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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
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第一九話 欲望と支配

「……どういうつもりだ?」


 サルーサの腕を締め上げながら、ヒカルが赤褐色の男を威圧した。

 手に持たれたナイフはレオニーに当たる寸前で止められている。


 そして、目の前にナイフの尖端を突きつけられたレオニーは、へなへなと床に座り込み。


「ふ、ふぇ、ふぇ~~ん」


 ボロボロと泣き出してしまった。

 

「レオニーちゃん!」

 

 するとフォキュアが駆け寄り、彼女を抱き寄せ頭を撫で宥める。

 そして、キッ! と射るような瞳で、サルーサを睨みつけた。


「サルーサ! 一体どういうつもりよ! こんな小さな子にそんなもの振りかざして!」


 激昂するフォキュアに眉を顰め、サルーサが口を開いた。


「おいおい、何を怒ってるんだよフォキュア。こんなの本気なわけないだろ? ちょっと躾のなってないガキを脅かしただけさ」


 脅かしただって? とヒカルが怪訝に眉を顰める。

 ヒカルには判っていた。今の行動が脅しでもなんでもない事を。

 サルーサの一撃は本気だった。間違いない。もしヒカルが押さえつけなければ、刃はレオニーの愛らしい顔に風穴をあけていたことだろう。

 

 実際刃が止まったのも紙一重の位置であった。数ミリ動かせばレオニーに届く距離だ。

 そして、だからこそレオニーは怖くなって涙したのだ。

 そうでなければ、いくら幼いといっても金獅族の彼女がこの程度で泣くわけがない。

 

「さ、サルーサさん! 今のはいくらなんでもやり過ぎです! もしレオニーちゃんが怪我でもしていたらどうする気だったんですか!」


 そして、これには流石のバストも容認できなかったようで、責めるような口調で怒鳴りあげた。


 だが、サルーサはバストの事など気にもとめず、ヒカルを睨めつけ、いい加減に放せよ、と悪びれもなく言いのける。


「……フォキュア。レオニーを連れて離れてくれ」


「え?」

と怪訝そうに口にするフォキュア。その胸の中で、ママぁ、ママぁ、とぐずり続けるレオニー。

 

「……手を放して、もしものことがあったら困る」


「おいおい、馬鹿言うなよ。冗談だっていってんだろが。そんな事するわけがないだろ? いいから放せって」

 

 しかしヒカルは腕の力を強める一方で、外そうとは決してしない。

 そして、ただならぬ様子を察し、フォキュアはレオニーを抱き上げ、ヒカルとサルーサのふたりから距離をとった。


「……これから腕を放すが、変な真似をしたら――」


 容赦はしない、とそこだけは声を顰め。しかし、ありったけの殺気を込めてサルーサに警告する。

 すると彼は肩を竦め。


「全く、随分と肝っ玉の小さな男だ。少しビビり過ぎじゃねぇか?」


 なおも挑発の言葉をぶつけてきた。


(こいつ、一体どうしちまったんだ?)


 ヒカルは怪訝に思いながらも、ようやくサルーサの腕から手を放した。

 すると、褐色の彼はナイフを振り上げ――ヒカルも思わず身構えるが。


「……どうにも俺は随分と嫌われちまったみたいだし、帰るぜ」


 ナイフを脇のベルトに戻し、踵を返しギルドを後にした。


「サルーサの奴……一体どうしちゃったのよ……」

「サルーサさん……」

「パパぁ……」


 怪訝な顔を見せるフォキュアに心配そうに呟くバスト。

 そして、ヒカルに駆け寄りキュッと抱きついてくるレオニー。

 そんな三者三様の姿とサルーサの変わりように戸惑うヒカルなのであった。






◇◆◇


 勇義士ギルドを出て直ぐ様サルーサは跳躍し、屋根伝いに移動し、人気のないところに降り立った。


 はぁ、はぁ、と荒ぶる息を抑え。

 そして――


「一体誰だこらぁ! 出てきやがれーーーー!」


 目に見えない誰かに向けて叫びあげた。

 すると――


『ククッ、そんなに大声出さなくても聞こえてるさ』


 それはサルーサの口から発せられたものだが――その表情は今までのサルーサのソレとは違いすぎており、声すら低く殺気めいたものに変化している。


「くっ、くそ! やっぱり俺の身体を勝手に……勝手に利用しやがってるのかーー!」


 再びサルーサに戻り声を上げる。

 だが、直ぐ様表情が代わり。


『そう喚くな。第一俺様はお前の為を思ってやってやってるんだぞ?』

「俺の、為だと?」

『そうだ。お前はあのフォキュアという娘が好きなのだろ? だったら俺に任せろ。俺の力があればあんな女の一人や二人、お前の望むようにさせてやるよ。だから俺様を、受け入れろ!』


 ふざけるな! と更に叫ぶサルーサ。

 だが、サルーサの中にいるソレは諦める事なく、いや、寧ろこれをチャンスとさえ思っているようであり。


『サルーサ。お前は本当に今のままでいいのか? さっきだって見ただろ。あんなヒカルとかいう野郎に好き勝手されて悔しくないのか?』


「ヒカ、ル……」


 中のソレが思った通り、サルーサはヒカルに対するこだわりが相当に強い。


『そうだ、ヒカルだ。このままじゃお前は絶対にヒカルには勝てない。何せあいつは、あいつはなサルーサ――』


 そして、中のソレが話して聞かせた真実に、サルーサは驚愕し。


「あいつが……あいつが黒い悪魔、だ、と?」


『そうだ。そして俺は奴と一度戦ったからよくわかる。今のままのお前じゃ絶対に勝てない。しかし俺と組めば別だ。俺の力があれば、二度目は、ない! さぁ、俺を、受け入れろ!』


 グッ! と額を押さえ呻くサルーサ。

 だが、決して心は折れてなるものか、と堪え、フラフラになりながらもどこかへと歩き出す。


(全く強情な事だな)


 その様子を内側から眺めていたグリーディルが呟いた。

 そう、サルーサの中にいるのは、以前ヒカルが倒したハーデルが持っていた魔斧の化身。

 以前サルーサが残された魔斧の欠片で指を切った時、サルーサの中に入りこんだのである。


 そして、グリーディルは既にサルーサの身体にかなり侵食しており――それでも自分の意識を失わないサルーサには正直言うとグリーディルも少々驚いていた。


 だが――


「いたぞサルーサ! やっと見つけたぞ!」

 

 身体を引きずるように歩くサルーサにぶつけられた声。

 誰かと彼が振り返ると、そこには以前ギルドで紹介してもらった、ここチャンバーネで騎士団長を務める、ガラムドの姿があった。






◇◆◇


「さぁ! お前が本当にあのハーデルとかいう男を倒したというなら証明してもらおう!」


 ガラムドに連れられ、サルーサは騎士が普段訓練に使う広場まで来ていた。

 彼が言うには、ハーデルを倒したのがサルーサだという事はまったくもって信用ができないという事であり。


 つまりはサルーサが狂言を吐いていると思っているわけである。

 尤も、これはあながち間違ってもいないのだが――


「いいか? この鎧と中の藁人形は、お前が倒したというハーデルを想定して用意したものだ」


 ふふん、とどこか得意気に語り。


「そしてここからが重要だ。我らは改めてハーデルの遺体を確認しにいったのだが、奴の身体は何かによって無数に穿かれていた。しかし調査によるとサルーサ、貴様の武器はその脇に装着されているナイフのみ。これではどう考えてもこの傷はつかないのだ! つまり我々は貴様が口からでまかせを言っていると踏んでいる! それが違うというなら、実際の遺体についていたのと同じようにやって証明してみせろ!」


 ガラムドの命令口調の言葉に、サルーサは戸惑いに眉を顰めた。

 何せ彼は本当はハーデルを倒してはいない。それをやったのは別の人間、勝手に中に入り込んでしまったモノの話が本当なら、黒い悪魔の正体であるヒカルだ。


「どうした? やはり出来ないのだな! ほら見ろ貴様など所詮――」


 だが、その瞬間だった、ガラムドの視界からサルーサが消え、かと思えば用意していた鎧が中の人形ごと粉微塵に切り刻まれた。


 サルーサの両手にはそれぞれ愛用のナイフ。

 そして、ゆらゆらと揺れ動きながら振り返り、ガラムドとその周囲に控えている兵をまとめてその視界に収める。


「……こ、これは、こんな馬鹿な、一体、な、何が……いや、しかし駄目だ! 認めんぞ! 私はあの遺体と同じように出来るかと言ったのだ! バラバラにしろなどと言ってはいない!」


「いや、というか……」

「これって十分凄いのでは?」

「てか、人間業じゃねぇ……」


 兵士たちから口々に囁かれるは驚愕だったり不安だったり、様々な感情の入り混じった言葉。

 そして――


「俺がハーデルを殺した証明? そんなの無理に決まってんだろが。何せ、そもそもやられたのが俺なんだからな」


「は? 何を言っているのだきさ――」


 刹那――ガラムドの頭が宙を舞った。


「え?」

「ひっ、ひぃ! き、貴様何を!」

「お前! 気でも狂ったの、ギャア!」


 狼狽する兵士達を他所に、サルーサはナイフを振ると同時に風の刃を発生させ、残った兵士たちの身もバラバラに切り刻んでいく。


「カカカァアアァアア! よえぇ! 弱すぎるぞテメェら!」


 そして遂には、兵士の暮らす宿舎にまで乗り込み暴れ回り、騎士も含めた数十名を惨殺した。


「……嘘、だ、ろ――」

 

 死屍累々の中心に立ち、サルーサが両目を見開き呟いた。

 その表情に浮かぶは後悔の念。

 だが、彼の中身が構わず言った。


『一々こんな事でめげてんじゃねぇよ』

「ふ、ふざけるな! てめぇの、全てテメェのせいだろうが!!

『それは違うな。俺が寄生したのは確かだが、そもそも俺が成長する為の糧は寄生した奴の負の感情だ。俺はお前の願望を忠実に再現してるだけだぜ。お前だって判ってんだろ? 本当はあの時だっててめぇはガラムドを殺してやりたいと、そう思っていたはずだ。勿論その部下も纏めてな』


「俺が、殺したい、と?」


『そうだ。いい加減素直になれ。今だってお前は思ってるだろ。ヒカルをフォキュアから引き剥がしたい。始末したい、とな。お前の願い、俺なら叶えることが出来る。さぁ、受け入れろ、俺を! でないと貴様はあの化け物には勝てない! いいのか? てめぇの大事なフォキュアがあの化け物に蹂躙されてもよ!』


「う、うぉおおおおおおぉおおお!」







「……くくっ、そうだそれでいい。てめぇは中でおとなしくしてろ」


 サルーサの心を精神の深淵に追いやり、グリーディルはニヤリと口角を吊り上げた。


「さて、これからどうするかな。取り敢えず適当に――」


『グリーディル聞こえるか?』


(!? この声! カース様か!)

『そうだ。久しぶりだな。ふむ、どうやら思いの外、面白いことになってるみたいだな。そこまで肉体を乗っ取ることが出来るとはね』


(あぁ、しかもかなり具合がいい。これはなかなかいい依代だぜ)

『それは良かった。ならばこれからの話だ。私たちは日が落ちると同時にその街に攻め込む。お前はもう一人の仲間と協力して内側から――破壊しろ』


(……へへっ、それは丁度いいな。少し暴れたりないと思ってたんだ。それで仲間ってのは?)


『あぁ、それは――』

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