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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第一部 ゴッキー先生との出会い編
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第五話 魔剣オークVSゴキブリ男

 ぐったりと黒光りする腕に身を擡げる狐耳少女。完全に気絶し眠ったようなその顔は、少なくともヒカルがこれまで出会ったどんな女の子よりも可愛らしい。


 その上頭に狐の耳まで備わっているのだ。改めてこの世界がファンタジーである事を理解した。


 とは言え――確かにアレに追われてた時はどうせなら獣耳の女の子がいいとはいったヒカルだが、まさかこんな形で出会い、そしてすぐ悲鳴を上げて気絶されるとは、今の姿がゴキブリのソレであることは判っているがそれでも中々のショックである。


 だが、今はあまり悠長な事を考えている場合ではない。何せさっきの悲鳴で気づいたらしいオークが、ブヒッ、ブヒッ、と耳障りな鼻息を立てながらその距離を詰めてきているのだ。


 ヒカルは一旦少女を地面に寝かせ、そしてゆっくりと立ち上がり化け物を振り返った。


 オークは見る限り完全にやる気だ。話し合いで解決できる雰囲気が微塵もない。


 そして――やはり目につくオークの剣。気のせいか先程よりも更に禍々しい色を辺りに滲ませている気がした。


『もしかしてあれがヒカルのいってたオークかい?』


 頭に響くゴッキー先生の声。ヒカルはそうです、と口にする。


『そうか、ただヒカルわざわざ口にしなくても大丈夫だぞ。我々は念じるだけで会話が出来る』


 そうなんですか? とヒカルが心の声で話しかけると、あぁしっかり聞こえてるよ、と返事があった。


『それにしても魔剣を持ったオークなんて珍しいな』

 

 ゴッキーの声に、え? と疑問を念にし、

「魔剣ってなんか凄そうですけど、よく判りますね」

と問うようにいう。


『ヒカルにだって今の状態なら判るのではないか? あの禍々しいオーラは呪われた魔剣特有のものだ』


 その説明で理解した。あの剣から滲み空気さえも侵食していそうな黒い霞。触覚に伝わる不気味さ、それこそが先生のいうオーラなのだろう。


そんな禍々しいオーラを触覚に感じながら、ヒカルはオークを見据え彼我の距離を測る。


 触覚で推し量るに十メートルの間隔。しかしオークにはあの不気味な剣がある。

 一度目にした時は偶然にも助かったが、一振りで離れた群生を吹き飛ばすほどの威力を持っている。


 あんなものを無闇矢鱈に振り回されては、折角少女を助けたのに危害が及んでしまい意味が無い。


 ならば――と、オークの視界からヒカルが消え失せた。

 化け物の目が僅かに見開く。


 その豚の横っ面を土塊が叩いた。ヒカルが投げつけたものである。

 するとオークは、ブヒッ!? と一鳴きし、衝撃のあった方へ身体を向ける。


 良かった判りやすい相手で、とヒカルは安堵する。

 オークはブヒッブヒッ! と鼻息あらくまた顔も若干赤味を増している。

 頭に血が上っているのかもしれないが、そのおかげで意識は完全にヒカルに向いた。


『なんだお前? 今のコイツでも視認できないってどんだけだ~?』


 ふとそんな声がオークの方から聞こえてきた。だがオークが喋っているようにも思えずヒカルが首を傾げる。


『これはあの魔剣が話してる声だよ。話してるといっても私と同じように思念でだがな。だがかなり強いな、あれなら多分誰にでも聞こえているだろう』


 剣が口を利くとは! とヒカルが一瞬驚くも、よく考えて見ればゴキブリでさえ人語を話すのだ。

 ならば魔剣が喋ってもおかしくないか、と気を取り直しオークに意識を移したその時――ブフォオオォオ! という荒声を吐き出しながら、オークがヒカルへと突撃してくる。


 その勢いたるやまるで野生の猪が如く、思わぬ行動にヒカルも一瞬判断が遅れ相手の接近を許してしまった。


『てめぇが何者かはしらねぇが、接近してしまえばこっちのもんだ! このナルムンク様の力を舐めるなよ!』


 魔剣の言葉に触発されるようにオークが右手の剣を上げ、殺意の篭った視線をヒカルに向ける。


 それにヤバい! と慌てるヒカルであったが――


『大丈夫だ、自分を信じろ。今のお前なら絶対にこの程度の相手には負けない』


 先生の声が脳に響き、同時にオークの剣戟が勢い良く振り下ろされる。


 耳に残る破壊音、木々の崩れ落ちる音。其々の重なりあう音がオークの持つ魔剣の恐るべき威力を物語っている。


 だが、ヒカルはその攻撃を避けていた。しかも己の反応とは関係なくほぼ無意識でだ。


「ブォ!」


 避けられたことに若干の焦りを滲ませるオーク。だがそこで諦めることなく振り下ろした刃を今度は斜めに払う! だがそれも当たらない、更にオークはむきになって剣を振り回すが、ヒカルはその一撃一撃が振られたその瞬間に反射的に身を反らし、翻し、屈み、振り、全ての攻撃をひらりひらりと躱していく。


(これは一体……)


『驚いてるようだな。でも言っただろ? ヒカルがその姿である限り相手の攻撃はあたらない。ゴキブリの触覚による感覚の鋭さでな』


 ゴッキー先生が得意気に語る。そう――触覚……その中でも特に重要な器官である尾角、圧力を感知できるこの機能によってゴキブリは差し迫った危機に即座に対応することが出来る。

 その能力たるや尾角で攻撃を感じ取った瞬間、僅か〇.〇四五秒で脳を通さず敏速な脚の動作へと繋がる。


 そして今ヒカルには、何万というゴキブリが形状を変化させる形で全身を覆っている。

 この状態は全身が尾角に包まれている状態といっても過言ではない。

 

 しかもこの異世界のゴキブリは殺気さえも感じ取って、全身に危険信号を届ける。

 そして相手の攻撃に合わせた最適な回避行動を直接身体で、しかも瞬刻にして最高速で行うのである。


(本当に凄いなこれ……)

 

 そんな悠長な事を考えながらも、次々とオークが繰り出す連撃を危なげなく回避しつづけている。

 これも脳と身体の動きが完全に分離されていればこその芸当だ。


『くそ! 当たらねぇ! なんでだ!』


 魔剣の苛ついた声が耳に届く。オークは見ていて半ばヤケ気味に得物を振り回してるようにも見える始末だ。


『ヒカル、いい加減避け続けていても意味がない。そろそろ決めてしまえ』


 ゴッキー先生の声に一つ頷き、そして再びヒカルの姿がオークの視界から消え失せた。


「でも先生、倒すと言ってもどうしたら? 俺武器なんてもってませんよ?」


 ヒカルがつい口にした言葉でオークが振り返る。その黒光りした身体は、瞬時にオークの脇を抜け反対側で樹木を背に佇んでいた。その間隔は凡そ四〇メートル。


『イメージだよヒカル。例えばその右腕をそのまま武器へと変えるようなね。仲間たちはきっとそれに答えてくれるはずだよ』


 右手を? とヒカルは意識を集中させ脳裏で己が扱う武器を想像する。


 すると瞬時に腕に纏われたゴキブリ達が蠢きだしその形状を変化させ――ヒカルの思い描いた武器を具現化させた。


「おお! すげぇ!」

 

 思わず興奮し声を張り上げる。その腕に宿りしは漆黒の刃。片刃のそれは腕がそのまま刀になったような形である。

 見た目の豪快さでいくと大太刀といったところかもしれない。

 その長大さは己の身長に達するほどでもある。


 そしてヒカルはその黒太刀で地面を軽く撫でた。切れ味を確かめるつもりだったのかもしれないが、その太刀筋は決して常人には捉えきれないであろうものであった。


 ズバッ! という快音が響く――が特に地面には変化がなかった。

 確かに切ったはずなのにと首を傾げたが、触覚から伝わる感覚で理解が出来た。


 ようはその太刀と斬撃があまりに鋭く、故に切断面がまるで目立たないのである。


 あまりに見事な切れ味。ゴキブリから出来てるとは思えない光沢を帯びた漆黒の刃。

 銘を付けるなら蜚丸とでも付ける事になるだろうか等とふと思い自虐的な笑みを浮かべる。


 しかし――これであれば間違いない、とヒカルは漲る自信を胸に、オークに意識を戻した。

 その視界に映るオークからは先程までの積極性が感じられなくなっている。


 どうやら今のヒカルのあまりに化け物じみた力に恐れを抱きだしてるようだ。


『おいてめぇ! びびってんじゃねぇぞ! この魔剣の力があるんだ! あんな黒光り野郎に――』


 魔剣が怒りに任せて怒鳴る、と同時に、スパァアァアアァアン! という気持ちのいい音が、空間に広がった――


 直後、あ――斬っちゃった……、という間の抜けた声。

 既にヒカルはオークの脇を抜け、逆側の位置で佇んでいる。


 そして、

『何?』

という魔剣の疑問が発せられ――ズリュリ、とオークの上半身がずれ、そして魔剣ナルムンクを手にしたままその上半分が地面へと転がり落ちた。




 

 


 

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