では古い表現で総髪(そうがみ)と呼ばれる。 これを「そうはつ」と呼んでしまうと男性の髪型になってしまうので注意されたい。

 七月七日はポニーテールの日だ。 元旦の三倍めでたいのでメモを推奨。 理由については調べてみるといいだろう。 少し驚くかもしれない。


 それではお待ちかね、魅力についての評価へ進もう。

 まず最初に押さえておきたいのは、耳とうなじが解放される点だ。 普段ひっそりと隠されているこの部位は少女のか弱さを象徴する聖域であり、フェロモンが大量分泌される危険区域でもある。 聖魔(せいま)吻合(ふんごう)たるこの神秘的景観も、もちろんユネスコ辺りに重要文化財指定されて然るべきだが、輪をかけて重要なのは開放的な髪形にトランスフォームを遂げたことによる少女自身の意識変化だ。

 静から動へ。 閉から開へ。 どこかエロスを感じさせるこの変遷について具体的に知りたくば、普段野暮ったいストレートで過ごす地味な文学少女を想像してみるのが得策だろう。


 体育の時間。

 君の前には偶然出会った、髪を上げた彼女の姿。

 「お前って、運動するときはポニーテールにするんだな」

 彼女ははっとして視線を逸らす。 首が横を向いた拍子、耳から白いうなじにかけてが視界を占有。 魔に魅入られたかのごとく視線が釘付けにされてしまう。

 そして彼女は、少しだけ頬を染め、上目遣いで、囁くように問いかけてくるのだ。

 桜色の唇の端に、小悪魔を宿らせて。

 「……変、かな?」

 最高だああああああああぁあっ!


 はいっ、続きましては赤丸重要ポイント。

 長い髪がキュッと、小気味よく『キュッ』と一点に収束される結い目だ。

 まさに乙女の命の収束点! あの座標には神が宿っているっ!! その神座から降臨される清水の如き一房が、少女の一挙手一投足に呼応して揺れ動く姿たるやっ!!! 死ぬほどチャーミングな躍動は、DNAに刻まれた狩猟本能を猛烈に刺激し、道端でモンスターを探していても目を奪われること請け合いだ。


 シンプルにしてスタイリッシュ。

 溌剌(はつらつ)にしていと(みやび)

 森羅万象絶対なる魅力の前に、人はただ(かしず)き、讃えることしか許されぬ。

 やはりポニーテールこそ至高。 異論などあろうはずが……なに? ツインテール派? 戦争だ!


 ……少々冷静さを欠いてしまったが、少しでもポニーテールの魅力を理解してもらえれば望外の喜びである。


 そういえば最近天使になったのだが、この子がまたポニーテールの似合う美少女でびっくりした。

 見た者に強く印象を残すのは、琥珀色の両瞳と艶のある長い赤髪だろう。 俺はこれほど色彩華やかな少女を見たことがない。 反面、大きな瞳は愚直なまでの意志の強さを感じさせ、やや薄い唇も相まって名のある騎士のようなクールな雰囲気を醸し出していた。

 美しくも凛々しいその風情には、予想違わずポニーテールが映えること映えること! これぞ理想的な相乗効果(シナジー)であると胸を張って言い切れる。


 あ。 胸と言えばこの天使、美貌もさることながらスタイルも見事なものだった。

 造形絶妙な双丘はやや手に余るほど豊かだが、全体では華奢に見える、いわゆる着やせするタイプ。

 ドストライク! 文字通りの天使様だ。


 今も視界をわずかに落とせば、ブラウスの隙間から魅惑の谷間が見え隠れ。

 着ている衣服が女子高生っぽい作りなせいで、その瑞々しさが凶悪なまでに意識させられてしまう。


 この胸を、この身体を、存分に弄りまくったのはつい先ほどのこと。


 すごかった。

 すごすぎた。


 わざわざ瞼を閉じずとも、夢のような桃色メモリーがありありと蘇っ――


「聞いてるんですか天使様っ!」


 スコーン! と、額に衝撃一閃。

 頭が勢いよく跳ね上がり、後頭部が椅子の背もたれにぶつかった。


「イタタタ……何すんだよ、リオ」


 おでこをさすりながら視界を戻す。

 白いばかりの小さな部屋に、同じく白い小テーブル。 その手前、目線の高さに滞空しているのが怒声、並びにサマーソルトキックをくれた犯人だ。 ボディスーツに身を包んだベリーショートの赤妖精は、顎までしゃくれて大変お怒りのご様子。


「それはこっちの台詞ですよ! まったくあなたって天使(ひと)は、隙あらば鼻の下伸ばして妄想に走るんですから。 ご自身の置かれた状況を理解してるんですか!」


 鼻っ柱にミニマムな指先を突きつけられ、俺ははたと状況を思い出す。


 そう、だった……。

 せっかくポニーテールへの信仰心を再確認して気を逸らせていたのに、どこで道を間違えたのだ? まるで原因不明だが、とにかく俺はこの身に降りかかった二つの問題をしっかりと再認識した。


 その内の一つ。

 最重要問題。


 俺の魂が放り込まれたこの『天使素体』は、エロいことをすると(・・・・・・・・・)寿命が減る(・・・・・)のだ。


「す、すまん。 助かった」

「頼みますよホントに。 死亡した日に寿命で死ぬなんてややこしい生涯を遂げないでください」

「関係各位に説明しづらいことは確かだな」

「合意が得られて何よりです。 ささ、フルスキャン完了しましたから、検査用のデバイスを外して大丈夫ですよー」


 間延びしたソプラノボイスで告げたリオが、俺の左手首へと視線を向ける。


 機器(デバイス)とは言うが、見た目は駄菓子屋で売っていそうな安っぽいブレスレットである。

 外してテーブルに戻すと、リオも同じくテーブルの上に着地。 既に置いてあった身の丈ほどのタブレットデバイスを「んしょっ」と立ててタップする。 これまたアクリル板にしか見えないが、リオの操作に合わせてアイコンや文字が踊った。

 この世界、科学技術の水準がかなり高い。


「フルスキャンなんて実行したの初めてですけど、結構時間かかるもんですねー」

「そういうのはいいから、はよ結果を教えてくれ」

「焦らないでもすぐですってば。 ……んー、あー、やっぱり先ほどのスタンダードスキャンの結果と同じですねー。 稼働前の値と比べて減少してます。 10%」


 がくっ、と首が落ちた。

 10%……たった一度のイタズラ心が、十年もの寿命を持って行ったと言うのか。

 ひどすぎる。 これほどポニーテールが似合う美少女の身体にありながら、生涯エロ禁が約束されてしまった。

 エロ禁TS天使爆誕だ。 ネーミングからして救いようがない。

 リオは「減少し続ける症状じゃなくて良かったですねー」とフォローを入れるが、慰めにもなってはいなかった。


「うぐぐぐ、何とかならない? この天使素体って色々柔らかいけどカテゴリとしては機械デバイスなんでしょ? 修正パッチとかでさぁ」

「んー、不具合なのは確かだと思います。 素体に詳しい天使様もおられますけど、相談してみます?」

「マジで!? じゃあすぐにでも――」


 そこまで口にした所で、言葉が途切れた。


 思い出したのだ。

 スタンダードスキャンの結果を確認後、事態を重く見たリオが、俺に詳細な報告を要求したこと。

 そして、その内容のことを。


「……なあ、リオ」

「なんです?」

「相談ってことはさ……あのレポート、見せるの?」

「そりゃもちろん。 手がかりがあるかもしれません」

「………………」


 ずぅん、と心に重石を吊るされたような感覚。

 自然、両手で頭を抱えて机に突っ伏してしまう。


「ど、どうしたんですか。 何か不都合でも?」

「不都合しかないだろう……」

「え? どの部分です? えーと、ここですか? 『二の腕と同じ感触って聞いたことがあるが、あれは嘘だ。 マシュマロより柔らかかった』」

「ぐはっ!」

「『あんなに一杯出るなんて。 身体が干上がるんじゃないかと思った』?」

「ごふぅっ!」

「『気持ち良すぎてバカになりそうだったので“第二間接”までが限界だった』?」

「うぼぁあああぁあぉあっ!」


 椅子から転げ落ちて悶絶した。


「ご自身の発言でしょうに」

「ひどい! お前が『詳細に』って言うから泣く泣く自供したのに!」

「調査に必要だと思ったんですよー。 まあでも、こんな官能的に白状されるとは思ってませんでした。 誰も求めてませんし」

「おまっ……なんて言い草だ! 第一印象は花丸だったのに、この赤鬼妖精!」

「うわっ、あんな野蛮な奴らに喩えないでくださいよー」

「知るかそんなもん。 鬼っ、悪魔っ、異世界妖精っ!」

「ムムムッ、あんまり侮辱すると、このレポートを拠点のネットワークで全体共有しますよ?」

「ほぁああぁあっ!?」


 全身から血の気が引いた。

 無形の衝撃が胸を抉り、へたり込んだままなのにそのまま崩れ落ちそうになる。


「あっ、いえ、ごめんなさい! 言いません、誰にも言いませんから、そんな生きる希望を失ったみたいな顔しないでください」

「ほ……ホント? ホントに?」

「お約束しますから、元気を出してください。 そのままじゃ天使じゃなくて(しかばね)です」


 リオはおたおたと慌てた様子で頭に取り付き、ポニーテールを撫でてくれた。

 ……心地良い感触だ。 気持ちが楽になってくる。


 きっと売り言葉に買い言葉だったのだろう。 俺も言い方が悪かった。

 そうだ、コイツが真面目でいい奴ということは身をもって知ったばかりではないか。


 この天使素体で目を覚ましてからまだ一日目。

 その一日足らずで言語が習得出来たのは、そりゃあ素体の記憶力が優れていたこともあるが、リオの教え方が上手かったことが大きい。 異文化圏の人間が無理なく理解できるような工夫や気遣いが随所に見られたのだ。

 あの時はまだ初対面。 気疲れもあったはずだ。

 なのに寝落ちしてしまうまで付き合ってくれたのだから、感謝する以外ない。


 ……その横で、ここぞとばかりに淫行に走った天使がいたらしい。


 考えてみると最低だわこの天使。 最低だわ……。

 ようやく自覚するに至り、今頃になって罪悪感が噴き出してきた。


「ごめん。 その、色々と……」


 気まずいものを感じつつ、俺は立ち上がって椅子へと戻った。

 尚も気遣いの言葉をかけてくれるリオの顔が見られない。


「大丈夫ですか? 精神不安定ならおっしゃってください。 出来る限りのことはしますから」

「いや、本当に大丈夫。 ちょっとトラウマが刺激されただけだから」


 溢れ出した涙を拭い、二度も深呼吸すれば元通り。 蘇りかけた昏い記憶にもしっかりと蓋をする。 思考停止だけは生前から持ち越した固有技(ユニーク・スキル)だ。


「話を戻そう。 素体に詳しいその天使様って、美人?」

「質問の意味は図りかねますが、美しい方ではありますね」

「そうか……やっぱり、そうか」


 再び、頭を抱えて懊悩する。

 既に俺の脳内にはハッキリと選択肢が浮かび上がっていた。


 ① TSからのエロ禁という過酷溢れるセカンドライフ。

 ② 「へぇ……君、そんなにオナニーしたいんだ? ふぅん……」


 吐き気を催すような二択である。


 が、俺は断腸の思いで前者を選ぶことにした。

 自発的に後者を選ぶ紳士も少なくなかろうが、俺にとってはただただ辛い。 これほど精神的羞恥に弱いのは、やはりトラウマの影響だろう。 三年かけて克服したと思っていたが、まだ爪痕が残っていたのか。


「本当に、調査しなくていいんですか?」

「……いい。 俺はポニーテールさえあれば生きていける。 そのレポートも削除してくれ」

「わ、分かりました。 その決断を尊重しましょう。 ……ちなみにですが、こだわりのありそうなその髪型に性的嗜好を見出したりしませんよね?」

「見くびるな。 ポニーテールにそんな(よこしま)な感情を抱くわけがなかろう。 これは俺の心象風景だ」

「ぶっちゃけ気持ち悪いです」


 ノータイムで断言されるとさすがに傷つくものがある。

 だがまあ、変に気遣いされるよりはこのくらい気安くしてくれた方が楽だ。


「この話はもう終わろう。 終わりたい。 それよりもっと他に話すべきことがあるんじゃないのか?」


 俺が真面目な面持ちで話題を変えると、リオも影響されてか表情を引き締めた。


「さすがに気になりますか」

「ああ。 もう限界だ」

「分かりました。 ですがもう少しだけお待ちください。 そろそろ代表天使ソル様が到着されるので、直接状況についての説明を――」

「違う違う。 もっと重要な案件があるだろう」

「えっ!? これ以上って、何かありましたっけ?」

「なぜ分からん。 コレだよ、コレ」


 俺は自分の腰部分、白を基調とした短いプリーツスカートをぽんぽんと叩いて見せた。


「カッコいい平服ですよねー。 作った天使様もご満悦でした」

「ハンドメイドかよこの制服。 じゃなくて、中身の方」

「ああ、パンツですか」


 ようやく理解が得られたようだ。


 これがもう一つの問題。

 やんごとなき事情によってぐちゃぐちゃになってしまった一枚は、優しく手洗いして天日干しする必要があるらしく、無慈悲にも取り上げられてしまったのだ。


 さっきっからすっごいスース―してる。


「別にそのままでいいんじゃないですかね? 慣れてるように見えますよ、パンツはいてないの」

「そこまで野性味溢れてないわ。 俺がパンツを脱ぐのは推しレアがピックアップされている期間限定だ」

「面妖な宗派もあったもんですねー」


 順応してきたなこの妖精。


「流さず対応してくれよ。 下着の替えくらい用意してあるだろ」

「残念ながらありません。 あなたの素体稼働はスケジュールになかったこともあって、色々と準備不足なんです」

「カンベンしてくれよ……あるものがないっていうのは凄まじく心細いんだぞ?」

「うーん、四点」

「TSボケましょうみたいな流れにすんな。 というかもう最初に着てたバトルウェアでいいよ。 ノーパンよりマシだ」

「あれはかなり旧式だったので処分しました」

「仕事はえーよ。 なら俺はいつまでノーパン天使でいればいいんだ?」


 我ながらパワーワードだが、当人にとっては迷惑極まりない。


「困りましたねー、追加で作ってもらうにしても、もう時間が……あ、そういえば奉納品に女性用の服があったような」

「奉納品? 罰とか当たりそうだけど、この際何でもいいからとにかく頼むわ。 ギブミーパンティー」

「分かりました。 すぐに持ってきますね」


 言うが早いか、リオは勢いよく部屋を出て行った。

 やっぱり白い自動ドアがカシュッとシャープな音を立てて閉じ、部屋は静寂に包まれる。


 全身が脱力し、「はぁ~」と大変色っぽい溜息が漏れた。

 ……油断するとムラムラするので、必死になって女体から意識を引きはがす。


 せっかく一人になったのだ、今のうちに状況を整理しておきたい。


 まず何より、自身の「死亡」という現実だ。

 受け入れ難い出来事だが、事実であるなら仕方ない。 潔く諦めよう。

 だが何の因果か魂だけは拾われて、今こうして天使素体を稼働させている。


 救済された以上、何かしら対価を要求されるのだろうが「異世界の勇者よ、魔王を倒してくれ」なんてお願いされるような雰囲気ではない。 ずいぶんと科学が発達しているようだし、なぜだか「天使」などと呼ばれている。


 「天使」はさすがに何かの通称だろう。 頭上に輪っかが浮いているわけでも、背中に翼が生えているわけでもないし。 きっと天使的な、救済活動か何かをするのではないか?

 個人的にはその方向で歓迎だ。 ガチの戦争や、人殺しなんか命令された日には泣いて逃げ出す。 感謝も忘れて地の果てまで逃避行だ。 これだけの美少女だし、きっと働き口もあるだろう。

 ……よしよし、方針まで確定。


 それにしても、我ながらずいぶんと冷静なものだ。

 日ごろからアニメやラノベで慣れ親しんだ展開のせいなのか、精神に耐性が出来上がっているらしい。

 いや、俺の場合は記憶が途切れているせいで、自覚が薄いのかもしれない。


 そういえば記憶の件もあった。

 どこでどのように死んだのか、結局思い出せていないのだ。

 そのせいもあってか、投げ出して来てしまったバイトが未だ心に引っかかっている。 事ここに至って気にすることでもないはずだが、どうにも気になる。


 俺は再び記憶を辿るべく、生前のクセで腕を組み……柔らかな感触と触感によって頬が急速加熱された。 慌てて両腕を解いて膝の上に乗せるも、やっぱりこちらもすべすべとして柔らかい。


「一人TSコントかよ……」


 自嘲気味なセルフ突っ込みもひたすら情けなく、赤面を促進させるだけだった。

 こんなんでやっていけるのだろうか? 事態とは無関係に前途多難だけは確定だ。 不安ばかりが加速する。

 そこで再び、カシュッと開く自動ドア。


「持ってきましたよー、ってまたあなたって天使は……」

「誤解だぞ。 別にやましいことなんて考えてない」

「ホントですかぁ~? 怪しいものですが、とにかく持ってきました。 お早くどうぞ」

「悪いな」


 俺はリオの抱えた白い布を受け取り、広げた。

 見た瞬間から嫌な予感はしていたが案の定、ほぼ紐だ。


「Tバックじゃねーか!」

「パンツの種類なんて知りませんてばー。 文句でしたら奉納してきた貴族か商人に言ってください。 ちなみにとても薄地なドレスとセットでした」

「それ絶対……いや、もういい。 これでいい」


 事態の悪化を懸念した俺は、色々なものを諦めて煽情的な下着に足を通すことにした。 両サイドを紐で結ぶほど攻めた構造ではなかったのが不幸中の幸いだろうか。


 ……おい待て、何が幸いだ。

 まずいな、早くも感覚が麻痺してきている。 こうして妥協を続けるうちに、いつしか精神まで女性化してしまうのではないか? 初日からずいぶんと新しい扉を開いてしまったが、そろそろ打ち止めにして欲しいものだ。


 俺はうんざりとしながら紐と見紛う下着を膝上まで持っていき……不意にヒップへと突き刺さるような視線を感じ取って手を止めた。


「……ガン見しないで欲しいわけだが」

「お気になさらず。 目を離すと寿命縮めそうな天使様を温かく見守っているだけです」


 どうやら俺の性的信用は地に落ちたらしい。 前科持ちはつらいよ。

 しかしながら、色々とぶっちゃけてしまったコイツを相手に恥ずかしがるのも、いい加減アホらしい。


「なあ、どうせ見てるなら教えて欲しいんだけど、スカートのままパンツはくのってコツあるの? 両手使うから巻き込んじゃうんだけど」

「子供ですかあなたは。 仕方ないですねー、今回だけですよー?」


 言って浮上したリオは、後ろから思いっきりスカートを持ち上げた。

 脅威の解放感に心が乱れる。


「ちょっ、持ち上げすぎだって!」

「いいから早くはいてください」

「焦らすな。 少し心の準備をだな……」



 ――今にして思えば、俺も悪かったのだろう。

 リオははっきりと言っていたではないか。

 「代表天使が来る」と。


 カシュッ。


 シャープな開閉音が無慈悲に響き、全身が硬直した。

 この瞬間、俺はまだパンティーを上げ切っていなかったはずだ。


「すまん、少し遅れ――」

「#〆&*※@”>$~~~~~~~~っ!!」


 耳に届いた男の声にひどく動揺していたこともあり、何やら黄色い悲鳴を上げてしまった気がするが…………忘れることにする。

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