初対面
「うわ、すげー。八津だ――!」
「ん?」
久しぶりに幻聴でも聞いたのかと思いながらも、呼ばれた少年は振り返った。
そして――。
「あ。」
ひどく見覚えがあるような顔に軽く目を瞠ると、自分を呼んだ少年は笑顔に顔を輝かせ、駆け寄ってきた。
「久しぶりじゃねぇーか、八津。相変わらずな面して、元気そうだな」
ぽんぽんと肩を叩いてくる少年に対し、八津は不快に顔を顰めた。
だが、八津のあからさまなその態度に少年は気づかないのか、それとも気にしてないのか。
「まぁ、元気…だけど。って、お前名前は?」
すると、先程まで大変にこやかだったその少年は驚いたような顔を作った。
別におかしなことは訊いていないはずだ。
初対面なのだから、まず、名前を聞くのは普通だろう。
「……お前、記憶ない、のか?」
「は?記憶がないも何も…――。初対面なんだから、僕がお前の名前知ってるわけないだろーが」
正論――世界共通の常識を述べると、少年は体を数歩後ろにひいてその場を取り繕うような笑みを浮かべた。
「あ、あの名前は?」
「だから、いま僕が訊いてるんだろ。何オウム返ししてんだよ」
呆れたとため息をつくと、少年は数回目を瞬かせた。
「ん〜。記憶ないっていうか、別人なのか?――いやでも、こいつの纏う雰囲気はたしかに八津のもの。じゃあ、やっぱりこいつはただの記憶なし?」
ぶつぶつとなにやらつぶやき始めた少年を一瞥して、八津は口を開いた。
どうやら言い方が悪かったらしい。なにか目の前の少年にいらぬ誤解をさせていまいか。
「あのな、なにか誤解してないか?玖珂魅」
「…え。お前、記憶あるじゃねーか!!俺を騙そうとしたのかっ!」
「ちがうって。それに僕は記憶がないとか一言も言ってないから!」
「あー。お前の言ってること意味分からん。初対面とか言ってたくせに」
「初対面だろ!この世界で会ったのは今日が初めてだろ!だから、僕は間違ってない。うん」
ニコニコと自分を褒めだした八津の言葉を頭で幾度か反芻した玖珂魅はあっさりと、そうだなと納得した。
「でも、じゃあなんで俺の名前訊いたんだ?」
『この世界で初めて会ったんだから』にはあさっりと納得した玖珂魅だが、このことに関しては全く意味が分からないと、首を傾げる。
「あーね…。僕は現世名も八津だけど、皆が皆同じって訳ないだろって思ってね。だから、訊いたんだけど――お前、いまの名前は?」
「玖珂魅。現世も前世と同じ玖珂魅の名前だ。多分他の奴等も前世同様、同姓同名…なんじゃねーか?…名字はわかんないけどな」
「ふぅ〜ん…。玖珂魅はもう、誰かと会った?」
「いや、まだ誰とも。俺たちがいるんだから、あいつもいるんだろーなぁ。……怪我してないといいけどな」
「無理だよ。あの人すごくドジだから。あそこまでいくと、もう一種の才能だよな」
「んー…。そうだな、あれは才能だな」
あははは…と、ふたりは笑ったあと、どっぷりといった…重いため息を吐き出したのだった。
ほんと、怪我してないといいけどな。
――無理な話か…。