改めて
――手を伸ばした。
滑稽だと笑いながら、なんて愚かなことをしてしまったのだろうと下唇を噛みしめながら、それでもまだ――償うことは出来るだろう。
もう手遅れだといって諦めたくはなかった。
相手が僕を嫌がろうと、もうそばに置いておくしかないと思った。
絶対の支配者である自分の権力の傘下に入れておかなければ、自分の命に反対を唱える者――今回のことを引き起こした大人たちによって女の命は確実に奪われ、その子である『鬼』は僕の前に無理やり引きずり出される。
そうなれば僕だって止められないだろう。
やむを得ず、その身を引き裂くことになる。
本当はひっそり親子二人で暮らしたいだろうが、ここは致し方あるまい。
桃宮に連れ帰ろう。
玖珂の土地に残してはいけない。
死んでいった者たちは後でちゃんと埋葬することを約束して、ここはともに帰ってもらおう。
だが、果たして、目の前でこの桃宮に家族親戚を無残に殺害された様をしっかりと見ていた女が、子供を連れて一緒に仇である桃宮に来てくれるか…――。
「僕と一緒に来ないか?安心しろ。それ以上、無駄な殺生はしないと約束する。その子の命も脅かさない。だから、僕と――」
手を差し出したら、女は嫌悪の目を一瞬弱め、唖然とした表情で僕を見上げた。
そして、膝をかがめた僕を呆然としたうつろな瞳で凝視して、やがてためらいがちに数回開閉を繰り返したその唇はゆっくりと言葉を紡いだ。
「……それで貴方様に、一体何の思惑があるというのでしょうか――」
はっと虚を突かれた気がした。
女の震える唇からその言葉が放たれた瞬間、僕の心を億千の研ぎ澄まされた鋭い針が貫いていった。
たったそれだけの言葉にどんな意味が、どれほどの痛みが隠されているのだろうか――そう思うと。
そのとき、改めて自分のしたことの罪の重さを知らされた――。
どこかで、そう簡単に罪は償えないのだと言うねっとりとした嫌な声が聞こえてきて僕の中でこだました。
償いというものは所詮犯したものの自己満足に過ぎず、被害にあったほうはもう出来るなら近づいて欲しくないのだ。
何も変わってなどいないし、何も戻ってはこないから――。
多分、この人もそうなんだろうな……。