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異世界で黒い悪魔と呼ばれています  作者: 空地 大乃
第三部 呪いの魔器編
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第一七話 誤解

「え? 黒い……悪魔――」


 呟くように言った後、フォキュアの黒目が動く、そしてその視線が穴から一〇メートルほど離れた位置で倒れている男の遺体に向けられた。


(ちょっと待て……もしかしてこれって……)


「こいつ、遂に、遂に人に手を出したわね!」

 

 激昂したフォキュアが飛び出しゴキブリ姿のヒカルに肉薄した。 

 そしてその手に持った剣を振り回す。


(ちょ、ちょっと待!)


 とにかくヒカルは一旦背後に飛び距離を取る。

 そんな彼を睨めつけ、フォキュアが怒鳴った。


「ヒカルはどこ! まさか、まさか! あんたヒカルまで!」


 誤解もいいところである。何よりその遺体だってヒカルが……やったといえばやったがそれは仕方のない事だ。


 しかし呪いの魔器はあの黄狐族に持ち去られてしまった。

 この状態ではフォキュアだって誤解に気づきようがないだろ。


 とにかくこのままではどうしようもない――そう考えたヒカルは。


「あ! くっ! また逃げるつもり!」


 そう、遁走である。 

 正体を知られるわけにも戦うわけにもいかない状況であれば、これしか手はないだろう。


 フォキュアの怒鳴り声を置き去りにヒカルはゴキブリダッシュで逃げる! 逃げる!


 そして軌道を変え、元の位置に大回りで駆け――ある程度のところで変身を解いた。






◇◆◇


「いや~参ったな~」


「ヒカル!?」


「あれ? フォキュア? 一体ドウシテココニ?」


 ヒカルは空々しく言う。

 気をつけているつもりでも棒読みになってしまうところが悲しいところだ。


「よかった無事だったのね!」


 だがフォキュアは安堵した表情でヒカルに駆け寄ってきた。

 良かった怪しんではないようだとほっとするヒカル。


 しかしそんなヒカルの顔をじっと見つめるは、レオニーである。


「れ、レオニーも来てくれたんだね」

「うん、レオニーちゃんもパパの事心配だって」


 ちょっと悪戯っ子ぽい表情で述べるフォキュア。

 しかし、フォキュアは怪我の事もある、ふたりでここまで来るのに危険はなかったのだろうか? と少し心配になったりもしたヒカルだが、そもそも何かあったならここまでは来れないだろう。


「パパ~」

 

 するとレオニーがヒカルを見上げながら発言。

 どうした~レオニー? と反問するヒカルだが。


「どうしてパパさっきおかしな格好してたの?」


「へ? おかしな格好?」


 フォキュアの頭上に疑問符が浮かぶが――


「えぇ! レオニートイレが我慢できないだって! そりゃ大変だ! パパと一緒にいこうねーー!」


「へ? 何言ってるのヒカル。トイレって……」


「フォキャアはちょっと待ってて! すぐ済ますから! さぁ早くいこうレオニー!」


 ヒカル、半ば無理やりレオニーの身体をお姫様抱っこの状態で持ち上げ、森の奥へと急いだ。


「……て! ちょっと待ちなさいよ! いくらパパと言ったってレオニーちゃんは女の子!」


 そんなフォキュアの声を置き去りにヒカルはとにかく彼女から見えない位置まで移動。

 そしてレオニーを下ろし、はぁ~、と息を吐き出す。


「パパどうしたの? レオニー別におトイレなんて」

「あ、あぁそれは判ってる。そんな事よりレオニー。その、なんだ、さっきの意味は何かなと思って」


「意味? あ! そうそう、パパなんであんな真っ暗な姿でいたのかな~と思ったの! その後また元のパパの姿で戻ってきたし~変なの~」


 完全にバレてる! とヒカルは動揺が隠せない。心の汗は大洪水だ。


「な、なんでパパとあの黒い怪物が同じだって思ったのかな?」


「え~、ん~、なんとなく!」


「いや、なんとなくって……」


「でもそうだよね? 気配とか同じだったもん!」


 け、気配、とヒカルは絶句する。

 どうやらヒカルは少々金獅族の特性を侮っていたらしい。

 

「……レオニー」


 な~に? と無邪気に小首を傾げるレオニー。その姿は愛らしいが、今はそんな姿に癒やされている場合でもない。


「……その、なんだ。実はパパはある特殊な任務についていて、その事は誰にも本当は知られちゃいけないんだ」


 ヒカルの言葉に目をパチクリさせるレオニー。

 果たして理解してくれるかといったところだが。


「……だからその事は皆には秘密にしておいてくれるかな? 勿論フォキュアにも」


「え~? ママにも~?」


「へ? ママ? よ、よく判らないけど、とにかくこれはレオニーとパパふたりだけの秘密だ!」


 ヒカルが念を押すように言うと、レオニーは、パパとふたり……と呟き、にへら~と顔を緩ませた。


「うん! 判った! パパとふたりだけの秘密だね! レオニー、ちゃんと守る~」


 レオニーが納得してくれたことで、取り敢えずヒカルも胸をなでおろす。

 そして頃合いを見てフォキュアの元へと戻った。






 ヒカルがレオニーと戻ると、ジト目のフォキュアが二人を迎える。

 な、なんか不機嫌? とたじろぐヒカルだ。


「……ヒカルって本当に幼女趣味があるわけじゃないわよね?」


「ち、違うよ!」


 どうやらとんでもない誤解を招いたようだ。

 そしてその誤解を解くのに少々の時間を要した。


「ふぅ、判ったわ。でもとりあえずこの状況を説明して欲しいのと、ヒカルはあの化け物はみた? さっき黒い悪魔がいたんだけど……」


「え? そ、そうなの? キヅカナカッタナー」


 後頭部を擦りごまかしつつレオニーをちらりと見る。

 口元がムズムズしていて危うくもあるが、言わないという約束は守ろうとしてくれてるみたいだ。


「そう……でも良かったわ。あの化け物、遂に人間にも手を出したみたいなのよ。みてよこの遺体」


「え? あ、でもそれはどうなんだろね。もしかしたら他にも原因があるかもよ~」


 原因? 訝しげにフォキュアがヒカルを見やる。

 実際ヒカルが倒した結果ではあるのだが、その事を当然いうわけにもいかない。


 なので、顔を引き締め、本題に入ることにする。

 どちらにせよそれは黙っているわけにはいかない。


「うん……あの穴はフォキュアみた?」


 穴? と彼女がヒカルの指差した方向に目を移し、そして、眉を顰めた。


「これってもしかして……瘴気?」


「そう、しかも大量にね」

 

 ヒカルが頷くとフォキュアが穴に近づこうとするが。


「ちょ! 危ないよ!」


「大丈夫よちょっとぐらい。それに勇義士として放っておけないわ」

 

 言って脚を早めるフォキャア。仕方ないなとヒカルも一緒に行こうとするが……ふと小さな手がヒカルの脚を組み付いてくる。


「……嫌、パパ、レオニー。あれ、嫌だ……」


 突如表情を暗くさせ、レオニーが訴えた。

 それでヒカルはハッとなる。

 瘴気病……それでレオニーの母は死んだ。

 その原因である瘴気に忌避感を抱くのは当然だろ。


「ヒカル、こっちは大丈夫。様子を探るだけだし、レオニーちゃん見てて」


 どうやらフォキュアもそれを察したようだ。

 仕方ないなと、フォキュアを信じてその場でレオニーと待つ。


「ママ、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ心配してくれてありがとねレオニーちゃん」


 へ? と思わず間の抜けた声。 

 そしてヒカルの背後に隠れるようにしながらフォキュアを覗き見るレオニーと、そしてフォキュアを交互にみやり、

「マ、ママってフォキュアの事!?」

と素っ頓狂な声を上げる。


「ば、馬鹿! 勘違いしないでよね! ママって、れ、レオニーちゃんのママにって話で、ヒカルとそういう、そういうんじゃないんだから!」


 いつの間にか妙な話になってるな、とヒカルは苦笑するが、なんとなく話は読めた気がした。

 それにしても慌てた様子のフォキュアは可愛い。

 ヒカルからしたら本当のママになってもらっても問題ないぐらいだ。寧ろなってほしいとさえ思えるぐらいである。


 そしてフォキュアは穴の周囲と中を覗き込むように観察した後、二人のもとに戻ってきた。


「駄目ね。これは私やヒカルでどうにかなる問題じゃないわ。でもウルフェンがなんで出没したかは判ったわね。明らかにこの瘴気溜りのせいよ。全く多少の瘴気漏れは心配ないなんて言っておきながら、こういうのが出来るんだから魔術師は信用出来ないのよ……」


 後半はどこか独り言のような感じではあったが、とりあえずフォキュアにもウルフェンが現れた原因はつかむことが出来たようだ。


「その瘴気溜まりっていうのは結構出現するものなのかな?」


 ヒカルは気になったので訊いてみる。今回の件に関してはこの物言わなくなった男ではあるのだが、ソレ意外にも事例があるのか気になった形だ。


「ここまで酷いのは中々ないけどね。洞窟とかちょっとした空間に溜まる事があるのよ。ヒカルも知ってると思うけど中央では大量の瘴気が渦巻いていてね。それは壁と魔術師の障壁で食い止めてはいるんだけど、全ては無理で少しずつでも漏出してるの。当時は担当した魔術師がそんな僅かな瘴気で人体が害されることも、土地に悪影響を及ぼすこともないなんて言ってたんだけど、それがここ数年で、その、瘴気の悪影響や、瘴気溜まりなんかが発見されるようになってきてるの」


 正直中央の事についてそこまで詳しくはないヒカルではあったが、この国では常識なようなので相槌は打っておいた。

 瘴気の悪影響について詳しく言わなかったのはレオニーに気を使ってのことだろう。


「でも、逆に言えばまだ運が良かったわね。この瘴気量で出現したのがウルフェンだけで、村も家畜が襲われたり、畑が荒らされた程度なら、御の字かも。勿論村からしたらたまったものじゃないだろうけど……」


 そういいつつも頭を抱えるフォキュア。

 どうやらこの瘴気溜まり、ヒカルが思っているよりも厄介な代物らしい。


「とにかく、この遺体の件も含めて一旦持ち帰りね。ギルドに伝えて至急瘴気除去のために専門の魔術師を要請して貰わないと……はぁ村にも報告にいかないといけないし、厄介ね本当!」


 折角の綺麗な髪が乱れるのも気にせず、ガリガリと頭を掻くフォキャア。

 

 そしてとにかく急ぐわよ! と声を上げ先ず村に戻ることになった。

 

(な、なんか結局フォキュアに主導権握られてるな俺……)


 そんな事を思いつつも、ヒカルはレオニーと一緒にフォキュアの後を追うのだった。

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