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謝罪

 クラスメイトを混乱の渦中に置き去りにして教室を抜け出した後、鬱陶しくついて回ってきた奈津を八津が不意を突いて気絶させ、廊下に放置してきた。


 そして、八津と京也は学校自体を抜け出して近くの公園にやってきていた。


 四月も半ば過ぎたとはいえ、完全には冬を吹っ切れていないのか、まだ冬を抜けたばかりのようなやや冷たい風が京也の長い髪を翻していく。


 花冷えだろうか…京也はぼんやりとそう思いながら、一メートルほど間の空けたところに佇む八津を振り返った。


 その八津はといえば自分と二人きりになってから、

 

 「京也…あの、その…えーと」


 「なんだ。何か言いたいならはっきりと言え」


 たじたじと、上目遣いでちらちら見やってくる八津のはっきりとしないその態度に京也は苛立たしげに目を眇めさた。


 はっきりとしないこともはっきりとしない奴も大嫌いな京也の性格をよく知る八津がそれを知っている上で言い渋り、彼女を苛々させてまで言いにくいこととは一体なんなのだろうか。


 京也は目こそ眇めさせたものの声には苛立ちをださなかった。


 八津は意を決したように京也を真正面から見据え、切り出した。


 「その…あの時はごめん!僕の力が足りなかったせいで…」


 「あの時って…いつのことだ、それは」


 京也は間抜けしたように目を瞬かせると、自分を真っ直ぐと不安げに見る八津に聞き返した。


 はて…やけに深刻な顔をしていると思えば――あの時っていつの話だろうか。


 京也は思わず首を傾げてしまう。


 一体この人はなんに対して謝っているのだろう――そんな思いつめたような顔をして。


 すると、八津はふいっと、京也から視線をはずし俯いてしまった。


 手元を見ると握り締めた拳がカタカタと揺れていて、何かよほどのことを自分にしでかしただろうことがそれとなくうかがい知れたのだが、生憎とひどい仕打ちをされた覚えもなく、また、されて憶えていないなどというほど記憶力が悪いわけでもない。


 「お前、私に何かひどいことでもしたのか?…記憶に無いが」


 「記憶に…無い…?」


 八津が愕然とした顔で京也を見つめた。


 京也は黙って頷く――何もないのでは?と。


 「いや…でもだって、京也は僕のせいで…僕の代わりに殺されちゃったんだよ…!そのことを憶えてないの…?」


 「殺された?お前のせいで?……あーそういえば、あった。それか…あの時の事か、お前が謝ってたのって」


 「そういえばって…京也、気にしてないの?!あんな目にあったのに?!」


 「お前にされたことじゃないしな…人生が終わったきっかけだったけど、特に引っかからなかったよ。お前を悲しませるのは嫌だったが、鬼としての人生が終わったなってむしろ解放されたって感じだった。意識がはっきりとしていたせいで痛みの恐怖はあったけど」


 そう言って達観しているのか――もはや済んだ過去のことで気にしていないのか、京也はからからと明るく笑った。


 「京也…」


 八津はそう言って笑う彼女の姿を見ているのがたまらなくなって、抱きしめた。


 一見本人の言うとおり気にしていなさそうに見えるが、そのことについて実際全く何も思わなかったわけではないはずだ。 


 解放されたようだったと、彼女は言ったが、それでも死への恐怖はあっただろう。


 絶望を感じていたのかもしれない。


 自分に関わったばかりにこの人は――…。


 何度も傷付いた。


 無言で抱きこんでくる八津に京也は初めは呆気に取られたが、やがて赤い目を優しく細めてふわりと腕を背に回し、同じように抱きしめた。


 安心させるように優しく優しく…その人へ自分の気持ちが伝わるように思いをこめてやんわりと腕に力を入れた。


 「八津…自分をもう責めるな。私はここにいる。今をお前と生きている。お前と出会えて不幸だったことは一度もないぞ。むしろあの頃の私にはお前だけが唯一の光だった。生きる理由だった…それなしで生きていくにはとても辛かった」


 「…僕も君と出会えてよかった」


 『私が言っても責めるのをやめるとは言わないんだな、お前は――…』


 ポツリとした悲しげな呟きは聞かなかったことにしよう。


 出来ない約束はしないってもう決めたから。


 そのせいで傷付くのが自分じゃなくて、大切な人だった。


 自分のしたことに心を痛めるのは僕で、それを見てまた彼女も心を痛めていることを知っているけれど、守れそうにないものはしない。


 裏切りはしない…。

 

 「今度こそ護ってみせる」


 そのためには奈津の持つ情報――第三の方法を手に入れなくては――…。















 「……ところで京也はどうして男子制服着てるの?」


 「…お前は知らなくていいことだ。」


 「?」


 「………」


 お前を少しでも近くに感じたくて学校に入るのに同じものを着てたかっただなんて口が裂けても言えるか…馬鹿――。


 

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