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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
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第一八話 不穏の陰

「本当にありがとうございました。原因がわかりほっとしております」


「いえ、ただ、今も話したように根本的な解決にはまだ至っておりませんのでお気をつけ下さい。一応瘴気溜まりとなれば、除瘴魔術師が派遣されるまでは騎士なり勇義士なりが付き、森を封鎖することになるとは思いますが」


 ヒカル達は、ウルフェンの討伐が完了し、村に戻り事の顛末を村長に報告した。

 村長からは随分とお礼を述べられたが、フォキュアの話している通り、まだ完全に解決しているわけではない。


「それは問題ありません。好き好んであの森に入るものはおりませんから……それでは完了の証明をお渡し致しますね」

 

 そういって村長は家屋から色のついた板をもって戻ってきた。

 紙がまだまだ貴重な為、こういった物が利用されるらしい。

 そういえばギルドでも、依頼は板に刻まれていたものが掲示板に掛けられていた。


 そして、依頼完了の証明を貰った後は、フォキュアを先頭に三人で急いでチャンバーネに戻ることにする……






◇◆◇


「最近このあたりで、この少女を見かけませんでしたか? 実は私が引取り育てていた養女なのですが――」


 ヒカル、フォキュア、レオニーの三人が村を離れて暫くした後、貴族然といった出で立ちの男がやってきて村長に尋ねた。


 男は貴重な羊皮紙に探している養女の肖像画を描き持ち歩いていた。

 話によると、旅の途中でいつのまにかいなくなってしまい、探して回ってるらしい。

 盗賊に襲われでもしたら大変なので、勇義士ギルドに依頼し捜索してもらっているとも言っている。


「ああ! この子なら知ってますよ。なるほどなるほど。確かに勇義士の男女が連れて歩いてました。少女の方は可愛らしい黄狐族の娘でしたな。夫婦ではないといってましたし、きっと依頼を請けて探してくれてたのかもしれませんね」


「ほう! いやそれは僥倖。いや、もしやと嫌な予感ばかりが頭をよぎり眠れない日が続きましたが、そうですか無事でしたか……」


「はい、随分と懐いているようで、ふたりの事をパパやママ等とも呼んでましたよ。全くあのぐらいの年頃の子供は無邪気で可愛いですな」


 村長が親切に答えると、男はにこにこと人の良さそうな笑顔を浮かべ、

「それでふたりはどこへ?」

と尋ねる。


「チャンバーネの街からきた勇義士の方ですから、既に戻っているとは思いますよ。別の依頼を私どもからお願いしていて、その依頼が終わったところですから」


「はは~なるほどなるほど。いや、助かりました。本当にありがとうございます。これは少ないですが……」


 言って男は村長にお礼の金貨を数枚手渡した。

 こんなに!? と村長は驚いたが、お気になさらずと告げ、村を出て控えさせておいた馬車に乗り込む。


「どうでしたかボス?」

「そのボスはやめろ。表向きは善良な貴族で通しているんだ」

「へへっ、裏で非合法な奴隷を取り扱っているボスとは思えない言葉ですなぁ」


 ふん、と、男はさっきまでの笑顔から一変。いかにもといった悪人面で言う。


「居場所は判った。チャンバーネに向かえ。勇義士の男女が連れて歩いてるらしい。若い男女で一匹(・・)は黄狐族の雌だそうだ」


 男の言葉に部下の一人が嫌らしく口端を吊り上げる。

 馬車は男が口にすると同時に出発し、ガタガタと揺れる馬車の中で、更に部下が続ける。


「それにしても、ボスの手に入れるはずだった金獅族を連れ去るなんていい度胸してやがりますね」

「へ、へへっ、黄狐族の雌ってのは、いい女だったら味見してもいいですかいボス?」


「状態次第だ。生娘なら高く売れるから本番は駄目だぞ」


 チェッと残念がる部下の一人。


「男の方はどうするんですかい?」

「男に用はない、殺せ。まぁ見せしめのために拷問して首だけギルドに送りつけるのもいいかもしれないがな」


 くくっ、と含み笑いを見せるボス。

 今の彼の表情は醜悪そのものであるが。


 その時――突如馬車が急停止した。


「なんだ! 何事だ!」

「はいボス! おかしな奴がふたり、馬車の前を塞ぎました」


 ふたりだと? とボスは一考し。


「それは男女のふたりか? 他に例の金獅族の姿はあるか?」


 村長の言葉を思い出し、念のため確認する。


「いや、それが黒い外套に包まれていて男か女かは判別が付きません」


 どうしやすか? と部下の一人が尋ねた。

 どうするとは、そのふたりを始末するか? といった含みがあるようだが。


「……取り合えず捕まえろ。何か知ってる連中かもしれない」


 車内からボスが命じると、何人かが、了解、と応じた。

 彼の乗る馬車の周囲は、馬に乗った護衛にも守られてる。

 その数は五人。決して多くはないが、誰もがボス自らが選んだ腕利き揃いだ。

 中には元上級勇義士の甲だった猛者もいる。


(ま、すぐに終わるだろう)

 

 そんな事を思いつつ、車内の革製の椅子に凭れ掛かる。

 すると間もなくして、剣戟の男がそれぞれの耳に届くが、それも一〇秒と経たない内に収まった。


「早かったな。まぁ当然か」


「俺達が出るまでもなかったな」

「当然だ。我々が出る事なんてそうそうあるものじゃない」


 ちなみにこのふたりは、実力だけなら特級勇義士と同レベルである。

 

 だが――


「……なんだ? やけに静かだな?」

「へい、おい! どうした! 終わったんだろ! だったらちゃんと報告しろや!」


 部下の一人が声を張り上げるが――それでも返事はなかった。


「おいおい、どうしちまったんだ? チッ、仕方ねぇなちょっと様子を見に……」

 

 一人の部下がそういって小剣を抜き、片割れは愛用のハチェットを腰から取り出し身構える。

 その時だった。

 コンコンっ、と馬車の扉を叩く音。


「チッ、何やってたんだか。おい! てめぇら何ちんたらしてやが――」


「グ、グガァアア、ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ヴゥゥウア"ァ"ア"ァ"」


 突如の異音。そのあまりに不気味な声に、腕利きの部下ふたりでさえ思わず躊躇いの色を瞳に宿す。

 直後――馬車を叩きつける幾つもの手、手、手、手、手、呻き声と打音が車内を反響するように飛び交う。


「く、なんなんだこれは! おい、お前たちなんとかしろ!」


「……わかりやした、俺が先に扉を開けて外に飛び出し様子をみます。お前はそこでボスを守っていろよ」


 言って一人が馬車の扉を少しだけ開き外の様子を探ろうとする、が、その瞬間青白く染まった腕が勢い良く伸びてきてその首を掴んだ。


「てめぇ!」


 叫び、もう一人がハチェットで腕を斬り飛ばした。

 だが、今度は生気のまるで感じられない顔が、押しこむように中へ入ってきて一人の頭に喰らいつく。


「な!? こいつら護衛の……何やってんだテメェ!」


 部下の一人は叫びながら再度ハチェットを相手の頭に振り下ろす、が――しかし確実に脳天を叩き割っているにも拘らず全く動きを止めようとしない。


「な、なんだよこれ! どうなってやがる!」

「ひっ! 馬車を突き破って! お、おい、早く! 早くなんとか、うわぁああぁあぁああぁ!」


「おお! やめろぉおおおおぉお! 俺を、俺を、喰うんじゃねぇえぇええぇええぇえ!」


 絶叫が外にまで溢れ出る中、黒い外套に身を包まれていたふたりが、その様子を観察し続けている。


「ふん、屑には相応しい最後だな」


「あぁ、そうだな。しかし発生してた瘴気溜まりは回収しておいてよかった。これでまた理想の武器に一歩近づいたよ」


 フードの奥でニヤリと口角を吊り上げるその男は、中央で頻繁に見かけられていた不審な男であった。


 そして――フードを軽く上げ、ギュリアが口を開く。


「それにしても、よもやカース様がここまで来られているとは思いもよりませんでした。一体どういう風の吹き回しで?」


「ふふっ、いい加減私も荒廃した帝都にこもり続けるのに飽きてきましてね。それにもうすぐ理想の呪いの武器が完成しそうなのですよ。呪皇帝が持ちし災厄の魔女が生み出した逸品より優れたものがね……しかしその為には生け贄が必要となる。あの街には今、私が創りし魔器を手にするものがふたり(・・・)存在する。だから私達もこのままアンデッドを増やし攻めこむとしましょう。な~に、このあたりにも素材となりそうな賊がかなり潜んでいる。それらを使えば攻めこむための不死の兵などすぐに出来るさ」


 カースはそう口にした後、手に持った杖を天に向け掲げた。 

 すると馬車の中からあのボスや部下のふたりもアンデッドと化して蘇り、彼らに付き従う。


「さぁ――宴を楽しみましょうか」






◇◆◇


「本当に、厄介事は重なるものなんですね」


 ヒカルとフォキュアがギルドに戻り件の事を報告すると、バストが頭を抱えて愚痴を零した。


「何かあったのですか?」


「あったなんてものじゃないですよ。何か昨晩から女性の変死体が街なかで何体も発見されてるんです」


「変死体?」


 フォキュアが眉を顰めつつ反問した。 

 女性が狙われるとあっては彼女も気が気でないのだろう。


「えぇ……それがね。その被害者の全員が原型を咎めてないほどに燃やされ炭化してるのよ。勇義士総出で調査に出てるんだけど、被害者が全員若い女性っていうのは判ったんだけど、一体なんでそんなことが起きてるのか、それが掴めなくて……」


「うぃ~っす。調査行ってきたぜ。しっかし本当にわけがわかんね、て! フォキュアじゃねぇか! 戻ってたのか!」


 バストとそんな話をしていると、そこへサルーサがギルドに入ってきて、喜色満面でフォキュアに近づいてくる。


 が、そこでピタッと脚を止め、ヒカルとフォキュアに挟まれた状態のレオニーに気がついた。


「なんだこのガキ?」


 怪訝な顔で口にするサルーサ。

 すると、どういうわけかレオニーがすっと後ろに下がりヒカルの膝に隠れ口を開く。


「パパ~ママ~、なんかレオニーこの人嫌だ……」


 レオニーが何故かビクビクした口調でそう述べるが。

 ただ、ヒカルは、あ、と顔を引くつかせサルーサの様子に目を向ける。。


「……パパ、ママ? ……はぁ?」


 当然のように、サルーサが反応し、こめかみに青筋を立て、みるみるうちに怒りの表情に変わっていく。


「あ、あのサルーサさん。パパ、ママといってもおふたりは……」


 なにかヤバイなと察したのか、事情を聞いていたバストが声を掛けるが時既に遅し。

 

 一瞬にしてサルーサがヒカルに詰め寄り、チュニックの襟首を掴みあげた。


「てめぇどういうつもりだ! よりにもよってパパだこらぁ! フオキュアに一体なにしてや、いてぇええぇええぇええええ!」


 そして怒鳴り上げるサルーサ。

 だが、突如背筋をピンっと伸ばし悲鳴を上げる。


 何故かとヒカルがサルーサの尻尾をみると、なんとレオニーが彼の弱点であるそれに噛み付いていた。


「パパを虐めるな!」


 そして口を放し、サルーサに向かって声を張り上げる。

 どうやらサルーサを、ヒカルに因縁をつける輩と勘違いしたようだ。

 だが、サルーサは痛みから立ち直ったその瞬間、脇から愛用のナイフを抜き出すと、容赦なくレオニーに向けて刃を振り下ろしていた――


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